EU地球温暖化プログラムの発表
EUが驚くべき地球温暖化対策を発表してから数日後、ドイツを大規模な洪水が襲いました。
まるで地球温暖化の行く末を占う様な大洪水は、死者数百名を数える未曾有の水害となりました。
もはや地球を致命的な天災から救うのには時間的猶予がないという論者もいます。
しかし、EUが発表した対策をそのまま実行に移せば、多くの失業者が出る事は間違いありません。
石炭や天然ガスに関連する事業はもとより、先進国が基幹産業と位置付ける自動車産業などにも数百万人単位の失業者が出てもおかしくありません。
この問題に関して、米誌Foreign Affairsが「A Safety Net for the Green Economy」(地球温暖化対策に関するセーフティネット)と題する論文を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs論文要約
EUは先週、気候変動と戦うための化石燃料からの移行という野心的な提案を発表しました。
しかし、脱炭素化は人類の生存に不可欠ですが、EUも認めているように、移行は深刻な経済効果をもたらします。
それは世界にとって真の利益になるでしょうが、変革は勝者と敗者を生み出します。
化石燃料から再生可能エネルギーへの移行は、必然的に、何百万人もの失業者を生み、石炭、石油、天然ガス産業に依存するコミュニティを混乱させます。
気候変動の影響を緩和することは、20世紀後半のグローバリゼーションと貿易自由化の影響に似ているかもしれません。
これらの変革から得られる利益は現実のものでしたが、社会的セーフティネットを拡大できなかったため、不平等が拡大しました。
これらの失敗は労働者を傷つけるだけでなく、その後数十年にわたって右翼ポピュリズムを煽る激しい政治的反発を生み出しました。
気候変動への対処に関して、政府は同じ過ちを犯すことはできません。
彼らは、環境災害を食い止めるために必要な行動が、富める者よりも貧しい者を傷つける失業と事業の閉鎖につながることを認めなければなりません。
適切なセーフティネットがなければ、激しい政治的反発を引き起こす可能性があります。
地球が気候変動の取り返しのつかない転換点に直面するのを避けるためには、30年しか残っていません。
アマゾン盆地はすぐに熱帯林からサバンナに変化する可能性があり、数十億トンの炭素がシベリアの永久凍土層から浸出し始めています。
干ばつ、熱波、サイクロン、山火事、洪水など、複数の気候災害に同時に直面することは避けられません。
ストックホルム環境研究所によると、1990年から2015年の間に、世界の人口の最も裕福な10%が、世界の温室効果ガス排出量の半分以上を占めていました。
最も裕福な1%だけで、排出量の15%を占めていました。
一方で、人類の最も貧しい人たちは、洪水、干ばつ、病気、経済的混乱など、気候変動の最悪の影響を受ける可能性がはるかに高いのです。
開発途上国が気候変動による最悪の環境被害に苦しむ一方で、先進国の労働者と中産階級の人々は気候災害対策の経済的影響に直面するでしょう。
そして、それは深刻な政治的影響をもたらすでしょう。
たとえば、2018年にフランスで始まったいわゆる黄色いベスト運動を考えてみましょう。
最後は暴動に発展した抗議行動は、フランス政府が提案した燃料税の引き上げへの反発として始まりました。
税金はフランスの排出量を削減するために不可欠でしたが、この政策はガソリン価格の上昇につながりました。
提案された燃料税に経済的打撃を和らげるメカニズムが含まれていれば良かったのですが、代わりに、ポピュリスト運動は活発化し、気候変動と戦うための取り組みに反対して、国民の支持を得ました
黄色いベスト現象は警告として、多くの人が注目しました。
2019年、28人のノーベル賞受賞者と4人の元米連邦準備理事会議長を含むエコノミストのグループが、米国の炭素排出に対する課税を求めました。
このシステムの下で、一般消費者は、エネルギー価格の上昇で支払うよりも、いわゆる炭素配当でより多くを受け取ることになります。
このような炭素の配当は、将来の気候セーフティネットの骨子を表しています。
配当金は市民にお金を返すことで、環境を保護することを目的とした政策が既存の不平等を悪化させたり、新しいクラスの経済的「敗者」を生み出したりしないことを保証します。
このシステムのいくつかの例は、大西洋の両側にすでに存在しています。
たとえばスイスでは、政府は炭素税収入を使用して、健康保険の払い戻しを通じて低所得世帯に払い戻しを行っています。
2008年以来、カナダのブリティッシュコロンビア州は、所得税の減税を利用して市民にお金を返し、地方や気候に脆弱な住宅所有者を支援するために税額控除を提供しています。
より多くの政府が気候変動に対して劇的な行動を取り始めるにつれて、彼らは彼らの政策の社会的影響に目を光らせなければなりません。
カーボンニュートラルへの道は、脱炭素化をチャンスに変える政府の能力にかかっています。
先進国の地球温暖化対策は自己中心に
この論文を読むと隔世の感がします。
1997年に締結された京都議定書の骨子はおよそ次の様なものでした。
- 世界各国は排出量削減目標を定める。
- この目標達成は自国だけではなく他国でのプロジェクトもカウントできる。
- 削減目標を達成できない国は排出権を国際市場で購入して削減目標を達成する。
この中で注目すべきは、第二項です。
ご存知の通り、地球温暖化ガスは拡散性が高いため、世界のどこでも削減する事が可能です。
日本の様に省エネが進んだ国で更に排出量を削減する事は困難ですが、発展途上国で地球温暖化ガスを削減するプロジェクトに日本企業が関与すれば、それは日本の排出量削減にカウントされるというものでした。
この条項は、先進国企業が発展途上国での地球温暖化ガス削減に関与する大きなインセンティブとなりました。
私が関与したプロジェクトは、中央アジアの肥料工場から出る地球温暖化ガスを削減してそこで得た排出権をスペインの電力会社に売るというものでした。
この様なプロジェクトで何が生じたかというと、先進国から発展途上国への大きな資金の流れでした。
私が関与した上記プロジェクトでも排出権販売で得られた収入の半分以上は中央アジアの政府の取り分となりました。
莫大な排出権収入は発展途上国へ流れていき、当時排出権ビジネスは南北間の新しいODA(発展途上国経済援助)と言われました。
しかし、今回は違います。
地球温暖化対策で生まれる収入は先進国の経済的弱者へのセーフティネットとなる様です。
南北間のODAどころか、EUが今回発表した国境炭素税が実現すると、発展途上国はEUへの輸出に多額の環境税を課される事になります。
この背景には先進国の余裕がなくなってきたことがあると思います。
今年英国で行われる環境国際会議COP26では南北間の激しい応酬が避けられないでしょう。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。