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エルドアン政権の光と影 - 来年の大統領選挙はどうなるか

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大きく評価が変わったエルドアン政権

最近のトルコに関する報道はリラの暴落、高インフレ、強権的な政治体制、欧米との摩擦等ネガティヴなものがほとんどです。

たった10年前には、エルドアン政権は高度経済成長を実現し、貧富の差の縮小に成功し、対外的にはEUとの加盟交渉を前進させ、イスラム教徒が多数を占める民主主義国のモデルとしてもてはやされていました。

この20年間ずっとエルドアン氏が政権を担当しているのに、何故トルコの評価はこれほど変わってしまったのでしょうか。

来年トルコでは大統領選挙が予定されています。

トルコの将来を決定すると言っても良いこの選挙について、米誌Foreign Affairsが「Erdogan’s End Game - Will He Undermine Turkish Democracy to Stay in Power?」(エルドアンの最後のゲーム - 権力の座に留まるために民主主義を犠牲にするか)と題する論文を掲載しました。

著者は米国のシンクタンクWashington Instituteで上級研究員を務めるSoner Çağaptay氏です。

長い論文ですのでかいつまんで要点をご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要点

過去数ヶ月間、トルコのエルドアン大統領はますます絶望的に見えてきました。

彼は、米国とNATO同盟国の一部の外交官を追放すると脅迫しました。

そして、支持率が急落する中、高インフレに対して金利を下げるという無謀な実験に着手しました。

一方で、彼は、彼に対して初めて団結する野党に直面しています。

 

変化は劇的でした。最初は2003年から2014年までの首相として、エルドアン氏は無敵のように見えました。

トルコの中産階級に新たな繁栄をもたらし、彼は公正発展党(AKP)を12回以上の全国選挙で勝利に導いてきました。

しかし、近年、エルドアン大統領の権威主義的ポピュリズムはその魔法を失いました。

クーデター未遂事件以降、彼の政府はますます妄想的になり、クーデターの疑いのある人物だけでなく、民主的な野党のメンバーも追いかけ、数万人を逮捕し、15万人以上の学者、ジャーナリストなどを仕事から追放しました。

現在、彼の支持は劇的に衰退しており、18か月後の大統領選挙で、エルドアン大統領が勝利する可能性は非常に低いと思われます。

そして、汚職と権力の乱用という理由で、彼は訴追される可能性があります。

エルドアン大統領は、公正な投票を妨害したり、1月6日の米国国会議事堂襲撃事件のような暴動を扇動したりするなど、権力にとどまるために、あらゆる手立てを講じる可能性があります。

したがって、この国が直面している緊急の課題は、トルコの民主主義自体の基盤を脅かさず、権力の移行をどのように実現するかです。

 

大きく変わった方針

2003年に政権を握ったとき、エルドアン首相は国の民主的制度を構築し強化する改革者として迎えられました。

当初、彼と与党AKPはその約束を果たそうとしていました。彼はヘルスケアなどの公的サービスを改善し、低失業率と力強い経済成長を実現しました。

エルドアン政権下で、トルコは初めて中流階級の多数派社会になりました。

彼はまた、いくつかの自由を拡大し、特にトルコのクルド人に少数民族の言語の権利を提供しました。

 

しばらくの間、これらの政策によりエルドアンは国内外で人気を博しました。

国内では、保守的で、地方で働く中産階級の熱烈な支持基盤を築きました。

一方で、彼の政府は、イスラム教徒の自由民主主義国家のモデルとして、欧米に支持されました。

しかしやがて、エルドアン氏ははるかに権威主義的な傾向を示し始めました。

彼は長い間国家機関を支配していた世俗主義者を根絶しようと様々な事件を通じて、反対派の取締りを開始しました。

2016年のクーデター未遂事件をきっかけに、以前は味方であったギュレン運動に対しても徹底的な報復キャンペーンを開始し、政府のポストから数千人のギュレン主義者を追い出し、投獄しました。

 

