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中国が家庭教師を取り締まる理由

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中国の過熱した受験競争

中国には科挙という制度がありました。

科挙は、苛酷な選抜試験であり、中には数十年もその合格のために受験勉強を続けた人もいたそうです。

それだけの時間をかけた理由は、科挙に合格すれば将来の出世が約束されたからでした。

状元と呼ばれるトップ合格者は大臣になることがほぼ確実でした。

科挙の伝統が生きる中国は今も大変な学歴社会の様で、毎年行われる統一大学試験Gaokaoは若者の運命を決める重要なイベントであり、家族も子供の教育には惜しげなく私財を投入する様です。

そんな中国でこの過熱する受験競争に政府が待ったをかけました。

その思い切った措置に対して米誌Foreign Policyが​​「Why China Is Cracking Down on Private Tutoring」(​​​​中国が家庭教師を取り締まる理由)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要約

中国政府は私立教育業界に対して厳格な規制を課す事を始めました。

この規制には、家庭教師および教育サービス会社に非営利のステータスへの移行を要求すること、週末や休暇中に試験に合格することを目的とした授業を行う家庭教師を禁止すること、外国のカリキュラムを禁止すること、その中には国外の外国人を雇って遠隔地教育を行う事が含まれます。

 

何ヶ月にもわたって示唆された規制の動きは、1200億ドル(約13兆2千億円)規模の産業の株価に大きな打撃を与えました。

英語学習を支配する企業であるニューオリエンタルは、2月のニューヨーク証券取引所での最高値19.68ドルから、先週の金曜日の最低値2.18ドルに急落しました。

VIPKidのような企業は、デジタル学習を介して西洋の教師に比較的安価にアクセスできるようにするサービスを提供していましたが、この様なビジネスモデルは殆どなくなるでしょう。

 

民間教育の規制をテクノロジー企業や独占に対する中国政府の取締りに関連付けたくなります。

これらの新しい措置はまた、家庭教師部門が都市部の中流階級において親の負担と子供への心理の両方に悪影響を与えるという中国の広範な信念を反映しています。

 

中国では、教育は、最も重要な大学入試であるGaokaoにかかっています。

中国人の親は、子供たちの競争力を維持するために、家庭教師に年間数千ドルを費やす事もあります。

これらのコストは比較的特権のある階層だけが負担できる事を知っておくことが重要です。

中国の子供たちの4人に3人は、平均年間可処分所得が約2,635ドル(約29万円)で、教育へのアクセスが厳しく制限されている農村地域で育ちます。

 

平均的な公務員も中間層のメンバーであり、受験競争が自分の家族や子供たちに与える影響を経験しています。

そのため、詰め込み教育を制限しながら、放課後の趣味や文化的関心を促進しようとする措置が取られている可能性があります。

クラブ活動が大学入学選考の重要な部分である米国とは異なり、中国のGaokaoでは殆ど考慮されません。

 

新しい規制が親と子供たちの負担を軽減するように働く一方で、政府はそれが人口減少を逆転させる事になるのではと望んでいます。

中国で子育ての費用は、政府がひとりっ子政策を転換させた後も、家族の規模を制限する強力な要因です。

当局は、地方の貧しい人々ではなく、都市部の裕福な家族にもっと多くの子供を産むことを望んでいます。

 

この措置は、中国での外国人排斥の拡大の一部でもあります。

中国共産党(CCP)は、イデオロギー教育について心配しています。

たとえば、米国と世界の歴史の研究を制限する措置は、何年も前に実施されました。

外国のカリキュラムと外国の教師を禁止することは、外国の考えの忍び寄る影響を防ぎ、中国の学生が海外の大学に出願するのを思いとどまらせる可能性があります。

 

規制は、子供たちにアイビーリーグで学ばせようと野心を抱くことが多い超富裕層が、米国の銀行口座を通じて外国人の家庭教師を探すことを阻止するものではありません。

最も高いケースでは、1対1の個別指導の価格はすでに1時間あたり200ドルであり、今回の政府措置の後に上がる可能性があります。

 

問題は、中産階級の家庭教師に同じ市場が出現するかどうかです。

つまり、レースにとどまるために必要なコストが削減されるのではなく、引き上がる可能性です。

この点、韓国が注目すべき教訓を提供しています。

独裁者の全斗煥は1980年に私的教育を禁止しましたが、1991年にこの部門が合法化されるまでに、それはかつてないほど大きくなりました。

2011年に開始された高額の私立教育を取り締まる2回目の韓国の試みは、限られた成功しか収めていません。

中国のジレンマ

中国の富の偏在は想像以上のものがある様です。

全世帯の4分の3が年間収入30万円以下というのは衝撃的です。

一方、億万長者の数はうなぎ上りで、アジアの長者番付では日本を含め他国を圧倒しています。

もはや中国は経済的には資本主義の国と言って良いでしょう。

貧富の差が極端に拡大する中、中国政府が目指している富の格差の是正そして機会均等の社会を維持するという目的に関しては、あながち間違いではないように思います。

どこの国でも受験は裕福な家庭に有利にできています。

高額な家庭教師や予備校は貧しい家庭には縁がありません。

そもそも私立の高校で受験に有利な教育を受けさせる事も不可能です。

先日、シンガポール国立大学の教授が米中対立は金権政治の米国と実力主義の中国の間の争いであり、中国が有利だと語りましたが、中国政府が機会均等の実力主義の社会を目指している事は間違いなさそうです。

 

一方、中国政府の今回の規制は、海外のハイレベルな教育へのアクセスを抑える事につながりますので、中国の教育レベルそのものを下げる危険性があります。

中国人の米国への留学生は20万人以上に達しており、彼らは世界で最先端の教育機関から多くの事を学んできました。

中国で「海亀」と呼ばれる帰国留学生が中国に海外の技術、ノウハウを持ち込んで中国経済の活力を高めてきた訳ですが、今後海外への留学生が減る様な事になると、中国の発展に大きな影響を与えかねません。

海外の影響を排除しようとすれば、海外から得られるものを失うというジレンマに中国は今後直面する事になるでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。