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ロシアとの関係正常化に打って出るかバイデン大統領

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米露トップ会談

英国で行われたG7サミットの後、バイデン大統領はジュネーブでプーチン大統領と首脳会談を行う予定です。

バイデン大統領は米国上院の外交委員長を務めた経歴から分かる通り、外交のプロであり、ロシア史上最長の期間大統領に君臨するプーチン大統領に負けない外交経験の持ち主です。

ここで何が協議されるのでしょうか。

G7サミットの直後にこの首脳会談が設定された意味はどこらへんにあるのでしょうか。

米誌Foreign Policyが「Asia’s Stakes in the Biden-Putin Summit - Geopolitical shifts have put a U.S.-Russian detente in the interest of much of Asia.」(バイデン・プーチン首脳会談におけるアジアの利害関係 - 地政学的な変化により、米露のデタントがアジアの多くの国の利益に)と題した論文を掲載しました。

著者はシンガポール国立大学教授のRaja Mohan氏です。

Foreign Policy論文要約

中国が来週のジュネーブでのバイデン大統領とプーチン大統領の首脳会談を心配しながら注目している一方、インドは彼らが仲良くする方法が見つかることを期待しています。

米露のより良い関係はインドがますます攻撃的な中国とのバランスをとることを容易にするでしょう。

インドは米露のデタントに特に熱心かもしれませんが、インドだけではありません。

アジアの多くの国々が、独立したロシアの役割が、米中の新たな対立において、彼ら自身の利益になると信じています。

 

しかし、懐疑論者は、米露双方がサミットへの期待を軽視しており、複数の困難な問題が米露関係を妨げ続けていると指摘しています。

米国がロシアを中国から引き離すことへの中国の恐れが非現実的であるならば、アジアの他の国々が米中露間の三角関係のリセットを期待することは同様に非現実的かもしれません。

しかし、この大きな戦略的三角形を単に緩めるだけでも、アジアの地政学に重大な結果をもたらす可能性があります。米露のデタントの直接の影響はヨーロッパにあり、それはアジアに重大な影響を与えるでしょう。

 

ヨーロッパの安全保障秩序は、長い間、米国とロシアの間で争われてきました。

1991年のソビエト連邦の崩壊は、ロシアと西側の間に10年間の相対的な安定をもたらしましたが、世紀の変わり目頃には、両国間のヨーロッパにおける緊張は再度高まりました。

2014年にロシアがクリミアを併合した後、緊張関係は南に向かいました。

 

バイデンが大統領就任後早い段階でプーチンとの首脳会談を行うとの決断を行ったことは、彼が中国からのはるかに大きな挑戦と新しい地政学的争いに対してヨーロッパの支援を動員する必要性を感じ、ロシアとの関係を新たに見直そうとしている事を示唆しています。

バイデン大統領は、米国がロシアと中国の両方に同時に立ち向かうことができ、また立ち向かわなければならないというワシントンの常識を覆す準備ができているように見えます。

従来の考え方では、中露は非常に緊密な関係を有しているため、バイデン政権が、たとえ試みたとしても、両国を分離させるのは難しいと考えるでしょう。

しかし、ロシアとの緊張を緩和することで、ヨーロッパがアジアにもっと注意を向け、中国のバランスを取るための米国の努力を後押しすることが容易になるはずです。

インドは、日本とともに、英国を含むヨーロッパの大国をアジアの安全保障秩序に引き戻すための努力を強化しています。

欧州連合と主要加盟国はインド太平洋への新しいアプローチを検討し始めており、中国の自由民主主義への挑戦という問題を認識していますが、アジアの安全保障への潜在的な貢献は、ロシアからのより近接した脅威によって制限されています。

 

ロシアと西側の間の妥協は間違いなく両方の利益に役立ちますが、誰もそれが手の届くところにあるとは思っていません。

米国内では、ロシアとの前向きな関係に対する政治的支援はほとんどなく、ヨーロッパではロシアへの対処方法について意見はばらばらです。

しかし、状況によっては、不可能と思われることを国がしなければならないことがよくあります。

ロシアと西側の間の紛争の一時停止でさえ、ユーラシアの地政学の潜在的な再編成の舞台を用意する可能性があります。

ロシアのことをあまり気にしなくて良いヨーロッパは、アジアでより大きな役割を果たすことができます。

ロシアがヨーロッパにとって大きな脅威である一方、中国はアジアの地平線上で台頭する覇権国です。

ワシントンの多くの人々は、ロシアがアジアにおいて西側に利益をもたらせるかどうかについて懐疑的です。

今日のロシアと中国との関係は緊密であり、ロシアはそれを強化することを熱望しています。

彼らの協力の構造は深く包括的です。

米国とヨーロッパがロシアに容認できる好条件を提示したとしても、ロシアがその見返りに中国との強い結びつきを交換したいと思う可能性は小さいでしょう。

 

しかし、ロシアはまだ中国と同盟関係になく、ロシアが中国のジュニアパートナーになると推測すべきではありません。

ロシアが米国と和平を結び、ヨーロッパとの新たな政治的適応を見つけた場合、ロシアはインド太平洋における中国の立場に縛られることなく、アジアの安全保障における自律的な役割を取り戻す可能性が高くなる可能性があります。

 

少なくとも、中国に縛られていないロシアは、ここ数年中国に対する不安が急激に高まっているインドと日本の希望です。

これまで西側ではロシアのデタントを受け入れる人が少なかったですが、バイデンはインド太平洋に対する米国の戦略を強化する際に、その可能性を探求することに積極的であるように思われます。

 

