整備工の将来
自動車産業は電気自動車(EV)へ大きく舵を切ろうとしています。
中でも欧州は最先端を走っており、ガソリンやディーゼルで走る車は、あと10年も経つと販売が禁止される国もある様です。
電気自動車は内燃機関で走る車と構造的に全く違います。
その修理やメンテナンスも大きく変わる事が予想されます。
この点について英誌Economistが「Servicing and repairing electric cars requires new skills - Many workshops will be out of a job」(電気自動車の整備と修理には新しいスキルが必要。多くの整備工場は廃業する)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ポルシェの製品エンジニアであるクリスチャン ブリュッガーは、車両のシャーシの中央にある大きなブラックボックスの端を指します。
「ここは、ナイフが入るところです」と彼は言います。
ボックスは93kwhのバッテリーです。
バッテリーは、ポルシェ初の完全電気自動車(EV)である最高速260Kmのタイカンの一部です。
内燃エンジンの12vシステムでも、手順を間違うと電気的衝撃を与える可能性がありますが、このバッテリーは800vを供給します。
安全システムが装備されていますが、それは整備士を殺すに十分な電気を供給します。
ブリュッガー氏が使用するナイフは特別です。
外科医師が患者に使う様な鈍い振動刃を備えています。
バッテリーのカバーの端の下にスライドさせて、しっかりと密閉するために使用された接着剤を切り取ります。
これにより、33個のリチウムイオンモジュールが現れます。
カバーを外すと、故障したモジュールを新しいモジュールと交換できます。
バッテリーは、EVの中で最も高価なコンポーネントです。
これは通常、車の価値の約30%に相当します。
現在、バッテリーに問題が発生した場合、ディーラーのサービスセンターに内部修理を行う能力がないため、通常は新しいバッテリーと交換されます。
交換用バッテリーは一部のEVで20,000ドル(約230万円)程度かかる可能性があります。
車がかなり新しく、バッテリーがまだ保証期間中(通常は約8年続く)の場合、メーカーは無償交換します。
しかし、EVが古くなり、価値が下がるにつれて、多くの所有者は、バッテリーを交換する事なく、時期尚早に車を廃棄する決定を行うでしょう。
EVの製造に伴うCO2排出量の約45%はバッテリーの製造から発生するため、バッテリーを修理して車両の寿命を伸ばす事は理にかなっています。
ポルシェは、この修理を新しいバッテリーの交換コストの約20%で実行できると考えています。
それが可能になった場合、自動車メーカーは、それらに含まれる貴重な材料を回収し、リサイクルすることを目指しています。
修理可能なバッテリーは、EVの所有者にとっては朗報ですが、整備工場にとっては、専門の機器に投資し、技術者に作業を訓練することを意味します。
しかし、必要なスキルは、スパナを使用するよりも電気工学、コンピューティング、およびソフトウェアに関係しているため、この才能を求める争奪戦が始まっています。
迫り来るEV技術者の不足は、多くの国で懸念を引き起こしています。
たとえば、10月18日、英国の自動車貿易を代表する自動車産業研究所は、2030年までに約90,000人の新しい自動車技術者がEVの整備と修理を行う必要があると述べました。
昨年の時点で、英国の整備士のわずか6.5%しか資格を持っていません。
高電圧ツール、コンピューター診断、安全装置など、必要な特殊機器は高価です。
伝えられるところによると、ゼネラルモーターズの一部であるキャデラックは、アメリカのディーラーは、電気自動車のためのツールとトレーニングに平均20万ドル(約2300万円)を費やす必要があると述べました。
多くの整備工場、特に小規模のディーラーは、そのような金額を投資することを躊躇するかもしれません。
EVの整備には、従来の車ほど多くのお金を稼ぐチャンスはありません。
摩耗する可動部品が少ないため、EVは信頼性が高く、内燃機関を持つ車よりもメンテナンスが少なくて済みます。
典型的な内燃機関の駆動列(エンジン、ギアボックス、トランスミッション)には、2,000個の可動部品が含まれていますが、EV の場合たった20です。
これはすべて、整備工場の収益に大きな影響を与える可能性があります。
コンサルタント会社のマッキンゼーは、EVがアメリカのディーラーでのスペアパーツへの支出を40%も削減できると考えています。
交換するオイルや交換するスパークプラグがないため、定期的なサービスからの収入も低くなります。
また、無線によるソフトウェアの更新によって実行されるアップデートの数が増えるため、販売店に行く必要がまったくなくなります。
ポルシェのアフターセールスマネージャーであるピーター・レック氏は、バッテリーの修理は、サービス収入の減少を補うために何らかの方法で役立つはずだと述べています。
車両技術が進歩するにつれて,整備工場はより多くの変化に直面するでしょう。
一部の航空機で行われている様に、車両内のセンサーの数が増えると、パフォーマンスがより厳密に監視され、障害が発生する前に予防保守のために自動的に整備が予約されます。
完全自動運転車はまだ少し先ですが、EVがサービスセンターに勝手に行く日が来るかもしれません。
ただし、このような技術的な混乱は、新規参入者に機会を提供します。
イーロン マスクは、2008年にカリフォルニアの自動車メーカーであるテスラを設立したとき、業界の部外者でした。
すでに他の企業がEVサービス事業に参入しようとしている兆候があります。
日本の車検はどうなるのか
EVへのシフトは車の生産だけでなく、アフターサービス事業にも甚大な影響が出る事が確実な様です。
自動車産業の収益の多くは新車の販売ではなく、その後のアフターサービスから生まれている訳ですから、この収益源が大きく変質してしまうのは、自動車メーカーにとって死活問題と言えるでしょう。
ところでEVへのシフトが起きる中、日本の「車検」はどうなるのでしょうか。
国際的に見ると稀なこの制度、故障が頻発していた昭和時代の古い制度をそのまま現在に引きづってきた様に思いますが、故障率が更に低下する電気自動車にも適用されるのでしょうか。
200万人以上の雇用を生んでいる日本の自動車産業にとっては、EVシフトは一大事と言えるでしょう。
しかし不要な制度をユーザーに押し付けて、負担を強いる事は長続きしない様lに思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。