終わりのない戦争を始めるきっかけとなった同時多発テロ
9.11の同時多発テロはその後の米国に大きな影響を与えました。
イラクやアフガニスタンでの「終わりのない戦争」を始めたのも9.11がきっかけでした。
それでは100年後に9.11はどの様に記憶されるでしょうか。
米誌Foreign Policyに「How 9/11 Will Be Remembered a Century Later」(9.11は100年後にどの様に記憶されているだろうか)と題した論文んが掲載されました。
著者はハーバード大学のStephen M. Wal教授です。かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy記事要約
9/11は100年後どのように記憶されているでしょうか?
それは劇的であるが最終的には軽微な悲劇と見なされるのでしょうか、それとも米国と世界政治の軌道を根本的に変えたターニングポイントと見なされるのでしょうか。
もちろん、9.11がどのように解釈されるかを正確に予測することは不可能です。
自信を持って言えるのは、解釈をしている人によって意味が変わるということだけかもしれません。
予測の不確実性にもかかわらず、2101年に9.11がどのように振りかえられるかを予測する事は、依然として有益です。
少なくとも2つの大きく異なる可能性について考えることができます。
皮肉なことに、どちらの可能性が真実に近いかは、20年前の晴れた火曜日の朝に起こったこととはほとんど関係がなく、それに応じて起こった事にはるかに関係します。
さらに、次の数十年で何が起こるかによって、一世紀後に9.11がどのように記憶されるかが決まります。
オプション1:習近平の願いが叶う
中国の習近平主席の希望が完全に実現され、次の80年が「中国の世紀」として知られるようになる事を少しの間想像してみてください。
このシナリオでは、中国の経済的優位性は急速に進み、最終的には冷戦の時代後半に米国が保有したのと同じ程度の影響力を有します。
このシナリオが発生した場合、9.11は、アメリカの衰退を加速させた重大な出来事と見なされます。
世界貿易センターとペンタゴンへの攻撃で被った被害のためではなく、米国の指導者が選んだ悲惨な対応のためです。
ブラウン大学の戦争費用試算によると、テロとの世界的な戦争に米国は約8兆ドル(880兆円)の費用をかけました。
これは研究開発、インフラストラクチャー、教育、ヘルスケアなどに費やされた可能性のある莫大な金額です。
その金額の多くは、イラクとアフガニスタンなどの戦争に費やされ、数十万人の命(ほとんどは外国人)を奪いました。
対テロ戦争はまた、中国の目覚ましい台頭からの大きな気晴らしでした。
9/11、特にそれに対する米国の対応は、中国への多大な贈り物であったと言っても過言ではありません。
さらに、スペンサー・アッカーマンが新著「テロの統治:9.11時代がアメリカを不安定にし、トランプを生み出した方法」で論じているように、9.11への対応は米国国内で深刻な悪影響を及ぼしました。
テロとの戦争は国内の分裂、外国人排斥、そして有色人種に対するより広い恐怖を煽り、それによってトランピズムの中心にある白人至上主義を強化しました。
米国当局は、拷問を政策手段として受け入れ、イラクの大量破壊兵器とアフガニスタンでの進展について国に嘘をつき、誰も責任を問われませんでした。
トゥキディデスとジェームズ・マディソンの両方が警告したように、永続的な戦争は最も健全な政治制度さえも腐敗させます。それはまさに米国で起こったことです。
非常に重要な事に、このシナリオは、米国が過去20年間から正しい教訓を学ぶことができず、現在民主主義システムの中核を脅かしている政党政治の死のスパイラルを逆転させることができない事も前提としています。
多文化社会の中での新たな団結、そして公益に再びコミットする代わりに、米国は、乱暴なエセ民主主義に堕落します。
そして、報道機関による神話作りは、国民に知らせるためではなく、一方を支持するために作成され、実行されます。
この不幸な未来において、アメリカ人は皆のためにパイを拡大するために一緒に働くのをやめ、代わりに彼らのそれぞれの利益をめぐって争うことになります。
そして、それが起こった場合、中国が米国を吹き飛ばすのは簡単です。
この場合、 9/11はアメリカの衰退を早めた歴史的な瞬間と見なされます。米国を自己破壊的対応に導くというオサマ・ビンラーディンの罠にアメリカは見事にはまってしまうのです。
オプション2:アメリカの再生
代わりに、バイデン大統領の希望が実現され、米国が再び行動を起こしたとしましょう。
このはるかに明るい未来において、9.11はどのように見られるでしょうか?
