コロナ対策と経済復興はトレードオフの関係
新しい変異株オミクロンの発生は、世界中に感染が広がるのではとの恐れを引き起こしていますが、懸念されるのは人命への影響だけではありません。
経済への影響も大きな懸念材料です。
各国ともコロナ対策の中、どうやって経済を回すかに頭を悩ましていますが、今回のオミクロン発生は新たな難題を突きつけた格好になっています。
英誌Economistが「What the Omicron variant means for the world economy - Look to China for the likeliest source of a growth slowdown」(オミクロン変異株の世界経済への影響は - 中国の成長鈍化の可能性)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
臨床試験でのワクチンの最初の成功からわずか1年余りで、新たな恐怖が世界を覆いました。
オミクロン変異体は、ワクチン接種または新型コロナの感染によって構築された防御を回避する可能性があります。
世界保健機関は、オミクロンが「非常に高い」地球規模のリスクをもたらすと宣言しました。
ワクチンメーカーであるモデルナの社長は、既存のワクチンが大幅に変異した新しい変異株に苦戦する可能性があると警告しました。
さらに多くのロックダウン、閉鎖された国境、神経質な消費者の反応に直面して、投資家は航空会社やホテルチェーンの株を売ることで反応しました。
石油の価格は1バレルあたり約10ドル下落しました。
オミクロンのスパイクタンパク質の35の突然変異が、デルタ株よりも感染性または致死性を高めるかどうかを判断するのは時期尚早です。
科学者が今後数週間でデータを分析すれば、疫学的状況はより明確になるでしょう。
しかし世界経済に関しては、3つの危険性が指摘されています。
第一に、先進国でのより厳しい制限は経済成長を損なうということです。
変異株のニュースで、イスラエルと日本は国境を完全に閉鎖しました。
英国は新しい検疫要件を課しています。
パンデミックは、自由な世界旅行への回帰を突然終わらせました。
オミクロンの感染拡大はまた、国内での自由な動きを制限する可能性があります。
ヨーロッパは、デルタと戦うために、変異株が出現する前から多くの国内活動を抑制していました。
イタリアはワクチン未接種の人々を屋内レストランに入れません。
ポルトガルはワクチン接種を受けた人でさえ、バーに入るのに陰性の検査を受けることを要求し、オーストリアは完全にロックダウンされています。
2番目の危険性は変異株が高いインフレを引き起こす可能性があるという事です。
このリスクは米国で最も高く、バイデン大統領の過度の財政刺激策が経済を過熱させ、10月の消費者物価は前年比で6.2%上昇し、30年ぶりの高値を記録しました。
しかし、ブルームバーグのデータによると、インフレ率は他の場所でも高く、世界全体で5.3%です。
オミクロンは経済活動を抑制してインフレを下げると思うかもしれません。
しかし、それは反対のことをする可能性があります。
消費者が消費に夢中になり、クリスマスライトからトレーナーまで、世界中のサプライチェーンに負荷を掛けているため、価格が上昇しているところもあります。
アジアの工場からアメリカにコンテナを輸送するコストは、非常に高いままです。
全体的なインフレが後退するためには、消費者は支出を観光や外食などのサービスに戻す必要があります。
オミクロンはこれを遅らせるかもしれません。
この変異株はまた、ベトナムやマレーシアなどの主要なサプライチェーンでより多くの目詰まりを引き起こし、供給の不具合を悪化させる可能性があります。
そして、用心深い労働者は、職場への復帰をいやがり、賃金を押し上げるかもしれません。
それが、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が11月30日に金融引き締めを支持した理由の1つかもしれません。
その方針は正しいですが、それ自体に危険が伴います。
FRBが引き締めを行うと、新興国は資本流出と為替レートの下落に苦しむ傾向があります。
新興国は、以前より外貨準備金が多く、外貨建て債務への依存度が低くなっています。
それでも、国内でオミクロンに対処する必要があります。
ブラジル、メキシコ、ロシアはすでに金利を引き上げています。
これはインフレを食い止めるのに役立ちますが、成長を低下させる可能性があります。
トルコは反対のことを行い、金利を引き下げ、その結果、通貨の暴落に直面しています。
多くの新興経済国は、この不可避の選択を行う必要があります。
最後の危険は、最も注目されていないのですが、世界で2番目に大きな経済である中国の減速です。
少し前までは、パンデミックに対する経済的回復力の輝かしい例でした。
しかし今日、中国は不動産業界での債務危機、民間企業に対するイデオロギー的抑圧、新規感染が発生するたびに厳格なロックダウンを課す持続不可能な「ゼロコロナ」政策に取り組んでいます。
政府が経済を刺激することを検討しているにもかかわらず、成長率は約5%に低下しています。
パンデミックが始まったときの短いショックを除けば、過去30年間で最低です。
オミクロンが以前のデルタよりも伝染性が高いことが判明した場合、中国の戦略はより困難になります。
この変異株がより簡単に伝染すれば、中国はそれを根絶するために発生のたびにさらに頻繁に封鎖を行う必要があり、これは成長を傷つけ、サプライチェーンを混乱させます。
経済と医療制度に負担をかける可能性があるため、ゼロコロナ政策からの脱却をさらに難しくする可能性があります。
これは、中国の感染誘発性免疫のレベルが低く、ワクチンがどれだけうまく機能するかについての疑問を考えると、特に深刻です。
悪い話ばかりではありません。
2020年の春が再現されることはなさそうです。
GDPが驚くほど低下することもありません。
人々、企業、政府はこのウイルスに適応しています。
GDPと移動や行動の制限との関連は、前回の3分の1になるだろうとゴールドマンサックスは予測します。
一部のワクチンメーカーは、現在のワクチンが依然として重症化を予防するだろうと予測しています。
そして、企業や政府は2022年までに新しいワクチンや薬を展開できるようになります。
それでも、オミクロン、または将来の異変株は、経済成長を低下させ、インフレを高める恐れがあります。
世界は、コロナが風土病になるまでの道のりがスムーズではないとい事を思い知らされています。
人類は学習する
これまで得られた情報によれば、パニックになる必要はなさそうです。
これからも異変株はいくつか生まれると思いますが、人類は学習効果でその影響を最小限に食い止めて行く事が予想されます。
しかし、過去の様な隔離なしの海外旅行を夢見ていた人にとっては、その夢の実現はしばらくお預けになりそうです。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。