MIYOSHIN海外ニュース

世界の役立つ情報をわかりやすくお伝えします。

NATO東方拡大の是非

f:id:MIYOSHIN:20220119194113j:plain

膨れ上がったNATO加盟国

NATOはご存知の通り、冷戦時代に米国が西ヨーロッパの国(トルコを含む)と結んだ安全保障条約です。

当初12か国で結成されましたが、今やその加盟国は30か国に膨らんでいます。

最近、ロシアとの紛争で良く話題になるウクライナやジョージアは加盟していませんが、加盟希望国としてNATOに認知されています。

NATOの東方拡大の動きに対して、米誌Foreign Affairsが「Time for NATO to Close Its Door - The Alliance Is Too Big—and Too Provocative—for Its Own Good」(NATOへの新規加盟はもはや受け入れるべきでない - 大きくなりすぎ、挑発的となった同盟)と題した論文を掲載しました。

著者のMICHAEL KIMMAGE氏は近代史の専門家です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

西ヨーロッパを保護するために1949年に設立されたNATOは当初大きな成功を収めました。

それはソ連を寄せ付けず、平和を維持し、西ヨーロッパの経済的および政治的統合を可能にしました。

冷戦の終結後、NATOはその扉を多くの国に開放しました。

今日、同盟は、北米、西ヨーロッパ、バルト三国、トルコを含む30か国に膨れ上がっています。

この安全保障同盟の巨大さとそのミッションのあやふやさは、ヨーロッパの主要な戦争にNATOを巻き込む危険性があります。

 

大きければ良いわけではない

元々のNATO同盟は3つの主要な機能を果たしました。

何よりもまず、防御でした。

ソ連は第二次世界大戦中に急速に西に進み、独立国を飲み込み、ヨーロッパの主要国としての地位を確立しました。

NATOはソ連との間に境界を設定し、それを管理しました。

第二に、NATOは西ヨーロッパの安全保障の固有の問題、特にフランス、ドイツ、イギリスの対立問題を解決しました。

仏独英を永遠の敵から確固たる同盟国に変えることは、永続的な平和の秘訣でした。

最後に、NATOは、ヨーロッパの安全保障への米国の関与を保証しました。

 

1949年から1989年まで、NATOはこれらの主要な機能をすべて果たしました。

NATOは非常に効果的に平和を維持したため、フランスとドイツの間の戦争は考えられなくなり、最終的には欧州連合の創設が可能になりました。

ベトナム戦争やウォーターゲート事件にもかかわらず、米国は決してヨーロッパから撤退しませんでした。

言い換えれば、NATO同盟は見事に機能していました。

 

しかし、その後、劇的な再定義の時期が訪れました。

クリントン大統領とジョージ・W・ブッシュ大統領は、2つの仮説に基づいてNATOを再定義しました。

第一に、NATOはヨーロッパの平和と安全を保証するための最良の手段であるということでした。

ひいては中東欧のヨーロッパ諸国がNATOに加盟すれば、彼らが核兵器を保有して、平和を脅かすリスクを減らせると考えました。

ドイツのコール首相はロシアがいずれ復活してくると考え、拡大されたNATOはロシアに対する防波堤になりうると考えました。

 

2番目の仮説は、国際秩序についての楽観的な考えに続いています。

ロシアは民主主義への道を進んでおり、ロシアの民主主義がいずれNATOとの協力を行う様になるだろうと考えました。

西洋モデルがロシアをヨーロッパに引き付けると考えたのです。 

 

NATO拡大の背後にあるこの二つの仮定は、その後的外れであることが判明しました。

冷戦時代西ヨーロッパのために作成されたNATOは、鉄のカーテン、地理的障壁によって区切られていました。

現在、鉄のカーテンに相当するものはなく、代わりに、同盟は無秩序に東ヨーロッパ全体に広がっています。

 

NATOの拡大という危険は、門戸開放政策によって悪化しています。

ウクライナとジョージアがいつか加盟するというNATOの2008年の宣言は、不誠実な約束であり問題を孕んでいます。

NATOに参入しようとするウクライナ政府の意欲は、この地域で最も危険な民族主義的紛争に同盟を巻き込みました。

ポーランドやリトアニアなどの加盟国がロシアとウクライナの間で進行中の戦争に巻き込まれた場合、同盟の存在を脅かす可能性さえあります。

 

NATOの拡大に対する追加のリスクは、NATOの拡大が、プーチン氏のロシア国内における彼の支持基盤を強化しかねない事です。

NATO拡大は彼が唱える欧米の裏切りの物語を正当化します。

ロシアでは、NATOは非友好的であると認識されていますので、その拡大は、プーチンの国内の政治的正当性の柱です。

 

防御に戻る必要性

NATOは、これ以上加盟国を追加することを明確に拒否することによって進路を変更しなければなりません。

ウクライナを組み込むことは大きな過ちになるでしょう。

門戸開放政策自体がウクライナ(およびジョージア)を侮辱し、やがてワシントンに対する悪意を生み出すでしょう。

できない事を約束すべきではありません。

同盟は、拡大の長い段階が終わったことを明確にする必要があります。

門戸開放政策を終わらせることは、実行するのと同じように困難な仕事ですが、中央および東ヨーロッパの安全保障体制を再考することは、プーチン氏への譲歩ではありません。

それどころか、20世紀で最も成功した同盟が21世紀に生きながらえ、繁栄するために不可欠な作業です。

NATO拡大はリスクの拡大に

この論文はNATOが安全保障条約である事を改めて再認識させてくれました。

安全保障条約においては、一つの国でも第三国と戦争を始めれば、他の国は同盟国を守るために参戦する義務が生じます。

もしウクライナが加盟国であれば、ウクライナ政府が恣意的にロシアと交戦を開始した途端に、米国や欧州はその火遊びに付き合わされるという事です。

経済連合や民主主義連合などと安全保障上の同盟国はその重みが全く違います。

米国は不用意にロシア近隣諸国に足を踏み入れない方が得策の様に思います。

もう一つこの論文が再認識させてくれた事は、元々NATOはソ連を中心とした共産圏の西進を阻む防御を目的に設立されていた事です。

NATOの東方拡大は本来のNATOの使命から大きく逸脱していることがわかります。

 

この論文はこの米誌Foreign Affairsで今週最も読まれた論文ですが、米国の読者がこの論文に注目しているという事は、米国自身の欧州離れがかなり進んでいる事を意味しているのかも知れません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。