インドは、中国、ロシア、米国の戦略的三角関係を変えることに異論はありません。

インドは1950年代にこの三カ国すべてとの良好な関係を模索していましたが、1960年代のチベットと領土問題をめぐる紛争と1970年台の米中の接近により中国との関係は悪化しました。

インドは、それ以来、中露パートナーシップの拡大や米国とインドの間の新たな戦略的関係作りなど、大国関係の変化を通じて、ロシアとの緊密な関係を維持しようと努めてきました。

しかし、過去数年間に米露間で増大した敵意は、インドの行動の自由を圧迫し始めました。

ロシア製のS-400高度防空ミサイルのインドによる買収によって引き起こされた、米国の制裁措置の可能性ほど、難問を示すものはありません。

これは間違いなく、米印関係に暗い雲を投げかけるでしょう。

 

一方、インド政府は、インドの米国との戦略的パートナーシップの深化にますます不快になり、インド太平洋戦略と日米豪印戦略対話(クワッド)に批判的なロシアとも問題を抱えています。

インドはまた、ロシアの外交的計算における中国の新たな重要性と、インドの安全保障に対するその長期的な影響について深く懸念している。

米中関係が複雑になる一方で、インドとロシアは彼らの関係を保持したいと思っています。

インドは依然として西側とのロシアの紛争に踏み込むことに消極的であり、ロシアは2020年春に始まった高ヒマラヤでのインドと中国の間の軍事的対立に、熟慮の上中立性を維持しました。

中国との紛争の間にインド軍が切望した軍備をロシアはインドに供給し続けました。

 

インドの利益がロシアとの既存のパートナーシップを維持することである一方で、日本はこれまでのところ成功していませんが、ロシアに近づくことに努力してきました。

インドと日本はどちらも、中国によって打ち砕かれたインド太平洋の均衡を回復するために、ロシアの中立性、あるいは支援は非常に価値があると考えています。

 

アジアで行われている二極再編の中で、アジアの他の国々も、この地域におけるより大きなロシアの役割に期待しています。たとえば、ベトナムは過去のロシアとのつながりを維持することを熱望しており、南シナ海での中国の膨張主義に対してロシアが保護を提供することを望んでいます。

東南アジア諸国連合は、ロシアを地域の多国間秩序に引き込むことに長い間熱心でしたが、ロシアのアジアシフトの限られた影響にこれまでのところ失望しています。

これは、ロシアと欧米が対立しなくなり、ロシアがアジアおよびインド太平洋における中国の政策から距離を置く場合、おそらく変わる可能性があります。

 

1970年代に、当時のニクソン大統領とキッシンジャーが中国との関係を正常化すると想像した人はほとんどいなかったでしょう。

それはアジアに大規模な構造的影響をもたらしました。

ロシアとの関係を正常化するというバイデンのもくろみは成功しない可能性があります。

ロシアは中国の様にアジアの地政学の中心ではないため、成功したとしても、同様の影響はないと思われます。

1970年代でさえ、アジアにおけるソビエト連邦の影響力は限られていました。

そして、1970年代に米国が北京との関係を正常化し始めると、ロシアはアジアでさらに疎外されました。

今日、ロシアは中国や米国よりもはるかに弱いです。

それでも、朝鮮半島からアフリカの一部まで、ロシアがインド太平洋のさまざまな地域で何らかの影響力を保持していることは間違いありません。

とりわけ、アジアではセキュリティの強化が強く求められており、ロシアは重要な安全保障の提供者あるいは破壊者になる可能性があります。

ロシアがインド太平洋の安全保障を破壊するのではなく提供者になる事は、米国、ヨーロッパ、そしてアジアの多くの利益のためです。

したがって、アジアは来週のトップ会談を注意深く見守っています。

漁夫の利を狙うロシア

ロシアは大国意識の強い国です。プーチン大統領が人気があるのも、あの強権的な手法が、ロシア帝国時代の皇帝を彷彿とさせるからだと思われます。

彼自身も歴史上の英雄であるピョートル一世を崇拝しており、執務室にピョートル1世の肖像画がかけられていると言われています。

ちなみに過去500年のロシアの英雄の中で最も偉大なのは誰かというアンケートの結果によれば、第三位がプーチン、第二位がピョートル大帝、そして第一位は何とあのスターリンだそうです。

ソ連を解体し、ノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフは最下位に沈んだそうで、ロシアのリーダーに対する評価は国の内外で逆転している様です。

そんな大国意識の強いロシアが中国のジュニアパートナーに甘んじるなんて事は、彼らのプライドが許しません。

中露両国は長い国境線を共有していますので、基本的には仲が悪いのです。

バイデン政権の作戦は、中露の間にくさびを打ち込み、中国を孤立させるというものだと思います。

米国の本音は「ロシアが米国を追い抜く可能性はない。しかし、中国とロシアが一体化すれば危険だ。特にロシアの軍事力はやっかいだ。中露を切り離そう」というものだと推測されます。

今回のG7報道を良く読んでみますと、殆どロシアは出てきません。中国に対する厳しい批判に比べると対照的です。

中露の仲を裂くためなら、バイデン大統領は幾つもの飴を用意している筈です。それはロシアとドイツを結ぶガスパイプラインの容認、シリア等中東での軍事協力、経済制裁の緩和等がこれにあたります。

ロシアはロシアでしたたかですから、中国との関係をちらつかせながら、バイデン氏から最大限妥協を引き出そうとするでしょう。

G7で欧州の首脳と米露トップ会談の地慣らしを行ったバイデン大統領の賭けにプーチン大統領は乗ってくるでしょうか。注目です。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。