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カブール陥落が米国の信頼失墜に繋がらない訳

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米国を批判する国際メディア

カブール陥落のニュースは世界中をかけめぐり、中露の政府系報道機関はもとより欧米メディアの多くも「アフガニスタンを見捨てた米国の判断は、同盟国の米国に対する信頼を失わせ、米国にとって大きな打撃となった。」という論調で米国を批判しています。

この批判は本当に正しいのでしょうか。

遥かに少数なタリバンを前にして、武器を投げ捨てて投降する様な政府を米国が守り続ける事は正しい選択とは思えません。

そんな中、米誌Foreign Policyが、「Afghanistan Hasn’t Damaged U.S. Credibility - The withdrawal has been tragic—but it hasn’t been a strategic disaster.」(​​​​アフガニスタンの陥落は米国の信頼性を損なうことはない - 撤退は悲劇的だが、戦略的な惨事ではない)と題した論文を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

予測されてはいましたが、、強硬派、外国の敵、そして通常は賢明なコメンテーターでさえ、米国の信頼性はアフガニスタンの大失敗によって崩壊したと結論付けました。

ニューヨークタイムズのコラムニスト、ブレット スティーブンスは、「すべての同盟国—台湾、ウクライナ、バルト三国、イスラエル、日本—が次は自分たちであるという教訓を引き出すだろう」と述べています。

中国政府の代言者である環球時報はスティーブンスに同意し、北京が攻撃した場合米軍は戦わないことを台湾の指導者に警告し、カブールの崩壊は「台湾の将来の運命」であることを示唆しました。

フィナンシャルタイムズの通常は冷静なギデオン ラックマンでさえ、バイデンの信頼は失われ、アフガニスタンでの出来事は「アメリカの安全保障は信頼できない」という主張を裏付けるものだと述べています。

スティーブンスはタカ派ですし、環球時報は軽視すべきプロバガンダ機関ですが、他の誰もが深呼吸して平常心に戻る必要があります。

実際、アフガニスタンでの悲劇的な結果が米国の信頼性にあまり影響を与えず、おそらくまったく影響を与えないと信じる十分な理由があります。

 

最初の理由は単純なロジックです。

核心的ではない利益のために無駄な戦争を続けないことを決定することは、より深刻な利益が危機に瀕している場合に当たり前の判断です。

2,500人のアメリカ人を犠牲にし、1兆ドル以上も費やした20年にわたるアフガニスタンでの駐留を終了した事は、米国がアラスカ、ハワイ、またはフロリダを守るために戦わないことを意味する訳ではありません。

また、、中国がアジアで覇権を確立するのを阻止したり、NATOに対する(起こる可能性は少ないですが)ロシアの攻撃を阻止する為、米国が戦うことはないと結論付けるべきではありません。

理由は単純です。

これらの事例が、米国の安全保障に非常に重要な影響を与える核心的な利益に関わっているからです。

 

さらに、米国資源の長期的な浪費を排除することにより(アフガニスタンでの最小限の米国のプレゼンスでさえ年間400億ドル以上の費用がかかりました)、アフガニスタンから抜け出すことで、米国は時間、お金をより大きな優先事項に向けることができます。

ジョージ・F・ケナンがベトナムの文脈で述べたように、「見込みのない目的の頑固な追求よりも、不健全な立場の勇気ある清算によって世界からより多くの尊敬を得る事が可能になります。」

 

歴史は我々を安心させる材料を提供します。

米国は5万人以上の軍隊を失った後、ベトナムでも同様に屈辱的な敗北を喫しました。

それでも、米国の撤退とその後のサイゴンの崩壊は、NATOの崩壊を引き起こさず、アジアや中東の米国の同盟国をソビエト連邦や中国に近づける事はありませんでした。

ケナンは正しかったのです。

ベトナム戦争を終わらせることで、米軍は、ベトナム時代に無視されていたヨーロッパで、通常軍の再建に着手することができ、14年後、ソビエト連邦が歴史のゴミ箱に入り、東ヨーロッパはドミノ現象を起こしました。

1979年のイランのシャーの崩壊、1984年のレバノンからの米国の離脱、1994年のソマリアからの米国の撤退、またはイラクの米国による占領の失敗など、より少ない挫折についてもほぼ同じことが言えます。

これらの出来事は深刻な悪影響を及ぼしましたが、他の国が、米国はもはその支援が評価に値しない大国ではなくなったと結論付けることはできませんでした。

 

そして、米国だけが例ではありません。

イギリスは、その時の国益に沿って同盟を結んだり壊したりしたため、ヨーロッパの政治家から「不誠実なアルビオン(英国の別称)」として長い間嘲笑されていましたが、そんな評判にお構いなく、他の国は英国の助けが必要なとき、英国に同盟を申し出ました。

あらゆる政府は、強力な共通の利益がある時のみ、同盟関係が信頼できる事そして盲目的な忠誠心で大国が物事をを決定することはめったにないことを知っています。

 

第三に、米国の信頼性についての外国の不満をを良く分析する要があります。

米国の保護に依存するようになった国のエリートは、ワシントンに彼らのためにもっと多くのことをさせようと、アメリカの信頼性に疑問を呈してきた長い歴史があります。

米国が負け戦にこれ以上のリソースを投入しないことを決定したりするたびに、どこかの同盟国がもはや米国を信頼できるかどうか確信が持てないと批判します。

ほとんどの場合、ワシントンは彼らにもっと多くの武器を送るか、追加の支援の約束を提供するために高官を派遣してきました。

しかし今回我々が得るべき教訓は、米国がいわゆる信頼性のために愚かな戦争を戦うべきではなく、これらの繰り返される誤りの責任者に責任を負わせ、なぜ彼らが同じ過ちを犯し続けるのかを理解する必要があるということです。

 

アフガニスタンで起こったことを誰が一番心配すべきでしょうか?

あなたが長い間自分の防衛を怠り、米国の保護に過度に依存するようになった裕福な米国の同盟国である場合は、そのやり方を再考することをお勧めします。

あなたが無能な指導者であり、あなたの政府が腐敗に満ちているなら、あなたはアシュラフ・ガニー(アフガニスタンの大統領)の運命について熟考すべきかもしれません。

しかし、あなたが自分自身を守るために公平な分担をしていて、その安全がアジアの勢力均衡を維持するために重要な同盟国であるならば、あなたは大丈夫だと思います。

ダブルスタンダードは終わりを告げるか

アメリカはこれまで自由民主主義の旗手として国際舞台で振る舞ってきました。

しかし、彼らが同盟国と見なしている国の中には自由民主主義とは程遠い国も含まれています。

米国はこれまでいわゆるダブルスタンダードで、こういう国にも安全保障のコミットメントを提供してきましたが、上記論文が指摘する様に、これらの国には今後アフガニスタンと同じ運命が待ち構えている可能性があります。

「自分の国を守ろうとしない国や政権が国民の支持を得ていない国は同盟国からも見放される。」この原則をカブールの陥落は改めて再認識させてくれました。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。