既に営業開始した無人運転タクシー
中国は猛烈な勢いでAI技術を進展させている様です。
北京市では既に無人運転タクシーが営業を開始している様ですので、西側諸国をこの分野では凌駕している様に思えます。
実際のところ、彼らの技術はどこまで進んでいるのでしょうか、
米中対立が進み、西側の技術を以前の様に安易に入手できない中、問題は生じていないのでしょうか。
この点について英誌Economistが「Can China create a world-beating AI industry?」(中国は世界をリードするAI産業を作り出せるか)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
2017年に中国共産党は技術経済マスタープランの中心にAIを置きました。
その計画は良いスタートを切っている様です。
電子商取引企業であるJD.comのロジスティクス部門は、上海近郊で世界で最も先進的な自動倉庫の1つを運営しています。
5月、中国の検索大手であるBaiduは、北京で自動運転タクシーを開始しました。 SenseTimeの「スマートシティ」AIモデル(交通事故から違法に駐車された車まですべてを追跡する都市監視カメラ)は、中国および海外の100を超える都市に配備されています。
中国は、他のどの国よりも多くのAI支援産業用ロボットを配備しています。
そして2020年には、この分野での論文発行でアメリカを上回りました。
上場している中国の最も著名な5つのAI関連企業は、合計で約1,200億ドル(13.5兆円)の価値があります。
確かに、中国のAIは進歩を遂げている様ですが、投資と最先端のイノベーションの両方の点で、アメリカに遅れをとっています。
中国の5年前のAIマスタープランは、いくつかの目標を設定しました。
たとえば、2025年までに、技術の「主要なブレークスルー」を達成し、一部のアプリケーションで世界をリードするとしました。
この目的達成のために、国は様々な形(補助金、減税、政府調達)でAI企業を支援してきました。
国はまた、AI企業に直接投資しています。
ウイグル人の少数民族に対する弾圧を理由に制裁対象となったSenseTimeは中国政府の基金より直接投資を受け入れました。
しかし、中国のAI産業は未だに西側に後れを取っています。
出版された論文数は確かに多いですが、引用された論文の数はそれほどではありません。
それは、次の3つの理由で持続する可能性があります。
第一に、資本が効率的に配分されていない可能性があります。
ランカスター大学のZengJinghanは、補助金を吸い上げるためにAIを開発していると虚偽の報告を行う企業が存在すると主張しています。
コンサルタント会社であるデロイトは、2018年の自称AIスタートアップの99%が偽物であると推定しました。
そのような大騒ぎは公的資金だけでなく、人的資本も浪費すると予想されています。
中国の2番目の問題は、世界最高のAI研究家を採用できないことです。
シカゴを拠点とするシンクタンクであるMacroPoloによる2020年の調査によると、この分野のトップクラスの研究者の半数以上が母国以外で働いています。
アメリカとヨーロッパは、彼らにとり中国より魅力的に見える様です。
世界のトップAIタレントの約3分の1は中国出身ですが、実際に中国で働いているのは10分の1にすぎません。
党にとってさらに問題なのは、そのマスタープランがAIに不可欠な最先端の半導体を無視したことです。
事実上そのような半導体の全てがアメリカ製であるか、アメリカ製の機器で作られています。
そのため、トランプが採用し、バイデンが延長した中国企業への禁輸により、中国が追いつくには何年もかかるでしょう。
これらの課題は、今後数年間、中国のすべてのハイテク産業を悩ませ続けるでしょう。
現在彼らが置かれた状況を考えれば、彼らが当面できる事は、新境地を開拓するのではなく、既存のテクノロジーを改善することです。
いくら税金を中国政府が注ぎ込んだところで、この状況を変える事はできません。
海亀は母国に帰るか
少し前まで、中国は多くの留学生を米国に派遣していました。
その数は20万人以上と言われています。同時期の日本人留学生は2万人に満たない数ですから10倍以上の留学生を送っていたわけです。
米中対立の煽りを受けて、中国の留学生は減少していくと思いますが、この20万人の中国人留学生が母国に帰り、米国で学んだ技術を普及させていった事が、中国のAI技術の発展に大きく貢献した事は想像に難くありません。
しかし上記のEconomist記事によれば、米国でAIを研究した中国人留学生は母国に帰らず、欧米に留まっている模様です。
中国が米国との技術競争に勝利するためには、少なくとも中国人留学生を母国に帰還させる必要があるでしょう。
外国で勉強し、その後母国に帰る学生のことを中国語で「海亀」と呼ぶそうですが、この海亀の数が、米中の技術競争の勝敗を分ける事になるかもしれません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。