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EUの地球温暖化対策の衝撃

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世界を驚かせたEU地球温暖化対策

昨日、EUから新しい地球環境対策の概要が発表されました。大幅な地球温暖化ガス削減にとどまらず、その思い切った内容は世界を驚かせました。

特にハイブリッド車含むガソリン車、ディーゼル車の販売を2035年以降禁止するとか、地球温暖化対策をあまり施していない国からの輸入物に税金を課すと言った点については、これから大きな論議を呼ぶことになりそうです。

今回の対策に関する英仏メディアの報道をご紹介したいと思います。

先ずは仏経済紙Les Echosの「Climat : Bruxelles dévoile un plan ambitieux et explosif」(気候温暖化:ブリュッセルは野心的な計画を発表)と題した記事をご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

水曜日に、欧州委員会は、2030年までに温暖化ガスの排出量を少なくとも55%削減(1990年比)することを目的とした新しい気候変動対策の全貌を発表しました。

これは、2050年には排出実質ゼロを達成するこための重要な通過点であり、この最終目標は昨年、27のEU加盟国によって確認されました。

このプロジェクトを推進するウルズラ フォン デアライエン大統領は「私たちは新しいモデルに切り替えなければなりません。ヨーロッパは主導する準備ができています」と語りました。

彼らの野心は、2005年に設立された欧州排出権市場(ETS)に投影されます。

EUは、排出量割当の上限を引き下げ、コストを引き上げ、とりわけ対象分野を海運や航空分野までに拡大することにより、ETSを強化したいと考えています。

「それは歴史的です。 排出権の価格は、産業の経済モデルに大きな影響を与えるレベルまで自動的に上昇します」と欧州議会の環境委員長であるパスカル・カンフィンは分析します。

 

ヨーロッパは、環境にあまり注意を払っていない第三国からの輸入コストを増加させることを目的とした「国境炭素調整メカニズム」(CBAM)を導入したいと考えています。

狙いは、EUの生産者の競争力を維持し、国際的な競争相手が彼ら自身の生産をグリーン化することを奨励することです。

 

目標達成をスピードアップするために、EUはエネルギー課税の見直しも行っています。

これにより、最終的には再生可能エネルギーが化石燃料よりも魅力的になるはずです。

自動車の排出ガスをはじめ、さまざまな環境基準が厳しくなります。

今回の発表によれば、2035年にディーゼルまたはガソリンエンジン車の販売を終了することになります。

 

これらの法案はすべて、2023年までに、評議会と欧州議会によって議論されなければなりません。

当然のことながら、業界のロビー活動はすでに始まっています。

CBAMの創設に伴う現在の無料排出枠の終了により、鉄鋼業界のコストは急上昇し、航空業界はEU内のフライトに対する燃料税の創設が発表されたことを懸念しており、自動車業界は要求が多すぎ、実施が早すぎると考えています。

 

しかし、このプロジェクトの最も議論を呼ぶ点は、燃料、道路、住宅分野です。

特にガソリンや灯油などのコストの急激な上昇による社会的影響が心配されており、これは家計に影響を及ぼします。

「黄色いベスト運動」(燃料税引き上げに伴いフランス全土で広がったデモ活動)の様な反政府運動の再燃も危惧されます。

前述のカンファン氏はは、最も脆弱な、断熱が不十分な住宅や農村地域の住民が最も高いコストを払わされるだろうと警告しています。 

 

ヨーロッパはまた、国際的な貿易パートナーに、国境で炭素税を課す事を計画しています。

これを、保護貿易主義と見なす人もいます。

このメカニズムはフランスによって支持されていますが、ドイツと北欧の国々は報復措置のリスクに直面して注意を呼びかけています。

委員会の弁護士が取り組んでいるシステムは、世界貿易機関(WTO)の規則と整合性がなければなりません。

これは簡単な仕事ではありません。


続いて英BBCの環境問題論説委員Matt McGrath氏の論説です。

BBC論説の要約

この計画の規模は、息をのむほどです。それは、欧州市民の生活のほぼすべてに影響を与える可能性があります。

1990年から2019年にかけて、EUは炭素排出量を24%削減しました。

現在、EUはわずか9年間でCO2をさらに31%削減することを提案しています。

これが、2050年のネットゼロ目標を達成するために必要なことです。

そのため、再生可能エネルギーを後押しするだけでなく、EUは現在、家庭の暖房と輸送という非常に困難な問題に取り組もうとしています。

提案は2035年までに新しいガソリン車とディーゼル車の終わりを予定しています。

 

最も目を引く提案の1つは、ヨーロッパのメーカーが競争できるようにするための、鉄鋼、セメント、肥料などの商品に対する国境炭素税です。

しかし、この提案は論議を呼んでおり、中国や米国との貿易戦争を引き起こす可能性があります。

野心的なパッケージは今後EU加盟国との数ヶ月の交渉に直面し、貧しい国々は消費者のコストを上昇させる可能性のある新しい政策に警戒しています。

欧州委員会は、黄色いベストの抗議者の大群が街頭に出る代わりに、市民はよりきれいな空気、より少ない排出量、そして持続可能なライフスタイルに代償を払うことをいとわない方にと賭けています。

世界の他の国々は、この巨大なギャンブルを興味深く見守っています。

EUが地球環境対策に熱心な訳

今回欧州委員会が発表したパッケージの中で、私が注目したのは内燃機関で走る自動車(ハイブリッドを含む)が203年以降販売中止になった点と、耳障りの良い「国境炭素調整メカニズム」という言葉に変わりましたが、国境炭素税を導入した事です。

前者は、世界中の自動車メーカーが根本的な対応を迫られます。

後者は米国や中国といった欧州の貿易主要パートナーとの貿易戦争を引き起こすリスクがあります。

EUの人々が地球温暖化に敏感である事は客観的な事実かも知れませんが、EU首脳の狙いが単にきれいな空気や水を得ることだけではないと思います。

これには、4億人という世界最大級の購買力を背景に、EUが世界の基準作りを先導し、自らに有利な土俵を作ってしまおうという思想が背景にあると思われます。

これに対して、米国や日本、中国などがどう対応するか見ものです。

中国の最近の動き(フォルクスワーゲンが自動車用の電池工場を中国企業と建設予定)を見ていると、彼らは欧州との連携を目指す可能性があります。

内燃機関に強みを持っている日本は、機敏に対応する必要があるでしょう。

地球環境対策は、企業の行く末を左右します。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。