フランス大使召還
昨日取り上げたオーストラリアのフランスとの潜水艦建造契約の破棄は両国間のみならず米仏関係にも大きな傷跡を残した様です。
フランスは米豪両国から大使を引き上げました。
バイデン氏は同盟国、特に欧州との関係修復に力を入れると言われていただけに、今回の対応は意外でした。
今回の事件に関して仏メディアはどの様に報道しているでしょうか。
仏紙Les Echosの「Défense : l'Europe veut nouer ses propres alliances dans la région indo-Pacifiquq」(防衛:ヨーロッパはインド太平洋地域における独自の協力関係の構築を模索している)と題した記事をご紹介したいと思います。
Les Echos記事要約
これは、不思議なタイミングの一致です。
オーストラリアが米英との新たな安全保障パートナーシップをフランスとの産業連携より優先させるとの決断を行った日に、EUはインド太平洋地域に関する戦略を発表しました。
オーストラリアが、中国の脅威により対抗できると思われる原子力潜水艦を選び、フランスの潜水艦12隻を購入する契約をキャンセルしたショックは、世界の重心が移動していると言われるこの地域との新たな関係を築こうとのEUの外交責任者ジョセップ ボレルの決意を弱めませんでした。
彼は、この新しい米英豪同盟の設立について事前に相談されていなかった事を認識し、「この発表は、インド太平洋地域の重要性と、私たちが柔軟性を持って行動する必要性の証拠を提供します。ヨーロッパの戦略的自治そしてそこに存在する必要性を反映しています。」
EUの議長であるシャルル・ミシェルはツイートで、この地域でEUの一体となったアプローチがこれまで以上に有用であると主張しました。
フランスのオーストラリアに対する信頼の喪失は、EUとの間で交渉が進行中の自由貿易協定に多少の影響は与えるかもしれませんが、ジョセップ・ボレルは豪州との関係が変わらない事を保証しました。米国との関係もそうです。
すべてが、世界で最重要であるインド太平洋地域におけるヨーロッパの関与に関わっています。
世界の人口の5分の3が住んでおり、地球の富の60%を生み出し、最高の成長率を生み出しています。
EUは、この地域で米国をはるかに上回る最大の投資家であり、開発援助の主要な提供者でもあります。
「2つの地域間の貿易は世界の他のすべての地域間の貿易よりも大きく、2019年の年間貿易は1.5兆ユーロ(約193兆円)に達します」とEUの幹部が語ります。
しかし、インド太平洋はまた、最も大きな安全保障上の緊張を秘めている地域でもあります。
中国の専門家は、「米中の対立が、北朝鮮の核問題、国家間の摩擦、海上および陸上での領土紛争を更に複雑にしている。この地域にはいくつかの核保有国が集中している」と述べます。
これは、むしろこの地域でより積極的に活動することがヨーロッパ人の戦略的利益になる理由です。
交易路を確保するためだけではありません。
地域の安定に対する脅威に直面しているEUは、反中国攻勢において米国との調整を行うことではなく、独自の戦略を追求すしようとしています。
「我々は対立ではなく協力のプロセスにある」とヨーロッパ外交の責任者は繰り返しました。
「なぜなら、この地域の民主主義国、日本、韓国、ニュージーランド、台湾などとのパートナーシップを優先的に構築する必要があり、特に気候変動の問題を解決するためには、中国との協力関係を維持する必要があるからです。」と彼は説明しました。
欧米のアジア攻勢
世界最大の市場しかも最も成長率の高いインド太平洋地域を巡って、これから列強の激しい戦いが始まりそうな雰囲気が漂っています。
アジアに植民地時代がありましたが、その時と同じ様に、欧米各国が自らの権益を拡大するために躍起になっている感があります。
今後、注目すべきは英国の動きかと思います。
今回のオーストラリアの原潜商談も米国は単独てはなく、英国と共同歩調を取っています。
おそらく英国が米国に強く働きかけたのではないかと想像します。
EUから離れて自由になったこのシーパワー大国は、今後英国連邦のメンバーであるオーストラリアやインドなども巻き込んでインド太平洋地域で一大勢力を作る事を目論むでしょう。
米英及び英国の元植民地連合は一つ極を形成します。
もう一つの極はEUでしょう。
上記記事にもある通り、彼らは軍事的にもこの地域に首を突っ込んでくる可能性があります。(既に独仏は艦隊を派遣しています。)
米英に必ずしも同調せず、米中の対立をうまく使いながら中国市場からも甘い汁を吸おうと考えるのではないかと思います。
中国にとってみれば、西側が分裂するのは好都合ですので、今後、EUをうまくとりこんで、西側の技術の吸収を図るものと思います。
我が国の立ち位置はどうなるでしょうか。
「軍事は米国、経済は中国」と割り切っている韓国とは違った対応が求められます。
米国との関係に軸足を置きながらも、中国との一定の関係も維持すると言う微妙なバランス感覚が求められそうです。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。