ソ連とは違う中国
先日、中国共産党は100周年を祝いました。
現在、中国は世界第2位の大国となり、米国を脅かす程の力を得るに至りました。
旧ソ連邦が崩壊した時に、中国はその次だと予言した人が多かった事を思い出します。
しかし、中国はソ連の二の舞を踏みませんでした。
その違いは何だったのか。
中国はいずれ行き詰まると断定的に主張する人もいますが、中国が何故これだけ発展してきたのか冷静に評価すべきではないかと思います。
昔、ソ連時代のモスクワを訪れた時に、日用品や基本的な食料さえ店頭から消えた商店を訪れて、社会主義経済というのはかくも機能しないものかと思いましたが、現在の中国は違います。
同じ一党独裁でも似て非なるものではないかと思います。
私は共産主義に与するものではありませんが、中国がソ連や他の東欧社会主義国とどの様に違うのか客観的に分析する必要を感じています。
この観点から米誌Foreign Policyが「The CCP’s Greatest Strength Is “Self-Reinvention”」(中国共産党の最大の強みは「自己再生能力」である)と題した論文を掲載しました。
著者は上海在のベンチャーキャピタル経営者で政治学者のEric Li氏です。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy論文要約
今週、中国共産党は100歳になりましたが、ふけこみましたか、それともまだ若いですか?
中国の将来いや世界の将来は、この質問への答えにかかっています。
党と中国の政治体制についての懸念がどうであれ、党が成功しなかったと主張するのは難しいです。
1949年、中国は貧しく、部分的に植民地化され、国民の平均寿命は41歳でした。
今日、G7諸国は中国を強力な競争相手と見なしています。
そして中国共産党はこれを14億人の規模で行ないました。
この成果は比類のないものですが、党はそれを継続できるでしょうか?
そしてどのくらい長く?
私は、党が現在、100年の歴史を持つ組織を国の若者に主導させると言う重要な更新プロジェクトに取り組んでいることをお伝えしたいと思います。
世界はこの重要な進展を見逃しているかもしれません。
長い間世界最大の国の舵取りを党に任せてきたのは、中国共産党に2つの永続的な特徴があるからです。
それは自己実現と自己改革です。
自己実現の最重要課題は、社会主義と国家再生という2つの最優先の目標でした。
それは、中国が苦しんだ外国の侵略と貧困の屈辱的な運命を変え、繁栄し、強く、社会主義的な社会を構築し、世界の主要国の中でその正当な場所を得る事でした。
2つ目の特徴である自己改革は、党のキラーアプリです。結局のところ、党はすでに2つの歴史的な自己改革を行い、現在、三つ目の改革が進行中です。
1つ目は、党が1949年に革命的な戦闘集団から統治機関に変身したときでした。
2つ目は、1979年に始まった鄧小平の改革であり、中国の閉鎖された計画経済を、世界経済と深く統合された今日の巨大市場経済に変えました。
これらは、党がソ連の辿った運命を回避するのを助けました。
そして過去5年から10年の間に、党は新たな自己改革を行おうとしています。
この自己改革の最も重要な出来事は、2017年の第19回党大会でした。
その後、中国は、経済発展のひたむきな追求から「バランスの取れた発展」と「共通の繁栄」へのパラダイムシフトを公式に宣言しました。
中国の政治用語集では、これは富の再配分を意味します。
鄧氏の改革が経済成長において目覚ましい成果を上げてから30〜40年の間に、新たな課題も浮上しました。
つまり、政治的腐敗、富の不平等、環境の悪化です。
政治腐敗は、5年前の第18回党大会後から最も激しく取り組まれましたが、戦いは続いています。
この自己改革は、若者の間で起こっている重要な社会的傾向と一致しています。
1990年代及び2000年代に生まれた人々は、前の世代とは質的に異なります。
4億人に及ぶ彼らは、中国の未来のバックボーンを形成します。
彼らは教育を受けて育ち、繁栄する中国で育ちました。
私の世代は主に中国の貧困に関心があり、その結果、市場経済に焦点を当てていましたが、彼らは、中国社会の主な課題は不平等に根ざしていると考えています。
重要な兆候は、中国の若者の資本と市場に対する認識が否定的になり、社会主義と共産主義への支持が著しく高まったことを示しています。
以前の自己改革では、党は計画経済マネージャーから市場経済学に基づく開発の先駆者である連立政権に変身しました。
今、党は、その政治的基盤の中でより公平な社会を構築するという目標の下、社会主義と富の再分配に向けてシフトしています。
最近の最も着目すべき行動は、国全体の極貧者を解消するという前例のない取り組みでした。
キャンペーンは2012年に始まり、2015年に加速しました。
最後の9,900万人を貧困ライン以上に引き上げるのに8年かかりました。
