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トルコ大統領の仕掛けた奇策の成否は

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乱高下するトルコリラ

トルコの通貨リラはここ数ヶ月の間、大幅な下落を示してきました。

私もトルコにここ3週間ほど滞在したのですが、その間見る見るうちに通貨の価値が下がっていきました。

今、外国人がトルコに行けば、何でも商品が安く感じられます。

イスタンブールのアップルストアは、11月23日にドルに対してリラが15%下落した際に、店を閉めてしまいました。

その後再開されましたが、あまりの通貨価値の急落に値札を張り替える作業が追いつかない様です。

この通貨の下落は何が原因かといえば、高金利を嫌うエルドアン大統領が中央銀行に圧力をかけて、9月には19%だった政策金利を14%まで下げてしまった為です。

通貨防衛のためには利下げではなく、利上げで対処するのが普通ですが、エルドアン大統領は常識破りの対応を行ったわけです。

同大統領は今週に入ってから、リラ防衛のために新たな奇策を発表しました。

これについて英誌Economistが「Turkey’s president launches a plan to shore up his plummeting currency」(急落する通貨を支える計画を開始したトルコ大統領)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

エルドアン大統領が何か話す時、トルコリラは一般的に暴落します。

しかし最近全く異なる現象が生じました。

トルコの指導者は、自国通貨が過去最低水準に急落した直後の12月20日に、リラを救うために劇的な一歩を踏み出しました。

政府は、為替レートの変動から銀行預金を保護すると発表しました。 リラはその後見事に反発し、18.36リラ/ドルから11.11リラ/ドルに上昇しました。

 

新しい計画では、トルコ政府は、通貨の目減りが銀行が提供する金利を上回った場合はリラ預金の保有者を補償します。

たとえば、リラが1年でドルに対して30%下落した場合、預金率が14%の銀行の口座保有者は、トルコの財務省により差額をポケットに入れることになります。

少なくとも、エルドアン首相の一時的な解決策は、今のところ、トルコの指導者がリラを救出する必要性を認識していることを示して、投資家を安心させています。

スキームはまた、銀行の取り付け騒ぎを防いだ可能性があります。

トルコ人は、過去1か月間、記録的なペースで貯蓄をドルに換金してきました。

最近、彼らの一部はこの流れを完全に撤回することを考え始めました。 

 

リラの崩壊は主に、金利を大幅に引き下げるというエルドアン首相の決定によって引き起こされました。

今週の展開の前に、通貨はわずか2か月でドルに対して価値のほぼ50%を失っていました。

エルドアン大統領は暗黙裏に、利下げを維持する様、中銀に要請しました。

彼は高利貸しに対してイスラムの差し止め命令を発動しました。 

 

しかし、彼が思いついた計画は、実際には、ドルに連動した間接的な利上げです。

「現在の預金金利を受け取り、それに加えて差額を得ることができるので、外貨保有者がリラに切り替えるインセンティブになります」とドバイの金融コンサルタントは述べています。

しかし、それは金融引き締めに代わるものではありません。 「それは持続可能ではありません」と同氏は言います。

「これが実施される限り、財政の負担は増大するからです。」

 

これまで、為替レートの大幅な変動のリスクを背負っていたのはトルコの預金者でした。

これからはトルコの納税者になります。

「過去10年ほどにわたってトルコを支えていたと考えられていた財政は、今や崩壊するリスクがあります」とキャピタル・エコノミクスのジェイソン・トゥベイは書いています。

この措置はまた、トルコのインフレ問題を悪化させるリスクもあります。

ほとんどのトルコ人が実際の率をはるかに下回っていると考えている公式のインフレ率は、11月に21%以上に上昇しました。

アナリストは、特に今月初めに発表された最低賃金の50%の引き上げが発効した後、2022年の前半に最大50%に達すると予想しています。

エルドアン氏の新しい計画は事態を悪化させるリスクがあります。

リラの価値がさらに大幅に下落すると、中央銀行はリラの預金者に返済するためにお金を印刷する以外に選択肢がなくなる可能性があります。

エルドアン氏は、彼自身が付けた火の上に毛布を投げましたが、その 毛布にも火がつく可能性があります。

トルコ経済はこの難局を乗り切れるか

これほど急激なリラ安になると、イスタンブールでは暴動や反政府デモが頻発しているのではと思われるかもしれませんが、そんな動きは全く見られません。

トルコは経済的体力がありますので、ちょっとやそっとした事では、経済は崩壊しません。

欧米のメディアは、トルコの現政権に対して批判的ですので、彼らの書く事をそのまま鵜呑みにするのは危険です。

日露戦争の時に、日本の国債を大量に買った英国の金融資本を日本の救世主の様に称賛する人もいますが、彼らは日本を支援するというよりも、金儲けのチャンスとして見ていた訳で、あまり美談として捉えるべきではないと思います。

彼らは情報戦にも長けていて、当初優勢と見られていたロシア帝国の内部に革命の兆しが芽生えている事をいち早く把握し、ロシアの反政府組織に資金や武器を供給しながら、日本に大金を張っているのですから、相当な悪です。

欧米のメディアは今もこのDNAを継承していますので、騙されない様に十分注意して読む必要があります。

 

しかし、今回のトルコ政府の措置に限って言えば、かなり危ない橋を渡っている感があります。

現地でトルコ人から直接聴取しましたが、市民の実感としてインフレが相当進んている様です。

富裕層は外貨の蓄えがありますからリラ安はそれほどこたえませんが、貧困層にとってひどいインフレは最悪です。

中間層より下の層を支持層とするエルドアン大統領率いる与党にとって、インフレは自殺行為です。

今回の措置は、リラの防衛というよりも、与党の支持層である比較的貧しい国民に対する支援策と言えると思います。

しかし、今回の奇策とも言える措置は、形を変えた利上げ策で、短期的にはリラの防衛になりましたが、金融引き締め策にはなっていません。

もしリラが更に下落した場合、政府は莫大な出資を迫られ、ひいては政府の信用不信、高インフレ、リラの暴落と悪いサイクルに入っていくのではと心配になります。

トルコのファンダメンタルズ(基本的な経済指標)はインフレ率を除いて、かなり良い水準を維持していますが、今回の措置により最後の砦として守り続けてきた財政規律が悪化する事が危惧されます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。