リラ下落の要因は何か
今週に入ってからのトルコリラの下落は急激で、世界の金融市場関係者を驚かせました。
高金利のリラを好んで購入していたミセス ワタナベ(FX市場で影響力を持つ日本女性の市場参加者)も今回ばかりはトルコリラに見切りをつけたのではとの声もあります。
世界が金融引き締めに動こうとしてる中、エルドアン大統領は中央銀行に金利を下げる様に政治的圧力をかけているのが、市場関係者のリラ売りの要因となっている様です。
エルドアン大統領は「高金利が高インフレの要因である」との自説の持ち主ですが、欧米のメディアの殆どはこれを激しく批判し、英紙Economistなどは「リラ安の原因はエルドアン大統領自身であり、非常識な政策がトルコ国民をを貧乏にした」とこっぴどく叩いています。
そんな中で今日は仏経済紙Les Echosの「La Turquie sous la pression des investisseurs étrangers」(外国人投資家からの圧力を受けるトルコ)と題した記事をご紹介したいと思います。
この記事はトルコ政府の政策に警鐘を鳴らしていますが、英米の論調とは一線を画しています。
Les Echos記事要約
トルコリラは、中央銀行の世界に対する金融政策を受けて、年初からドルに対して45%下落しました。
外国人投資家の不信を考えると、預金引き上げのリスクは現実のものです。
しかし一方で、トルコ経済の成長は引き続き力強いものがあります。
インフレ率が至る所で上昇しているため、すべての国がトルコを除いて信用条件を引き締め始めています。
そしてトルコでも、価格が1年で20%も上昇したのに、全能の大統領であるエルドアン氏はは中央銀行に金利を下げるように圧力をかけています。
その目的は、特に、黒海への人口運河など、立ち上げた主要プロジェクトへの融資を可能にする事です。
言うことを聞かない中央銀行総裁は解雇されます。
そして先週、トルコの中央銀行は、2か月足らずで3度に亘って金利を引き下げて15%にしました。
今週初め、「トルコリラが弱くても問題が無い」というエルドアン大統領のコメントは、通貨の下落を引き起こしました。
それでは今後、国にどのような影響があるのでしょうか?
インフレ問題
インフレは上昇するでしょう。
銀行の計算によると、2013年以降、トルコリラが10%下落すると、わずか2か月で1.9ポイントのインフレ率が上昇します。
国は輸入、特にエネルギー資源や他の原材料に非常に依存しているからです。
エコノミストによると、インフレ率は20%から25%に急速に上昇する可能性があります。
しかし、トルコ経済はこれまでのところ強い回復力があります。
昨年GDPが成長した唯一の国の1つであり、今年は9%を超える成長が見込まれています。
ユーロ圏の回復に伴い、輸出は増加しています。
賃金の大部分はインフレ率に従います。
確かに、特定の層はインフレの影響を受け、社会的危機が発生する可能性があります。
しかし、全体として、トルコ人の購買力には抵抗力がありそうです。
預金引き出し危機の可能性
もう1つのリスクは、経常収支危機のリスクです。
つまり、外国人は国への投資を拒否し、リスクが高すぎると見なします。
エコノミスト、ジェイソン・タビー氏は、「現在の主なリスクは、トルコの銀行システムからの外貨預金の大規模な引き出しによるものであり、これはおそらく資本移動の抑制につながるだろう」と述べました。
国の統治とその安定性に対する外国人の信頼を繋ぎとめられるか否かがポイントとなるでしょう。
しかし、国の経常収支は改善する傾向があります。
昨年の夏に観光業が回復したことで、経常収支の赤字は昨年の5%超から今年は3%弱に減少すると予想されています。
そして、9月以降、中央銀行の外貨準備高は850億ドルのオーダーで無傷のままです。
銀行リスク
最後に、トルコの銀行の貸借対照表の貸付の3分の1は外貨建てです。
トルコの借り手は、リラの下落を考えると、返済が難しいと感じるかもしれません。
不良債権の発生は、今後数か月で綿密に精査される予定です。
特にフランスは、スペインに次いでトルコに最も融資を行なっているユーロ圏の国です。
今のところ、これらの緊張は高まっていません。
しかし、銀行セクターへの圧力が発生した場合、政策立案者は進路を変更せざるを得なくなることは間違いありません。
銀行危機を回避するために、そして何よりも、彼らの權力を維持するために。
エルドアン大統領の賭け
エルドアン大統領の弱いリラは問題では無いという発言に注目する必要がある様に思います。
普通の国であれば、エルドアン大統領の様な政策は間違いなく失敗するでしょう。
しかし、トルコの特殊事情に注目する必要があります。
トルコは日本の二倍の国土を持ち、温暖な気候から農業が盛んで、食料自給率は100パーセントを超えています。
繊維産業も盛んで、衣食住は輸入品への依存度を低く抑える事ができます。
しかも主要産業は自動車製造、建設業、観光業などで、これらは全てリラが下落すれば競争力が増します。
注目すべきは自動車産業です。
トルコは年間100万台以上の乗用車を生産していますが、その殆どは小型車で大部分輸出されています。
その一方、100万台近くの乗用車を輸入しており、こちらは殆ど大型の高級車です。
エルドアン大統領がリラ安に誘導して、ベンツやBMWなど高級輸入車を購入する高所得者層にペナルティを与えようとのメッセージを発しているのであれば、この政策は英米のメディアが報道するほど非常識なものでは無い様に思います。
昔、池田首相が「貧乏人は麦を食え」と言いましたが、エルドアン大統領は「金持ちも国産車を買え」と言っているようなものでしょう。
これはトルコ国民の過半数を占める低所得者層にアピールする可能性があります。
私も今回のエルドアン大統領の低金利政策は失敗する可能性が高いと思いますが、トルコという国の特殊事情も加味して総合的に評価する必要があると思います。
最後まで読んで頂き、有難うございました。