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米中対立を激化させた新型コロナ

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新型コロナがもたらしたもの

新型コロナの感染は日本では収束しつつありますが、世界的視野でみれば、収束したとは言い難い状態です。

昨年初めから今日に至るまで新型コロナは世界を揺さぶってきました。

人類に対する大きな脅威となったウイルスの感染に対して、各国がどの様に振る舞ったかを振り返ると、かなり利己的な対応に終始した感があります。

ワクチンやマスクを保有する国は、なかなか他国にそれを譲ろうとはせず、譲る場合は政治的な取引材料として使う国が多かった様に思います。

欧米ではコロナが引き起こした社会的現象について幾つかの著作が世に出ている様ですが、英誌Economistがその中から二作を選んで論評しています。

Two new books assess the geopolitical lessons of covid-19」(​​新型コロナの地政学的教訓を暗示する二冊)と題した記事をかいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

スペイン風邪の犠牲者の数千万人の記念碑は見当たりません。

それは、第一次世界大戦の死と破壊によって影が薄くなりました。

「感染症に大きな歴史的意味を割り当てることは困難です。それがおそらくそれらが忘れられがちな理由です」とブルーノ マサエス氏は述べています。

それにもかかわらず、新型コロナのような大惨事はその解釈が求められます。

このパンデミックが歴史の流れをどの様に変えたかを完全に理解するのは時期尚早です。

しかし、それは今日の国際政治の構造について明らかにしたものがあるかも知れません。

 

2冊の新しい著作がこの質問へ答える事を試みています。

現在米国国防総省の次官であるコリン・カールとシンクタンクのブルッキングス研究所のトーマス・ライトは、その著書「余震」でパンデミックの詳細な記録を利用しています。

ポルトガル政府の元欧州担当大臣であったブルーノ マサエスは、「終わりの時代の地平線」でより哲学的な考察を行いました。

どちらの本も、過去18か月に起きた事から未来への洞察を行っています。

大国間の紛争が背景にあった」とマサエス氏は主張します。 カール氏とライト氏はこれに同意します。 

 

パンデミックは国際的な協力を産みだしたかもしれませんが、実際はそうはなりませんでした。

代わりに、国境は閉鎖され、各国は独自のワクチンの開発を急ぎました。

最貧国を封鎖による経済的損害から保護したり、ワクチンを公平に配布するなどといった事はほとんどありませんでした。

シリア、イエメン、その他の地域での紛争は激しさを増しています。

国連からの停戦の要請はほとんど無視されました。

 

カール氏とライト氏は、パンデミックの前でさえ、米中間の緊張が公衆衛生に関する協力を如何に妨げていたかを示しています。

ウイルスが到着したとき、彼らは、過去数十年よりも均衡した両国の国力が、ナショナリズムの高まりとともに、国際的パートナーシップとアメリカのリーダーシップの両方を妨げたと主張しています。

彼らは、中国もアメリカも最初は参加せず、各国の調達プログラムとの競争に苦労したワクチン共有スキームであるCOVAXを引用しています。

一方、中央銀行は国内政治から比較的隔離されているため、金融システムは、集団的な努力によって迅速に安定化され、食うか食われるかの対応の例外でした。

 

一方、パンデミックは競争の新たな機会を切り開きました。

アメリカ人とヨーロッパ人が人工呼吸器や他の重要な医療キットの輸出を含む中国からの輸出にどれほど依存しているかをすぐに認識しましたので、商品の世界的な流通を支えるサプライチェーンが論争の的となりました。

マサエス氏は、中国がパンデミックを単なる公衆衛生上の緊急事態としてではなく、国家安全保障上の脅威と見なし、それに応じて行動したことを観察しました。

彼らは、その影響力を拡大するために危機を利用して、マスクとワクチンと引き換えに政治的譲歩を引き出すことを試みました。

カール氏とライト氏は、トランプ大統領がは中国への反応としてアメリカの政策を策定したことを示唆しています。

 

おそらく中立的な機関でさえ、地政学的な戦場になりました。

カール氏とライト氏の洞察の中で最も興味深いのは、世界保健機関(WHO)が政治的圧力の犠牲になった経緯です。

その事務局長であるテドロス・アダノム・ゲブレイエスは、最初は中国に対して和解的なアプローチを取り、中国にもっと強硬に当たる様にとの米国の要請に抵抗しました。

中国当局が武漢で調査を行った人物を嘲笑し、科学者がデータにアクセスすることを拒否し、ウイルスが実験室で発生したという考えを無視するようにと要請した際に、テドロス氏は漸く忍耐力を失いました。

 

2冊の本はこの新たな競争に関して解釈が異なります。

マサエス氏は、地政学的紛争が新しい常態であると考えています。

各国政府によるウイルスへの対応は、彼らに対する評価の尺度となっています。

現在、国家は間接的に競争しており、テクノロジーを利用して、環境から出現するウイルスの様な脅威に対峙しようとしています。

 

カール氏とライト氏は、「大国間の競争がパンデミックを封じ込める事を困難にした」という悪循環を指摘しました。

今後、米国は中国やロシアからの協力を期待せずに、国境を越えた脅威に立ち向かう準備をしなければならないと彼らは結論づけています。

どちらの本も、テクノロジーがますます力の重要な尺度になるだろうと述べています。

カール氏とライト氏は、権威主義的指導者が新技術の暗い誘惑に駆られる事を危惧しています。

 

彼らが悲観視するのは気候災害です。

どちらの本も、パンデミックの経験を気候変動における国際協力の悲観的な前兆と見なしています。

マサエス氏は、将来の競争は、グリーンテクノロジーに不可欠なコバルトなどの資源へのアクセスに焦点を当てる可能性があると推測しています。

脱炭素化に優れている国々は知見を共有しますが、これは無償ではありません。

カール氏とライト氏は、アメリカと中国が世界の公衆衛生システムを改革する方法を見つけるだろうという期待を持っておらず、気候変動と戦うために団結する可能性も極めて小さいと見ています。

代わりに、彼らは、アメリカが世界の民主主義国を主導してそのような課題に取り組み、より積極的な中国の外交政策をかわすことができることを望んでいます。

温暖化の問題が、公正な競争または民主主義の同盟のいずれかによって軽減されることができるかは疑わしいです。

この二冊の著作のどちらも楽観的な理由を提供していません。

ブロック化が進む世界

この記事が指摘する様に、新型コロナ感染が広がる中、米中対立が激化したのは事実です。

「武漢ウイルス」などとトランプ大統領が激しく批判した事を思い出します。

最後は、サプライチェーンといった問題にまで飛び火しました。

岸田内閣には経済安全保障担当大臣のポストまで新設されましたが、これはコロナ感染が中国への過度な依存を明らかにした結果だと思います。

米国とソ連が対峙していた冷戦時代、世界は自由主義圏と社会主義圏に二分されていました。

中国が台頭する現在、同じ様に世界は米中それぞれのグループに別れてしまうのでしょうか。

経済的依存度が低かったソ連と今の中国とは状況が異なるので、世界を完全に二分する訳には行かないでしょうが、二つのグループに色分けされる可能性は高いと思います。

10年後、20年後、振り返ってみれば、新型コロナは新冷戦の始まりであったと分析されているかも知れません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。