簡単には転ばないインド
中国とインドは国境紛争をきっかけに関係が悪化し、インドは米国との安全保障上の取り組みクワッドに参加する決断を行ました。
印中の関係悪化を機と見て、米国がインドを取り込んだ格好ですが、インドはもともと非同盟を掲げて、冷戦時代も米ソ両国と関係を維持してきた国です。
そう簡単に米国側には転ばない様です。
今週プーチン大統領がインドを公式訪問し、自慢の防空システムであるS-400の商談をまとめた様です。
中国からしてみると激しく対立しているインドにロシアが武器を売りつけた格好になっていますが、これを中国はどの様に見ているのでしょうか。
中国の政府系報道機関「環球時報」が「Russia, India eye finalizing S-400 deal as Putin visits Modi - Move highlights ‘unbridgeable gap between Delhi, Washington’」(ロシアとインドはプーチン大統領訪問時、S-400商談を纏める予定- この動きはインドと米国の埋められないギャップを白日の下に)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
環球時報要約
ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が月曜日にニューデリーで面談を行ました。
米国の制裁措置の可能性があるにもかかわらず、ロシアのS-400ミサイル防衛システムの提供が進む事が予想されています。
中国のオブザーバーによれば、これは、インドと米国の間の乗り越えられないギャップを浮き彫りにする一方で、インドの親米政策に対する不確実性と混乱の高まりを反映しています。
米国はインドをその伝統である非同盟戦略から引き離し、インド太平洋地域における対中政策において臣下に従えようとしています。
会議を報道する一部のインドの報道機関は、ロシアの武器システムが、中国とロシアの間のくさびを打ち込む事が目的で、国境地域でインドが中国に対抗するのを助けることができると誇大宣伝しましたが、中国のオブザーバーはそれを「愚策」と形容しました。
軍事的には、ロシアの兵器システムはインドに中国に対する優位性を与えることはなく、中国とロシアの間に存在する信頼関係は、こんな事では揺るぎません。
インドのロシアとの防衛協力の強化とS-400ミサイルシステムの購入は、米国が制裁の可能性をインドに警告した後に行われました。
米国は、S-400の購入についてトルコに既に制裁を課しています。
プーチン大統領のインド訪問で、インドを制裁するかどうかについて厄介なジレンマに直面したため、最も困惑しているのは米国であると中国のアナリストは述べました。
中国のアナリストは、インドと米国の関係の性質はお互いの背中を引っ掻くことであり、両国間に存在するギャップは埋めることができないと述べました。
米国は、インドが無条件で米国に従うことを望んでいましたが、インドは、特に軍事および国家安全保障に関して、米国のために自らを犠牲にし、米国の武器に縛られることはないだろうとアジア太平洋研究局長のラン・ジャンシュエ氏は環球時報に語りました。
ヒンドゥスタン タイムズ紙は、インドに制裁を課すという米国の圧力があっても、インドは防衛調達と国家安全保障上の利益に関して戦略的自治の方針に従うと述べたと伝えました。
ラン氏は、印露関係を弱体化させようとする米国の試みがある中で、インドのロシアとの協力拡大が進んだと述べ、インドは米国との同盟関係から得られる利益について確信していないと述べました。
インドは主要な大国との関係においてフリーハンドを確保するために、今回ロシアに手を差し伸べようとしていると述べました。
米国はインドに二国間貿易や武器販売の割引に関する優遇策を与えていない上に、インドの経済開発権を無視し、気候変動へのコミットメントを要求しました。
いくつかのインドのメディアは、プーチン大統領は、S-400システムの提供がインドが中国に対抗するのに役立つ事から、中国とロシアの間にくさびを打ち込もうとしたと伝えています。
中国の軍事専門家ソン・ゾンピン氏は月曜日に環球時報に、中国は長い間S-400ミサイルシステムを所有しており、その能力に精通しており、購入したS-400は中国に対する脅威にはなりえませんと語りました。
インドのメディアは、ロシアとインドの関係が、中国に対抗するという米国の目的に役立っているとして、米国を安心させようとしているが、ロシアがインドと協力することはロシアが中国との関係を弱めることを意味するという考えはかなり浅薄なものであると中国外務大学国際関係研究所の李海東教授は述べました。て。
専門家は、ロシアとインドは冷戦以来緊密な関係を維持しており、インドはロシアの重要な武器販売市場であり、プーチンの訪問は一般的なトップ外交であり、中国を標的にしていないと付け加えました。
専門家は、中国とロシアの関係は一時的なものではなく、いくつかのメディアが中国とロシアの間に不和をまき散らすことができるという幻想を抱いているようだと述べました。
専門家は、中国、ロシア、インドは、インド太平洋地域の安全保障のバランスを取り、維持し、世界的な戦略的安定を維持する上で合意に達することができると述べ、彼らの積極的な相互作用はユーラシアの戦略的青写真にとって重要であると述べた。
しかし、彼らは、インドが米国寄りの政策を継続すると、地域の不均衡を悪化させ、三国間の関係を危うくする可能性があると警告しました。
焦りも見て取れる中国政府
環球時報は中国共産党系の報道機関ですので、当然中国政府の意向が反映されています。
上記の記事で彼らが伝えたかったメッセージは概ね下記の様なものかと思います。
- プーチン大統領とモディ首相の間で対空防衛システムであるS-400の契約が決まった。これをロシアがインドの対中戦略に軍事的に肩入れしたと見る向きがあるが、それは間違いだ。ロシアと中国の友好関係はゆるがないし、そもそもS-400は中国も既に保有しているので、中国に対する脅威にはなりえない。
- 米国はインドに対してS-400の購入を見送る様、制裁をちらつかしていたので、一番困るのは米国だろう。
- もしもインドが米国よりの政策を続ける様なことがあれば、中露印の3国関係を悪化させ、地域の不安定を招きかねない。
この記事を深読みすると、焦っているのは米国でもロシアでもインドでもなく中国の様な気がします。
国境紛争に端を発する中印関係の悪化を見て、S-400を売りつけたプーチン大統領もさすがですが、米国の警告を無視してまで、昔から関係の深いロシアからの武器購入に踏み切ったモディ首相も更に役者が一枚上です。
インドはおそらく米国とロシアを天秤にかけていいとこ取りをしようと考えていると思います。
中国は、このモディ首相のしたたかさを見て内心焦っているのではないかと思います。
最後まで読んで頂き、有難うございました。
P.S.
それにしても、上記記事で盛んに「専門家によれば」というフレーズが出てきますが、これは中国政府あるいは共産党と読み替えるべきなのでしょうか。