その間、欧米との関係もぎくしゃくし始めました。

2013年、彼はエジプトのシシ将軍の軍事クーデターをオバマ大統領のせいだと主張し、中東のムスリム同胞団との連携を強めました。

又、ロシア製のS-400ミサイル防衛システムの購入も約束しました。

米国との70年の同盟関係は、最大の試練に直面しています。

 

憲法改正

何年もの間、エルドアンは権威主義的なポピュリズムを推進できたのは、分裂した野党のおかげでした。

この分裂は与党AKPが簡単に選挙に勝つことを意味しました。

しかし、2017年、エルドアンは致命的な過ちを犯しました。彼は、トルコの政治システムを議会制民主主義から大統領制に切り替える憲法改正に成功しました。

首相の職を廃止することに加えて、改正はエルドアン氏に行政機構のより直接的な支配を与え、立法府の権限を著しく弱めました。

しかし、この憲法改正は不注意から野党の力を強めました。

議会制の下では、選挙は一度しか行われず、与党AKPは複数のライバルに対して自然な優位性を持っていました。

しかし、新しい大統領制は、2人の主要な候補者の間の決選投票を必要とします。

これは、主要な野党候補が、幅広い反エルドアン連合をまとめる事を可能にします。

現在の野党は多くの問題で異なった立場をとりますが、エルドアン大統領を打ち負かしたいという一点で団結しています。

一方、与党の基盤は崩壊しつつあります。

AKPと、その友党である民族主義者行動党(MHP)を含む与党への支持は、2018年の大統領選挙の52%から、最近では約30〜40%に低下しました。

 

新しい大統領選挙制度に加えて、エルドアン大統領の最大のアキレス腱は経済です。

2018年、エルドアン氏が政権を握って以来初めてトルコ経済は不況に陥りました。

2019年、野党CHPのイマムオールイスタンブールでの市長選挙で勝利し、野党がAKPを打ち負かすことができることを初めて示しました。

しかし、この選挙で、与党の候補者が敗北したとき、エルドアン首相は投票を監督する選挙管理委員会の不正を主張し、再選挙を強制しました。

しかし、有権者はだまされませんでした。

一回目の選挙で、イマムオールは13,000票のわずかな差で勝利しましたが、再選挙では80万票の差をつけました。

 

その結果は、アンカラ市長選での野党の勝利と相まって、エルドアン大統領の無敵のイメージを崩壊させました。

現在の世論調査によると、イスタンブール市長イマムオールと野党の指導者であるアクセネールのいずれも、大統領選挙でエルドアン氏をを破るだろうと予想されています。

景気回復の可能性は小さく、エルドアン大統領の再選は極めて難しい情勢です。

 

現在の状況が続く場合、エルドアン大統領は、トルコの有権者との衝突に向かう可能性があります。

2020年1月の米国の国会議事堂襲撃事件の様に、国政選挙制度に対するそのような攻撃は前例のないものになるでしょう。

それでも、エルドアン大統領の権力を握り続ける決意を考えると、その可能性は否定できません。

2018年以降、エルドアン大統領は意思決定プロセスにおいてますます孤立してきており、大統領官邸内のイエスマンは、かつて彼が依存していた政府の専門家組織に取って代わっています。

エルドアン大統領は「詐欺と違法性」を唱え、裁判所と選挙管理委員会に彼の主張を支持するよう圧力をかける可能性があります。

その時点で、エルドアン大統領は圧倒的な国民の抗議に直面するでしょうが、彼は

警察や軍隊を配備して反対派を取り締まる事が可能です。

 

2番目の可能性は、彼と彼の顧問が事前に投票結果をねじ曲げようとする可能性です。

これは失敗する可能性が高いです。

2019年のイスタンブール市長選の経験が物語っています。

野党は再選挙の際に見事な「投票を保護する」キャンペーンを組織し、投票所を監視し、スマートフォンで投票数を記録し、約10万人のボランティアを集めました。(トルコでは、市民は投票集計を監視することが法律で許可されています。)

