米中対立の将来を占う
米国がアフガニスタンやイラクから撤退しているのは、中国との対決に米国の持つ資源を集中させようと言う狙いからです。
今後数十年間は米中の覇権争いが国際政治の基調になる事は間違いなさそうです。
その対立の結果はどうなるのでしょうか。
英誌Economistが中国系学者であるMinxin Pei氏の「Minxin Pei on why China will not surpass the United States」(中国が米国を追い越せない理由)と題した記事を掲載しました。
著者のPei氏はカリフォルニアのClaremont McKenna大学の教授です。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
アフガニスタンからの混乱した撤退は、米国の不可逆的な衰退の証しとして中国の指導者に見られたでしょう。
しかし、彼らの陶酔感は長くは続きません。
究極の現実主義者である彼らは、バイデン大統領が米国を「帝国の墓場」から脱却させ、世界的覇権争いの次の章で中国に勝つためのアメリカの力を蓄えている事を理解するでしょう。
本質的に、米中の「戦略的競争」は、イデオロギーの対立ではなく、覇権国家とその挑戦者との間の衝突です。
中国は今後20年間、ほとんどの分野で米国との差を狭め続けますが、最終的にはアメリカを超えることはできない方に賭けるのが合理的であるように思われます。
こう言うと、ワシントンの関係者は安堵のため息をつくかもしれません。
しかし、ほぼ同レベルに達した中国は、手ごわい地政学的な敵となるでしょう。
アメリカは中国の台頭を阻止する戦略を採用しています。
これは「経済的デカップリング」と呼ばれ、世界のサプライチェーンを中国から強制的に移転させる貿易戦争と、中国への重要な技術とノウハウの流れを遮断する技術戦争を特徴としています。
これらの対策の有効性を疑う人はほとんどいません。
米国の制裁が、5Gテクノロジーのリーダーであった中国の通信大手Huaweiをあっという間に無力化した事を覚えておられるでしょう。
しかし、この戦略では、中国の進歩を遅らせるだけで、止めることはできません。
中国は今後10年間、依然として強い経済的勢いを維持するでしょう。
そのGDPは、市場の為替レートでアメリカの約70%です(購買力平価ではアメリカよりもすでに大きいです)。
それでも、中国人の1人あたりの収入は年間1万ドル強で、アメリカ人の生活水準の約6分の1です。
これは、巨大な国内市場、ダイナミックな民間部門、そして膨大な労働者のプールのおかげで、中国には大きな成長の余地があることを意味します。
中国はまた、米国の規制にもかかわらず、技術部門において、遅いとはいえ、着実な進歩を遂げるでしょう。
北京は、その脆弱性を減らすために科学技術に巨額の投資をすることを決定しました。
完全な自給自足という習近平主席の目標を実現する可能性は低いですが、何百万人もの十分に訓練された科学者と才能のあるエンジニア、そして今後10年間に費やされる数兆ドルの研究開発投資があれば、中国はより優れた技術力を獲得できるはずです。
今後15年間の市場為替レートで中国が世界最大の経済国として米国を上回ったとしても(米国の2%に対して年間平均4.75%の成長を想定)、一人当たりのGDPは依然として米国の約4分の1になります。
地政学的な敵の4倍の豊かさの国は、事実上、軍事力と研究開発に投資するためのより多くの予備の資金を持っています。
アメリカの指導者が必要な政治的意志と団結を集めることができると仮定すると、それはゲームを有利に進める手段を持っている筈です。
さらに、中国はアメリカよりも早く高齢化しています。
国連は、2040年の中国の年齢の中央値は46.3歳になると予測していますが、米国は41.6歳です。
その結果、中国の成長は2030年代に大幅に減速すると予想されます。
他の分野でも、アメリカの主導権は乗り越えられないことが証明されるでしょう。
世界最高の研究大学、最も革新的なテクノロジー企業、そして最も効率的な金融市場が引き続き存在します。
