プーチン大統領の即断
市民デモから始まったカザフスタンの暴動事件は、カザフスタン政府の要請に答えたロシア政府が即座に空挺部隊を現地に派遣しました。
暴動は鎮圧された様です。
燃料高騰をきっかけに始まった今回の事件の真相は何だったのか。
この点について英誌Economistが「Central Asia will remain unstable, however many troops Russia sends - Events in Kazakhstan are not what they seem」(不安定な中央アジアに送られるロシアの軍隊 しかしカザフスタンでの出来事の本質はそこではない)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
先週、旧ソ連における自由と民主主義の新たな後退、そしてプーチン大統領の新たな軍事的示威活動が見られました。
それはカザフスタンの最近の出来事を読む一つの方法であり、そこにはいくつかの真実があります。
燃料価格の高騰に対する不満が、腐敗した独裁政権に対する広範な抗議行動にエスカレートし、その後、政府の建物に対して暴徒が攻撃を始めた時、当局はこれに反撃を開始しました。
彼らは警官隊に警告なしに発砲する事を命じただけでなく、ロシアのプーチン大統領に空挺部隊を派遣することを要請しました。
カザフ人の権利は激しく踏みにじられ、プーチン氏は再びこの地域の王者としての地位を確認しました。
彼は、旧ソ連ではこれ以上「カラー革命」を許さないだろうと宣言しました。
これは腐敗した抑圧的な政府が、市民による平和的な抗議を常に打ち砕くことができるようにすることを意味します。
しかし、この見方は誤解を招く可能性があります。
確かに、権威主義体制は権力に固執して武力を行使し、プーチン氏は地域でのロシアの優位性を主張しています。
しかし、それは今回の暴動が実はカザフスタンのエリート間の権力闘争であった事を覆い隠します。
今週まで、カザフスタンの大統領、トカエフ氏は、彼の前任者であるナザルバエフ氏によって構築されたシステムを守るための単なる中継ぎと見なされていました。
しかしデモ隊が非難したのはナザルバエフ氏であり、混乱によって明らかに最も弱体化したのはナザルバエフ氏です。
彼の取り巻きは、市民のデモを自分の目的のために利用したとして非難され、政府の上級職から解任され、ナザルバエフ氏自身も国家安全保障評議会の議長から解任されました。
今回の事件の結果、穏やかな改革派のトカエフ氏にとって、ナザルバエフ氏が遺した歪んだ国家を彼の意に沿ったものに作り替える事が容易になった事は間違いありません。
同様に、プーチン氏がキングメーカーとして支援を要請された事は彼にとって喜ばしいことですが、カザフスタンと更に言えば中央アジアの国々が、今後、彼にとって問題の原因になる可能性を忘れてはなりません。
一つには、彼はナザルバエフ氏を真似て、彼と仲間の利益を保護するような引退の形を作り上げようとしていた節があります。
しかし、今回の事件はそれが難しいことを示唆しています。
さらに、カザフのエリート間の権力闘争は、中央アジアがいかに手に負えないかを示しています。
この地域は、多くの言語と民族があり分裂した地域です。
中央アジアの7,500万人の人々のほとんどは、少なくとも名目上はイスラム教徒ですので、世俗的な政府は、信心深い国民が彼らに反旗を翻すのではないかと恐れています。
影響力を増したロシア
今回のカザフの騒乱がカザフ政府内の権力闘争に発展したとの分析は正しいと思います。
ひょっとするとトカエフ大統領は最初からシナリオを書いて、事前にプーチン大統領から協力の約束を取り付けていたかもしれません。
今回、ナザルバエフ大統領の右腕と言われたマシモフ元首相が逮捕されたり、前大統領の長女ダリガ氏が一昨年国会議長を解任されたりした事を考えると、トカエフ大統領は周到にナザルバエフ氏から権力を奪い取ろうと工作してきたふしがあります。
一方、「プーチン大統領は今回の権力闘争の勝者では必ずしもない」との分析はどうかなと思います。
カザフスタンは中央アジアの中では、圧倒的にロシア系住民の数が多い事(約2割)で知られています。
ロシア系住民が多いと言う意味ではウクライナと似ています。
そんなカザフスタンの初代大統領となったナザルバエフ前大統領は、慎重にかつ巧妙にロシアの影響力を排除しようと動いてきました。
公用語にカザフ語を加えたり、ロシアとのバランスをとるために中国が提唱する上海条約機構に加盟したり、西側の投資を引き込んだのもロシア離れの一環です。
しかし、今回トカエフ大統領はプーチン氏に軍隊の派遣を要請しました。
これはロシアにとってみれば渡りに船だったと思います。
今後、トカエフ大統領はロシアに足を向けて寝れません。
以前ナザルバエフ前大統領が目指したロシアから一歩距離を置いたカザフスタンは実現不可能になったのではないでしょうか。
今後、注目は中国の出方です。
既に習近平主席は、今回の暴動に関して政府による鎮圧を肯定する声明を発表した様ですが、中国にとってもカザフスタンは長い国境線を共有する重要な隣国です。
しかも国境を挟んでウイグル系の民族が両国に居住しており、カザフスタンの安定は中国にとっても重要です。
一帯一路の重要拠点であるカザフスタンにおいてロシアの影響力が増していくことに、中国がどう対処するか注目されます。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。