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米国アフガン撤退を喜べない中露

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論調に変化が見られる欧米メディア

アフガニスタンからの米軍の急速な撤退は大きな混乱を引き起こし、世界中からバイデン政権に対する非難の嵐を巻き起こしました。

欧米のメディアも例外ではなく、米国の威信を損なったとか、同盟国が離反するといった趣旨の論評が多く見られました。

しかし、ここにきてメディアの論調に変化が見られます。

保守系米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)も、当初バイデン政権を厳しく批判していましたが、今日ご紹介する記事では、トーンが変わってきています。

「In Leaving Afghanistan, U.S. Reshuffles Global Power Relations - The American withdrawal creates new complications for China and Russia」(アフガニスタンからの撤退により世界戦略を再構築する米国 - 中露が手放しで喜べない事情)と題された記事かいつまんでご紹介致します。

WSJ記事要約

米国が支援するアフガニスタン政府が8月15日に崩壊した後、北京は、主要なライバルの屈辱的な敗走を見て歓喜を抑えることができませんでした。

ロシアも同様です。

しかし、アメリカの20年にわたるアフガニスタン戦争が終結した今、戦争と撤退が世界の勢力均衡にどのように影響するかについて、より冷静な見方に変わりつつあります。

アフガニスタン政府の見事な崩壊は、アメリカのハードパワーの限界を示しました。

カブールでの絶望的なシーンは、特にヨーロッパで、多くのアメリカの同盟国を苛立たせ、その評判にかなりのダメージを与えました。

それでも、中国とロシアはアメリカの弱さを宣伝しているにもかかわらず、打撃を受けるのが米国だけではない事を認識しています。

 

実際の軍事力と経済資源の面では、米国が依然として支配的です。

アフガニスタンからの離脱は、米国が中露との戦略的競争に向けて、より多くのリソースを振り向けられる事を意味します。

そして、アフガニスタンに近いロシアや中国とは異なり、アメリカは、難民の流入からテロ、麻薬取引まで、アフガニスタンからの直接的な影響からはるかに離れています。

これからのアフガニスタンの管理は、中国とロシア、そしてそれらの地域の同盟国にとってますます問題になるでしょう。

 

「アフガニスタンからのアメリカ軍の突然の撤退は、中国にとって良いニュースではありません 。中国はこの地域で米国に取って代わる準備ができていません。」と中国の国際関係学者である馬暁林は述べました。

中国の王毅外相は、日曜日のブリンケン米国務長官との電話で、アフガニスタンが安定を維持し、テロや暴力と戦うのを支援するなど、アフガニスタンに関与し続ける必要があると述べました。

 

「モスクワのまともな人々は、アメリカの軍事機構と世界的な優位性を構成する要素が消えてなくなりはしない事、そしてこの『永遠の戦争』にもはや関与しないという考え自体が正しいことを理解しています。」とカーネギーモスクワセンターのアレクサンダーガブエフは語りました。

ロシア政府の期待は、カブール撤退による影響が米国内のさらなる政治的二極化につながり、アメリカとその同盟国との関係に新たな緊張をもたらすことであると彼は付け加えました。

 

英国など、最も近いアメリカの同盟国でさえ、米国の撤退を公然と批判しており、英国下院の外交委員会委員長でありるトム トゥゲンダートは、カブールでの大失敗を1956年のスエズ危機になぞらえました。

しかし「それはロシアと中国にとって必ずしも素晴らしいニュースではない、と彼は付け加えました。

「現実には、中国とロシアの悪さは、米国が支配する世界でのみ可能だ。」と、同氏は言います。

「それはあたかも自分の父親が翌日車にガソリンを入れてくれる事をを知っていればこそ、怒れるティーンエージャーでいられる様なものだ。」

 

アフガニスタンの混乱は、パートナーや同盟国とのアメリカの信頼を少なくとも一時的に弱体化させましたが、台湾やイスラエル、ウクライナなどとの関係は、アフガニスタンとは異なり、事前に設定された有効期限はありません。

米国政府は、10年以上前のオバマ大統領の最初の任期以来、アフガニスタンを去る意向を伝えていましたが、多くのアフガニスタンの指導者は、実際にはそうしないと信じていました。

 

中国にとって、アフガニスタンの重要な問題は、東トルキスタンイスラム運動(ETIM)からのウイグル人過激派とその後継者である東トルキスタンイスラム党の存在でした。

国連は、これらのウイグル人過激派の約500人がアフガニスタン、主にバダフシャン州北東部にいると推定しています。

アフガニスタン共和国の外相ハニーフ・アトマールは、8月初旬のインタビューで、シリアの戦場からアフガニスタンに戻ったウイグル人過激派の配備が、タリバーンの電光石火の攻撃を可能にした理由の1つであると述べました。

外相の王氏は、7月末にタリバーンの政治部門の責任者であるムラ・アブドゥル・ガニ・バラダールが中国を訪問した際、直接問題を提起しました。

その会合の後、中国はその要求を明らかにし、新疆の独立派や、東トルキスタンイスラム運動(ETIM)に対して断固たる行動を取るようタリバンに圧力をかけたと述べました。

 

中国は、米国が失敗したところで成功することを熱望していますが、アフガニスタンの国内政治に巻き込まれたり、破産したアフガニスタン国家に無制限に助成金を支給する責任を負ったりすることには消極的です。

また中国の軍隊は、中国の国境を越えた経験を欠いています

 

アフガニスタンで悲惨な歴史を持つロシアも、慎重です。

「アフガニスタンはユニークな場所です」と、ロシアの対外防衛政策評議会の責任者であるフョードル・ルキアノフは述べました。

「歴史を通して、そこでのパワーゲームは誰にも利益をもたらさないことが証明されています。」

 

北京に本拠を置くシンクタンクであり、中国とグローバル化センターの会長であり、中国国務院のカウンセラーである王輝耀は、かつてアメリカの屈辱的な軍事的敗北の場所であり、現在は米国の主要なパートナーの1つであるベトナムの例を挙げました。

「1975年に南ベトナムから米国が撤退した時も同じ様な話がありました。人々は中国またはロシアによって占領されるだろうと話していました」と王氏は言いました。

「今のベトナムを見てください。」

アフガニスタンはやはり帝国の墓場

米国のアフガニスタン撤退は正しい選択だったと思います。

この「帝国の墓場」で米国が泥沼にはまり、そのリソースを無駄使いさせる事が、中露にとってはベストのシナリオだったと思います。

WSJの記事が指摘する様に、アフガニスタンは米国から遠く、中露は近い。

米国が抜けた後、跳梁跋扈するテロリストが狙うのは米国ではなく、中露になりかねません。

米国の不手際な撤退を見てほくそ笑んでいた中露も、今は現実に引き戻されて青ざめているかもしれません。

外交は敵の一番いやがる手を打つと言うのが鉄則ですが、米国は同盟国からの批判を覚悟でその手を打ったと言う事でしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。