欧州の視点
今夜から英国でG7サミットが開かれる予定です。
バイデン大統領も初の外遊でこのサミットに参加します。
このサミットについては、日本のメディアでもしばしば取り上げられており、ワクチン、東京オリンピック、中国問題などが取り上げられると報道されていますが、欧州側の関心時は何でしょうか。
仏紙Les Echosがサミットについて「G7 : les dossiers chauds de Biden en Europe」(G7:ヨーロッパにおけるバイデンとのホットな討論)と題した記事を掲載しました。)
このタイトルが表す様に、欧州はこの会議をバイデン大統領との対話の機会と捉えている様です。
Les Echos記事要約
中国、ロシア、ワクチンそして貿易政策:米国はG7および欧州連合の加盟国から多くの問題について期待されています。
ワクチン:水曜日にエアフォースワンに搭乗する前に、ジョー・バイデンは、世界にワクチンを接種する「戦略」があり、それを発表すると述べました。
米国大統領は国内で予防接種を強化することに成功しました。
米国内で既に摂取された3億回と比較すると控えめな数字ですが、6月末までに8000万回分のワクチンを米国は輸出する予定です。
欧州連合は、事前協議なしに米国から提案されたワクチンの特許免除に反対し、代替案を提示しました。
中国:バイデン大統領の中国に対する貿易および産業政策は、彼の前任者であるドナルド・トランプとの数少ない共通点の1つです。
高関税、中国企業のブラックリストを維持しつつ米国が世界チャンピオンであり続けることを確実にするために、米国大統領は「歴史的」に巨額な研究開発への投資を議会に求めています。
しかし、バイデン大統領は、中国の脅威的な台頭に対抗して、ヨーロッパのパートナーや他の民主主義国家を結集しようとすることで、前任者とは一線を画しています。
バイデン大統領は、中国がその堅調な経済とワクチン外交を利用して、米国の経済的覇権に挑戦しようとするまさにその時に欧州を訪問します。
関税と課税:欧州連合の国々も米国の報復関税の対象となります。それらを緩和するために対話が開始されます。
別の論争は課税に関連しています。
彼らの領土であるフランスで活動しているデジタル巨人に対するヨーロッパ諸国の課税に直面して、フランス、イギリス、イタリア、スペインは米国による商業的報復の脅威にさらされています。
アメリカの報復は当面行われないでしょう。
米国政府は、G7財務大臣が合意する新しい国際財政枠組みを確立するために、OECD内で進行中の交渉の結果を待とうと考えています。
OECDで合意が成立した場合、米国政府はその決定に従う事になるでしょう。
ロシア:米露の間の緊張はかつてないほど強くなっています。
サイバー攻撃の告発、ロシアの反対勢力に対する弾圧、ベラルーシの危機、ウクライナの和平プロセスの行き詰まり、長く外交的論争となっている建設中のパイプライン、ノードストリーム2は言うまでもありません。
ロシアのラブロフ外相は、6月16日のプーチン大統領とバイデン大統領のジュネーブ・サミットに関して、「私たちは自分自身を欺いてまで、歴史的な決定を行なおうとしているわけではない。」と発言しました。
優先順位は米露摩擦のエスカレーション解除に置かれています。
「クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプと首脳会談を過去に行ったプーチンはベテランのように見えますが、バイデンはプーチンが目にする最も経験豊富なアメリカ大統領です。そして、プーチンはそれを認識しています」と、モスクワのロシア評議会シンクタンクのディレクターであるアンドレイ・コルトゥノフは述べています。
ビザ:2020年3月以来、ヨーロッパからの旅行者は米国への入国を禁止されており、これは「科学」に基づく決定であるとホワイトハウスは述べています。
アメリカ人観光客に国境を開放したばかりの欧州連合は、「互恵」を求めています。
「私たちはヨーロッパとイギリスの友人たちの願望を明確に認識しているが、私たちは科学と公衆衛生の専門家のアドバイスに従わなければならない」と国家安全保障顧問は月曜日に答えました。
この件は、米国で就労ビザを保持しているヨーロッパ人にとって特に重要であり、現在欧州は「旅行禁止」の対象でもあるため、2つのゾーン間を往復することができません。
政治的ショーであるG7
仏紙の報道を見ていますと、彼らは今回のG7をバイデン大統領との初めての直接の対話の機会と捉えていることがわかります。
日本やカナダは眼中にありません。
会議で取り上げられる議題の優先順位も日本で報道されているものとはかなり異なる事がよくわかります。
特に特徴的なのは、ロシアが欧州にとって重要課題になっている事です。
欧州にとって最も厄介な相手はロシアであり、中国は距離的に遠いこともあって、ロシアほど敵視する相手ではないのです。
仏紙の記事には台湾の文字は一つも見当たりません。やはり台湾よりクリミア半島の方が欧州にとって重要なのでしょう。
バイデン大統領が中国問題に関して、欧州諸国より同意を得られるか注目しましょう。
百戦錬磨の欧州は中国問題と他の問題を絡めて、米国から譲歩を勝ち取ろうとするでしょう。
例えば「台湾問題では米国に足並みを揃えるから、ロシア問題ではノードストリーム2の建設に目をつむってくれ。」とかです。
欧米の間の駆け引きの結果、中国への政策がぶれない事を祈りたいと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。