このシナリオは、アメリカの永続的な強み、つまり自傷行為や非難の中で市民が忘れがちな強みを認めることから始まります。
他のほとんどの民主主義国とは異なり、アメリカの人口は今世紀の残りの間増加し続けるでしょう。
その経済は、多くの主要セクターでイノベーションの原動力となっています。
実際、一部の経済モデルでは、米国のGDPは世紀半ばまでに中国に追い抜かれますが、2100年までに首位を取り戻すと予測しています。
これは、主に人口動態がより有利なためです。
そして、国は依然として他のすべての潜在的な大国(中国を含む)よりもはるかに有利な地政学的環境に存在しています。
確かに、このシナリオは、米国の国内政治の現在の熱狂的な状態が最終的には沈静化し、進歩主義の新時代が政治における腐敗した影響を制限することを前提としています。
移民に関する賢明な中道政策に戻ることで、米国が不規則に、しかし成功裏に行ってきたように、国は再び他国からの才能と起業家精神にあふれた移民を引き付け、徐々にアメリカ人に変えることができます。
白人アメリカ人は、若いアメリカ人がすでに示しているより大きな人種的寛容に助けられて、多元主義に適応します。
イノベーションは経済成長を推進し続け、勝ち目がなく不必要な戦争に費やされる金額は少なくなり、政治改革は現在の選挙権への攻撃を覆し、政治におけるより大きな説明責任を回復します。
自由主義の覇権への無駄な探求を放棄して、米国の大戦略は、過去米国を成功に導いた現実主義の原則に戻ります。
その間、中国がつまずくとさらに想像してみてください。不利な人口統計(すなわち、ますます多くの非生産的で高齢の退職者)、環境被害、資源不足、そして戦狼外交に対する諸外国の反発によって引きずり下ろされた中国は、決して首位の地位に到達することはできません。
おそらく、中国の指導者は、米国の指導者が9/11以降に行ったのと同じくらいひどく誤算し、彼ら自身の実りのない戦争で資源を浪費することになります。
中国の現在および将来の指導者が毛沢東の大躍進政策や文化大革命のような重大な過ちを避けたとしても、その経済成長率は鈍化し、中国共産党は社会的不満を封じ込めることにほとんどの注意を向けなければなりません。
これらすべてが実現したとしても、次の80年は中国の世紀ではありません。
このシナリオでは、2101年までに、9.11は生きているアメリカ人にとって遠い記憶になるでしょう。
この予測が空想的であると思われないように、アメリカ人が1898年の「メイン号の爆発」をどれだけ覚えているか考えてください。
ハバナ港でその不幸な軍艦を沈めた爆発は、9.11への対応と同じように全国的な騒動を引き起こし、米国を米西戦争に駆り立てました。
大恐慌、ミュンヘンでの宥和、真珠湾、ノルマンディー上陸作戦、ベトナムについてはまだ多くのことを耳にしますが、メイン号の爆発は殆ど忘れ去られています。
米国が今後数十年にわたって自らを更新することができれば、9.11は多くのアメリカ人が忘れ去る小さな悲劇と見なされるでしょう。
要するに、9.11が将来の世代にとって何を意味するかは、その日に実際に何が起こったか、あるいは米国や他の人々がどのように反応したかに依存するのではなく、米国や他の人々がこの日から何をするかに依存します。
米国の再生は可能か
私も米国が中国の軍門に降るとすれば、現在米国が国内で抱える問題がきっかけで自ら崩れるというシナリオが最も可能性があると思います。
米国は天然資源においても、地理的な条件にしても、世界で最も恵まれた国といえますが、最大の強みは、世界中の若者が米国で勉強したいあるいは働きたいと思える国だという事だと思います。
世界中から才能が集まる国アメリカは、民族、宗教、人種などの多元性に基づいています。これが米国の活力の源であり、強みです。
米国がアルカイーダの仕掛けた罠に陥らず、その寛容性を維持する限り、米国の時代は更に続くと思いますが、先の大統領選で見られた米国自身がかかっている病気はかなり重症だと言わざるを得ません。
米国の自己改革に期待したい処です。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。