これは中国の歴史全体で初めてのことです。
この使命を遂行するために、何百万人もの党幹部が過酷な条件下で遠隔地の農村部や山岳地帯の貧困の最前線に行きました。
最近のカウントでは、1800人以上の党員が当番で命を落としました。
同時に、政府は独占企業を積極的に抑制しています。
最も有名な例は、AlibabaのAntFinancialのIPOの直前のキャンセルでした。
独占禁止法のより厳格な施行が今や当たり前になっています。
目標は、一般に公益、特に労働者の利益を、大規模なプラットフォーム企業による搾取から保護することです。
このパラダイムシフトには、重大な課題とリスクもあります。
中国の若い世代は、不平等を是正するだけでなく、経済的機会が彼らの生活水準を改善し続けることを望んでいます。
後者は、さらなる持続的な経済成長なしには不可能です。
富の再分配を行うすための政策が誤った方向に向けられた場合、成長に不可欠な起業家のインセンティブを妨げる可能性があります。
別のパラダイムシフトも中国の若者の間で起こっています。
それは中国の世界、特に西側に対する認識です。
トランプの時代は、何十年にもわたって彼らが持っていた認識とは劇的に異なっていたアメリカを中国人に示しました。
新世代は、統治が不十分で、不平等の問題が中国よりもひどく、政治が機能不全に見え、社会が二極化し、それが敵対していると欧米を分析しています。
この世代は、前の世代と比較して、自分たちの国にはるかに自信があり、愛国心が強いです。
最近の出来事は、この傾向を強化するのに役立ちました。
1つはパンデミックで、中国の迅速な封じ込めは他の国とは対照的でした。
もう1つは、中国に対する西側の敵意の高まりです。
中国国民は、汚職から人権に至るまで、多くの問題について西洋の批判に長い間慣れています。
実際、そのような批判は、特に商業的および知的エリートの間で、中国国民の中である程度の共感または支持さえも持っていました。
しかし、最近は、西側の政治家やメディアによる中国の扱いは、誇張が多く、中国のさらなる発展を封じ込めようとする試みとして広く認識される様になりました。
特に若者は、必ずしも自分たちの生活と一致しないと西洋による中国の報道を見ています。
そして、多くの人が信じられないほどの怒りを示しています。
中国に対する西側の攻撃を引き起こしている2つの主要な問題、新疆ウイグル自治区と香港について、中国国民の大多数、特に若者は中国政府に同意します。
そのため、若者は、西洋のブランドや個性に対してオンラインボイコットを定期的に呼びかけています。
確かに、中国の若者は、中国自身の発展の道を追求するという党の長年の目標の最も強力な支持者になることを目指しています。
最新データによると、政府のリーダーシップに対する中国国民の満足度は驚くべき90%に達しています。
カリフォルニア大学サンディエゴ校による最近の調査によると、政府への支持は若い回答者の間で最も急増しました。
2019年には、大学生の80%近くが党への参加に関心を示しています。
これはすべて、おそらく西側の読者にとっては驚きです。
今後、党は、中国の若者のエネルギーと願望を、生産的な社会主義に向け、過度のポピュリズムや狭量なナショナリズムから遠ざける必要があります。
これができれば、中国の新世代の物質的かつ精神的な願望は満たされ、その結果、党は今後も長い間権力を維持することができます。
成功は保証されません。
しかし、私はそれが失敗する方には賭けません。
侮れない中国システムにもアキレス腱が
西側のメディアで、中国共産党について好意的な記事はまれです。
確かに党大会の議決などを見ると全員賛成があたりまえで、少数意見が反映されていない、一党独裁の弊害が出ているとの印象を受けますが、実はこの結論が出るまでに、党内で激しい意見対立が繰り広げられている様です。
要するに共産党に対する野党は存在しませんが、党内野党はいるという事です。
この党内対立がこの論文の筆者が言う共産党の自己改革を可能にしてきたものと思います。
鄧小平は文化大革命を生き延びましたが、運が悪ければ毛沢東一派に処刑されていたかも知れません。
命をかけた権力闘争が中国共産党の中で展開されている事は事実です。
一方、この激しい党内対立が、党内の自浄作用にもなり、行き過ぎた政策の暴走を防ぐ安全弁になっていることも否めません。
中国共産党は、時代に合わせて自己改革ができる強力なライバルである事を西側は十分認識すべきと思います。
彼らのシステムに弱点があるとすれば、強力な独裁者が登場した場合に、これを止める術が見当たらないと言う事でしょうか。
選挙のない国では独裁者の暴走を止める方法はありません。
これが中国システムが抱える最大のアキレス腱だと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。