皮肉なことに、与党の中国共産党(CCP)は、アメリカとの競争において中国の最大の障害となるでしょう。
政党が支配を失うことへの実存的な恐れは、経済をしっかりと把握し続けることを余儀なくさせ、経済の効率を低下させます。
巨大であるが効率性に劣る国有企業は、資源を浪費し続けるでしょう。
CCPの恣意的な権力行使は、ディディやアリババなどの中国で最も成功しているテクノロジー企業に対する徹底的な取り締まりに例示されているように、アメリカの制裁よりも確実にテクノロジーセクターの革新と成長を抑制します。
驚くべきことに、中国がさらに個人的な支配に陥るにつれて、中国はその指導者によってなされた疑わしい決定を修正または逆転させることができなくなります。
アメリカの同盟国の能力を考慮に入れると、勢力均衡はアメリカに有利にさらに傾きます。
中国には本当の同盟国はありませんが、アメリカは多くの仲間に恵まれています。
そして、米国は近隣に大きなライバルを持っていませんが、中国はそのすぐ近くで、いくつかの強力な敵、特にインドと日本と戦わなければなりません。
中国はほとんどの人が認識しているよりもはるかに脆弱です。
米国を超えられないからと言って米国はぬか喜びすべきではありません。
15年から20年の間に、中国ははるかに大きな経済、より高度な技術、そしてより強力な軍隊を持つことになるでしょう。
それはまた、アメリカの最も手ごわいライバルであり続け、アメリカの権力の行使を世界的に制限することができるでしょう。
米国は、他の場所での利益を犠牲にして、中国と権力を争うことにそのエネルギー、および資源のほとんどを捧げなければならないでしょう。
要するに、中国は2020年代にアメリカとのギャップを縮めることができるはずですが、その成長はおそらく2030年代に減速し、中国がアメリカを追い抜く見通しはますます暗いものになるでしょう。
これが事実である場合、中国の継続的な上昇はその指導者をより無謀にするため、今後10年間が最も不安定になる可能性があります。
実際、戦略的膠着状態が最も可能性の高い結末のようです。
満足のいくものではありませんが、これは現状の正味の改善になります。
危険なほど制御不能に渦巻く代わりに、二国間関係はおそらく軍事的緊張が低い均衡に落ち着くでしょう。
アジアにおけるアメリカの安全保障同盟はほぼ無傷のままであり、したがって中国が地域の覇権を達成したり、台湾を吸収したりすることを妨げるでしょう。
これは、冷戦でソビエト連邦に対するアメリカの勝利を繰り返したいと望んでいる戦略家が望んでいたシナリオとはまったく異なります。
また、習近平主席が念頭に置いている「大いなる回春」でもありません。
しかし、中国を世界で最も強力な国に変える事ができなくても、中国共産党は依然として勝者として残ります。
ソビエト共産党とは異なり、中国共産党は、アメリカが打ち負かすことができない超大国をしっかりと支配し続けます。
共産党の功罪
上記の論文で私の興味をひいたのは、最後の中国共産党に関する部分でした。
例え米国を上回る事ができなくても、中国共産党が敗者になる事はないとPei氏は主張しています。
これは共産党への反対勢力が出てきにくい仕組みになっている事もあると思いますが、一方、中国人が必ずしも西側の民主主義システムに強い関心を持っているわけではない事も原因としてあるのではと推測します。
中国には欧米よりも長い歴史があります。
始皇帝が作った中央集権制は、現在も優秀な官僚が全てをコントロールするシステムとして今も脈々とて生き続けています。
たかが数百年の歴史しかない民主主義とやらに自分たちのシステムが劣っているはずがないと中国人の多くは考えているかもしれません。
しかし、この自信が彼らのアキレス腱かもしれません。
政府の暴走を止める仕組みが欠けている事が、中国の発展を止めるブレーキになる可能性があります。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。