ウクライナをめぐる米露の睨み合い
ロシアとウクライナの紛争は今も続いています。
プーチン大統領は本気で米国に譲歩を迫っている様で、ロシアが米国に要求している内容もウクライナをNATOに加盟させない事と明確です。
米国は金融制裁をちらつかせて、ロシアを思いとどまらせようとしていますが、どうなるでしょうか。
一方で、米国はウクライナに対してスティンガー対空ミサイル(歩兵が肩に担いでヘリコプターなどを狙う)など武器供給を最近決定しました。
この様な動きに対して米誌Foreign Policyが「The West’s Weapons Won’t Make Any Difference to Ukraine - U.S. military equipment wouldn’t realistically help Ukrainians—or intimidate Putin.」(ウクライナに何の違いももたらさない西側の軍事援助- ウクライナを助けたり、プーチンを威嚇する事ができない米国兵器)と題した論文を掲載しました。著者は米国シンクタンクRand CorporationのSamuel Charap氏です。
Foreign Policy論文要約
ロシア軍がウクライナとの国境に集結する中、米国政府は、ウクライナの防衛を如何に支援するかにますます焦点を合わせています。
今週、バイデン政権はウクライナへのスティンガー対空ミサイルの供給を承認しました。
一部の人々は、ウクライナへの米国の軍事支援がロシアが攻撃を開始するのを思いとどまらせる可能性があると主張しています。
また、ウクライナが勝つことは期待できないが、ロシアに高い代償を払わせる事ができる、すなわち、ロシア軍の人的損害を増やす事によりロシア国内でプーチン大統領に対する批判を引き起こす事が可能だとする声もあります。
これらの議論はどれも説得力がありません。
それはウクライナとの安全保障協力をやめるべきだという意味ではありません。
軍事援助がこの危機を解決するための効果的な手段ではないと申し上げたいのです。
2014年以来、ロシアによるクリミアの併合とドンバスの侵略に続いて、米国はウクライナに25億ドルを超える軍事援助を提供してきました。
この支援は主に、ドンバスでのロシアが支援する分離主義勢力との紛争におけるウクライナの能力を改善することを目的としています。
しかし重要なことは、ウクライナ軍はドンバスでロシア軍と戦っているわけではない点です。
確かに、ロシアはウクライナにおける分離主義勢力を武装させ、訓練してきました。
しかし、ウクライナ政府自身も説明していますが、反乱軍の大多数はウクライナの人々で構成されており、ロシア軍の兵士ではありません。
今回、報告された大規模なロシア軍の国境近くへの集結は、過去7年間の小競り合いとは根本的に異なることを示唆しています。
ロシアには、数万人の要員、数千台の装甲車両、数百機の戦闘機が関与する大規模な共同攻撃作戦を実行する能力があります。
その気になれば、壊滅的な空爆とミサイル攻撃を皮切りに、ウクライナの奥深くに侵入して、基地、飛行場、および兵站部隊を攻撃するでしょう。
要するに、今回ロシアが企図する戦争はウクライナにおける現状の小競り合いとは全く異なるのです。
それはロシアを抑止するという米国の軍事援助の正当性を損ないます。
ウクライナ軍はドンバスでの小規模の紛争で戦うように形作られているため、ロシア正規軍の脅威に対する抑止力はありません。
米国の提供する兵器にも抑止力はありません。
ロシアが大規模な戦争を開始し、西側からの莫大な経済制裁を受ける覚悟があるのであれば、米国の軍事援助が何であれ、それを阻止することはできないでしょう。
戦争が始まると、ウクライナ軍はほぼ即座に絶望的な状況に陥ります。
ドンバスにあるウクライナの要塞は、現代のマジノ線(第二次世界大戦前に構築されたフランスの要塞、難攻不落と言われたがヒトラーに簡単に突破された。無用の長物の例え)のように見えるかもしれません。
簡単に迂回され、破壊されます。
ウクライナの国土が大きいという事は、陸軍が広い地域を移動する必要があることを意味します。
機動戦は、はるかに優れた訓練と装備を備えたロシア軍に有利です。
ロシア軍は、シリアでの戦闘で、無人機による長距離攻撃や偵察を実践してきました。
そのパイロットはシリアで実戦を経験しています。
ウクライナ軍は主に古いソ連製兵器を運用しており、ロシア軍はその弱点を熟知しています。
要するに、軍事バランスはロシアに圧倒的に有利ですので、米国が提供するかもしれない軍事援助は、紛争の結果を決定する上でほとんど無意味になるでしょう。
今回の軍事援助は、ウクライナがロシアに占領された場合、ウクライナの反乱軍がロシアの占領軍に代償を払わせる事が可能だとの議論もあります。
多くの人が、1979年のソ連侵攻後のアフガニスタンのムジャヒディンに対する米国の援助の類似性を念頭に置いています。
ロシアが敵対的なウクライナ人の多い地域で長期占領を試みた場合、これらの形態の支援は、ロシアに問題を生じさせる可能性があります。
しかし、ウクライナ蜂起軍への米国の支援は、紛争が始まる前に議論されるべきではなく、長期にわたる紛争中の最後の手段であるべきです。
平時であれば、米国がウクライナに軍事支援を提供するのには多くの正当な理由があります。
しかし、現在は平時ではありません。
軍事援助は今や危機の解決には役に立ちません。
侵略の危険にさらされている米国のパートナーを助けることは道徳的に正当化されるかもしれません。
しかし、ウクライナに対する潜在的な脅威の規模を考えると、米国が支援できる最も効果的な方法は、外交的解決策を見つけることです。
駆け引き上手のプーチン大統領
プーチン大統領は究極の現実主義者であり、彼はウクライナへの侵攻の損得を冷静に分析している筈です。
冷戦後徐々に旧共産圏の国々をNATOに侵食されたロシアにしてみれば、ウクライナは最後の砦であり、この国がNATOに加盟することだけは何としても食い止めなければならないと考えているでしょう。
そしてバイデン 政権がウクライナに対してできる事が限定的な今こそ、絶好の攻め時だと考えているものと思われます。
勿論、ロシアがウクライナに侵攻すれば、西側から厳しい経済制裁を課されることはプーチン氏は十分認識しており、彼はぎりぎりまで外交交渉を続けようと思っている筈です。
しかし振り上げた拳はおろしません。
それは外交交渉に役立ちます。
この点、ロシアに比べて米国の対応は不手際が目立ちます。
「ウクライナに軍隊は派遣しない」とか「小規模の侵攻ならロシアへの制裁は厳しいものにならない」とか、ロシアとの交渉を不利にする声明を続け様に発していますが、この調子で行けば、ロシアに足下を見られるのは必至です。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。