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ワクチンパスポートの普及を阻むもの

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先行したEU

ワクチンパスポートがEUでは使われ始めました。

フランスやイタリアでは、空港のみならずレストランなどに入るのにも使用されている様です。

このワクチンパスポートが一気に世界中に広まると期待していたのですが、その普及には様々な障害がある様です。

英誌Economistが「Why vaccine passports are causing chaos- The problem is with humans, not technology」(ワクチンパスポートが混乱を引き起こしている理由 - 問題はテクノロジーではなく人間にある)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

多くの国では、第一次世界大戦前はパスポートを必要としませんでした。

しかし、戦争が広がるにつれ、政府は国境を管理するために渡航文書を導入し始めましたが、国境では多くの混乱が生じました。

1920年に国際連盟が介入しました。

表紙に国名、生年月日などの基本的な個人情報を記載した32ページの小冊子をデザインしました。

一部の政府フランスなどは小冊子が単一のシートと比較して高価だと不平を言い、適応するのに数年かかりました。

しかし、今日、すべてのパスポートは同じ形式に従います。

当局はパスポートを一瞥するだけで、その持ち主の旅行特権を確認することができます。

新型コロナに関しても、同様のプロセスが進行中です。

政府は、国境で​​、またはレストランやジムのドアでウイルスを阻止するために、ワクチンパスポートの作成を急いでいます。

 

第一次世界大戦中のように、緊急性は調整を打ち負かしました。

10億以上のワクチン摂取を管理しているインドには、QRコード、識別情報が含まれた「CoWIN」証明書があります。

英国の人々は、国民保健サービス(NHS)アプリまたはWebサイトのQRコード、或いは医師からの証明書のいずれかを選択できます。

バイデン大統領が全国的な予防接種データベースを作成しないことを決定したアメリカでは、多くの州および民間の健康パスが使用されています。

 

問題は、これらのパスが相互運用できないことです。

外見はスマートフォンまたは紙のQRコードでほとんど同じように見えます。

しかし、異なる検証アプリが異なるパスを読み取ります。

スキャンされると、コードは各国の医療制度やプライバシーに関する規則に応じて、さまざまな情報を提供します。

アメリカの一部で使用されているCommonPassのようなワクチンパスポートは、ワクチン接種状況に関する生データを共有します。

英国の NHSによって発行されたものは、生データを提供しません。

そして、ゲームのルールは規定されていません。

今月の感染の急増中に、イスラエルは3回目の摂取を受けていない200万人から「グリーンパス」を取り上げました。

 

空港では、管理上、大きな負担が明らかです。

旅行者の数は9割近く減少しましたが、ゲートに到達することはこれまで以上に厳しい障害物レースになっています。

旅行者が紙片やQRコードを探し回るにつれて、行列は長くなります。

当局は、規制当局が承認したワクチンが、どの目的地で有効であるかを確認するのに苦労しています。

 

デジタルワクチンパスポートの設計は、渡航文書の設計よりも注意が必要です。

パスポートは年齢を明らかにするかもしれませんが、ワクチンパスは個人の健康情報への入り口であり、潜在的に更に多くの情報を含みますので、人々を不安にさせます。

ほとんどの人が接種を受けた先進国でさえ、ワクチンパスポートの導入を支持する人の割合は英国の65%、日本で43%、ドイツで41%と様々です。

​​​​​​理論的には、デジタル技術によって予防接種の状況を簡単に確認できるはずです。

一方で闇市場は盛り上がりを見せています。

偽のフランスのワクチン証明書を75ユーロ(87ドル)、ロシアのワクチン証明書を9,500ルーブル(134ドル)をダークウェブで調達可能です。

 

航空会社、雇用主、飲食店のスタッフなどがQRコードをスキャンする際に、2つのことをチェックします。

ワクチン接種またはPCR検査を受けていることの確認と、情報が信頼できる発行者からのものであることを証明するデジタル署名です。

デジタルワクチンパスポートを統一するには、その方法に関する合意が必要になりますが、それは比較的簡単なはずです。

8月、世界保健機関(WHO)は、証明書に記載するデータに関するガイダンスを公開しました。

持ち主の名前と生年月日、ワクチンのブランドとバッチ番号が必要と見なされます。

難しいのは、保健当局のデジタル署名をチェックするための統一されたシステムを構築することです。

信頼できる署名リストを作成することは、費用がかかり、政治的に困難な作業です。

英国のように国民保健サービスを提供している国には、発行者が1人しかいませんが、アメリカには、州政府、病院、薬局を含めて約300あります。

 

ワクチンパスポートを普及させる上で最大の障害は、テクノロジーではなく地政学です。

各国が世界基準に合意するためには、健康、技術、外交に精通した世界的に信頼されている組織が必要です。

これは明らかにWHOの出番だと思われるかもしれません。

しかし、米中の対立に巻き込まれ、こっぴどく批判されたWHOは、デジタルパスで混乱しています。

ワクチンパスポートについて長い文書を公開していますが、ワクチンの配布が豊かな国に非常に偏っているので、ワクチン接種の証明をを海外旅行の条件としてはならないと主張しました。

そして、WHOはワクチン証明の妥当性確認と検証に関与することを拒否しました。

信頼できる署名者の登録を管理するには、大規模なスタッフが必要になります。

また、パレスチナとアフガニスタンのどちらの署名を受容するか、どのワクチンで十分かなど、政治的に責任のある選択が必要になります。

WHOの国際保健規則事務局の責任者であるCarmen Doleaは、この任務は彼らの責務を超えていると述べています。 

それでも、世界はほんの一握りのスタンダードと技術に収束しているように見えます。

たとえば、欧州連合のデジタルコロナ証明書の標準は、トルコとスイスでも採用されています。

次のステップは、各国が二国間または地域の取り決めを交渉することであるとWHOは言います。

英国とインドの間の最近の交渉は、これがいかに厄介であるかを示しています。

英国は、インドのワクチン証明書の受け入れを拒否していました。

これは、持ち主の正確な生年月日が記載されていなかったためです。

インド政府は、多くの貧しいインド人が彼らの正確な誕生日を知らないので、生年だけを含めました。


最終的に、世界は国際的に通用するデジタルワクチンパスポートを考案するでしょう。

しかし、新型コロナがまだ週に何千人もの人々を殺している時、世界はワクチンとの戦いに勝つことに集中する必要があります。

エチオピアやウガンダでのワクチン接種率は未だ1%にも満たないのです。

早期実現が待たれるワクチンパスポート

パスポートは第一次世界大戦が生みの親とは知りませんでした。

国際連盟がその誕生に一役買っているんですね。

ワクチンパスポートがEUで使用されると聞いたときに、かなり早い時期に世界中でデジタルパスポートが利用される様になるだろうと推測したのですが、早とちりだった様です。

確かに中国は米国製のワクチンを認可しておらず、米国も同様ですから、どのワクチンを認めるかという一点だけとっても、国際的な合意は得られそうもありません。

しかしファイザーやモデルナといった主要なワクチンの接種証明が認められる様に、少なくとも先進国間で早期に合意がなされる事を期待します。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。