専門家の予想を覆す景気上昇
新型コロナの感染が始まった頃、多くの専門家はリーマンショック級の経済恐慌が起きると予言しました。
しかし、実際は全く逆で、米国では、好景気が訪れ、失業率は低下し、株価は史上最高値を更新しました。(日本ではあまり景気回復感ありませんが、欧米諸国は回復しています。)
経済恐慌が起きなかった理由は、各国政府が機敏に対応し、大規模な経済刺激策を打ったことが一番大きかったと思いますが、今後世界経済はどうなるのでしょうか。
各国政府がこれだけ大規模な刺激策を打ち、市場に大量のお金を投入したつけは来ないのでしょうか。
この点について、英誌Economistが「The new fault lines on which the world economy rests」(世界経済が抱える新たな断層線)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
新型コロナは恐ろしい景気低迷を引き起こしましたが、今では奇妙な事に経済ブームが訪れています。
石油価格が高騰する一方で、レストランや運送会社はスタッフを確保するために苦労しています。
上場企業が今年、利益が過去最高を記録することが示唆するように、株式市場は活況を呈しています。
JP Morgan Chaseが作成したインデックスは、世界的な成長が2006年以来最高のレベルに達する事を示唆しています。
新型コロナからの脱出は喜ばしい事です。
しかし、今日活況を呈している経済は、3つの断層線を抱えているため、不安もあります。
この断層線は誰が繁栄するか、経済回復が持続するかどうかを決定します。
最初の断層線は、ワクチン接種が進んだ国とそうでない国との間にあります。
予防接種を受けている国だけが新型コロナを克服することができます。
それは、店舗、バー、オフィスが恒久的に再開し、顧客や労働者が自信を持って家を出るための条件です。
しかし、ワクチンの初回投与を受けたのは世界中で4人に1人だけで、二回受けたのは8人に1人だけです。
2番目の断層線は需要と供給の間を走っています。
半導体の不足は電子機器や自動車の製造を混乱させました。
中国からアメリカ西海岸への商品の輸送コストは、パンデミック前のレベルから4倍になりました。
これらのボトルネックが解消されたとしても、新たに開放された経済は新たな不均衡を生み出します。
一部の国では、人々は酒場で働くよりも飲み物を飲みたがっているように見え、サービス部門で構造的な労働力不足を引き起こしています。
住宅価格は高騰しており、家賃もまもなく上昇し始めることを示唆しています。
それはインフレを継続させます。
最後の断層線は、景気刺激策です。
ある時点で、昨年開始された国家の介入はいつか中止しなければなりません。
先進国の中央銀行は、パンデミックが始まって以来、10兆ドル(1,100兆円)を超える資産を購入しており、今後急速な引き締めによって資本市場にショックを引き起こさない方法を慎重に検討しています。
一方、失業保険や住居立ち退き猶予などの緊急政府援助制度は失効し始めています。
家計が2022年に「景気刺激策」の新たな注入を受ける可能性は低いです。
家計の赤字は、成長を引き下げます。
これまでのところ、破産の連鎖は回避されてきましたが、緊急融資の期限が到来し、労働者が納税者の費用でレイオフされなくなった後、企業がどれだけうまく対処できるかは誰にもわかりません。
パンデミックのような極端な出来事が、それに対する前例のない政府の対応と組み合わさって、最終的に極端な反応を世界経済に引き起こすと思うかもしれません。
悲観論者は、1970年代スタイルのインフレへの復帰、金融危機などを心配しています。
そのような終末論的な結果にはならないでしょう。
代わりに、3つの断層線が異なる経済でそれらがどのように相互作用するかを調べることが重要です。
アメリカから始めましょう。
豊富なワクチンと莫大な刺激策で、現在景気過熱の最大のリスクにさらされています。
ここ数ヶ月、インフレは1980年代初頭以来見られなかったレベルに達しています。
経済活動の変化に伴い、労働市場は緊張状態にあります。
6月に85万人の雇用が増加し、空室が多かった後でも、レジャーやホスピタリティで働く人々の数は、パンデミック以前より12%減少しています。
労働者は賃金を押し上げている業界に戻ることを躊躇している。
時給は2020年2月より約8%高くなっています。
9月に緊急失業手当が切れるときに戻ってくるかもしれません。
しかし、オーストラリアのようにそのような手当てのない国々も労働力不足に直面しています。
仕事への態度は、ウェイターや掃除人など、収入の最下部で変化している可能性があります。
これはすべて、アメリカ経済が熱くなる事を示唆しており、政策を強化するよう連邦準備制度(FRB)に継続的な圧力をかけます。
一方先進国の他の場所では、それほど活気がありません。
接種が人口の15%に満たない日本のようないくつかの「ワクチン接種が進んでいない国」が含まれています。
ヨーロッパはワクチンでは追いついていますが、景気刺激策が小さいということは、インフレがアメリカのレベルに達していないことを意味します。
英国、フランス、スイスでは、従業員の8〜13%が5月末に一時解雇制度を継続しました。
これらすべての経済において、リスクは、政策立案者が一時的な輸入インフレに過剰反応し、支援を迅速に撤回することです。
もしそうなれば、2007-09年の金融危機後にユーロ圏が苦しんだように、彼らの経済は苦しむでしょう。
低中所得国は苦しんでいます。
彼らは商品や工場製品に対する世界的な需要の急増から恩恵を受けるはずですが、インドネシアは、デルタ変異株と戦っており、酸素を工場へではなく病院に再配備しています。
2021年には、ワクチンが絶望的に不足している最貧国は、先進国よりもゆっくりと成長すると予測されます。
新型コロナが経済回復を弱める一方で、新興市場はFRBの金利上昇の見通しに直面しています。
これは、通貨安の圧力をかける傾向があり、金融不安のリスクを高めます。
ブラジル、メキシコ、ロシアは最近金利を引き上げており、さらに多くの国が続く可能性があります。
ワクチン接種が遅れることと金利引き上げが早すぎる組み合わせは経済にダメージを与えます。
避難する準備をする
景気はわずか1年で不振を脱しました。
おそらく2022年の夏までに、ほとんどの人がワクチン接種を受け、ビジネスは新しい需要パターンに適応し、景気刺激策は整然と終了する事でしょう。
しかし、この奇妙な景気回復においは、これらの断層線に注意してください。
景気加熱に要注意
日本はEconomistの定義によれば「ワクチン接種が進んでいない国」に分類されているんですね。
OECD加盟国の中で下から4番目の接種率ですから仕方ありませんが、これが景気回復の遅れにつながらなければ良いのですが。
一にも二にもワクチン接種を急ぎ、通常の生活に戻らなければなりません。
この記事が唱える三つの断層線のうち、最も気になるのは3番目の景気刺激策です。
世界中の政府がパンデミックによる景気停滞を避けるために、過去に例がないほどの景気刺激策を打ちました。
その総額は1,100兆円だそうですが、これは日本のGDPのほぼ2年分です。
これだけのお金が市場に流れ込んでいるのですから、株価が上がるのは当たり前です。
この揺り戻しが起こる可能性はあると思います。
米国では巣篭もりの生活を余儀なくされた人々がオンラインで株式投資を始めたのも株式相場を上昇させた一因と言われています。
世界三大投資家の一人に数えられるジム ロジャース氏が「株で稼ぐなんて簡単だと素人投資家が思い始めた頃が、株式暴落のタイミングだ。」と語っていましたが、そういう可能性はあると思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。