2023年の選挙にエルドアン氏が干渉すれば、彼に投票した多くの人々も含め、すぐに反発を引き起こします。

 

エルドアン氏は結果を受け入れることを拒否する可能性があるため、円滑な権力の移行を如何に確保するかは難しい問題です。

 

恩赦の代替案

エルドアン大統領と彼の支持者による大統領選挙干渉の可能性を考えると、野党にとってより良い戦略は、自ら辞任させる方向で大統領と交渉する事です。

エルドアン大統領は、権力を失うことに加えて、汚職、政府によって虐待された多くの人々の苦しみに対する刑事訴追の可能性に直面するでしょう。

野党は彼と彼の家族のための恩赦の見返りに彼を辞任する様、説得することが可能です。

しかし、この交渉の実現は難しいでしょう。

野党の中には彼に対する恩赦を認めたくない人々がいますし、エルドアン氏の支持者の多くは野党との対話を拒否しています。

 

代替案の1つは、伝統的に国民に最も尊敬されている政府機関であるトルコ軍に、エルドアンー野党協定の保証人として行動させることです。

軍指導部は近年、国内政治に関して中立の立場を取っています。

トルコの同盟国として、米国とEUはまた、権力の迅速な移転を支援すべきです。

これはトルコの民主主義が崩壊するのを防ぐため最善の選択肢かもしれません。

 

エルドアン氏の経歴を観察してきた私は、任期の制限が不可欠であると信じるようになりました。

彼が首相に就任してから10年後に現場を去り、強力な経済成長と幅広い支持を得た場合、彼は今日、トルコで最も成功したリーダーの1人と見なされたでしょう。

しかし、近年の彼の権力の追求は、彼とトルコをはるかに危険な方向に導きました。

そして、彼を現職から退けるための効果的な戦略が実行されない場合、彼はトランプ氏の様に「選挙が盗まれた」と主張しトルコを混乱に陥れた指導者として記憶されることになるかもしれません。

長すぎた任期

国のリーダーに任期が必要だという点は全く同感です。

長期政権は必ず膿を生じます。

エルドアン氏が政権についてから10年は正にトルコの黄金時代でした。

この期間にトルコ国民一人当たりの所得はドルベースで3倍になりました。

アラブの春が始まる中、トルコは民主主義国のモデルと評価されていました。

これはあまり日本では知られていませんが、エルドアン氏の功績と言って良いと思います。

しかし、後半の10年は打って変わって暗い時代となりました。

特に2016年のクーデター未遂事件はターニングポイントと言って良いと思います。

この事件をきっかけに多くの人々が公職を追われ、投獄されました。

エルドアン支持派と反対派の二極化が進み、国民は自分と異なる政治的立場の人を受け入れる寛容さを失っていった様に思います。

この点、エルドアン大統領の攻撃的な性格が災いしている様に思います。

 

大統領選挙の行方は上記論文の推測通りになるかどうかわかりません。

エルドアン氏は選挙に大変強く、これまでも負けると予測された選挙で何度も勝利を収めてきました。

彼にはカリスマがあり、野党にはこれと言った魅力的な候補者が存在しません。

しかし、これほどエルドアン大統領の支持率が低下したのは初めてであり、負ける可能性は以前より高まっています。

負けた時にどうなるかは若干心配です。

米国は国会議事堂乱入事件という悪い前例を作ってしまいました。

トルコでも同じ様な事が起きる可能性を否定できません。

そういう事態を防ぐには上記論文の示唆する通り、国軍が憲法の守護神として重要な役割を果たす事が期待されます。

建国の父として尊敬されるアタチュルク初代大統領が軍人だった事もあり、トルコには軍を尊敬するという伝統があります。

 

スムーズな政権交代は民主主義の基本中の基本です。

これが守られない様なら、民主主義国家ではなくなります。

来年の大統領選挙に注目です。

トルコの民主主義が試されています。

間違っても欧米はこの選挙に口を出してはなりません。

外国勢力による陰謀という格好の口実を政治家に与えてしまいます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。