プーチン氏の計算
ウクライナに滞在するアメリカ人は即刻退避する様にとの勧告が発表されました。
ウクライナをめぐる緊張はかなり高まっている様です。
今回の仕掛け人はプーチン大統領ですが、百戦錬磨の彼は今回の事件においてどの様な勝算を立てているのでしょうか。
米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「How Events in the U.S., Germany and China Embolden Putin」(プーチン氏の大胆不敵の裏には米独中の特別な事情が)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
WSJ記事要約
プーチン大統領の心中を読むのは簡単ではありません。
特に現在のウクライナをめぐる危機については尚更です。
しかし、プーチン氏がこの時期にウクライナ侵攻を準備し、実行に移そうとしている背景を丹念に分析すると、重要な事実が浮かび上がってきます。
彼はウクライナが彼の手中から滑り落ちようとしているので、アクションを起こそうとしていますが、彼が自由に行動できると思う理由は、実は他の3つの国、米国、ドイツ、中国にあります。
この三国の組み合わせが実際にプーチン氏を駆り立てているのであれば、彼を思いとどまらせることは難しいでしょう。
彼は切迫感と同時に絶好のチャンスだと感じているかもしれないからです。
動機はウクライナから始まりました。
プーチン氏自身の強引な行動のせいで、少なからずウクライナは西側に傾きかけています。
彼のクリミア侵攻、脅迫はすべて、プーチン氏が意図したものとは逆の結果をもたらしました。
彼は今彼自身が育んだウクライナ人の反露、親欧米感情を逆転させる必要性を感じています。
「プーチン氏は、西側とウクライナの間の関係強化を見ています。欧米は武器と訓練を提供しています。ウクライナはNATO加盟国ではないかもしれませんが、安全保障関係は日ごとに強くなっています。状況が不可逆的になる前に行動する事が急務となっています。」と、元国防長官でCIAの責任者であり、ロシア専門家であるロバート・ゲーツは語ります。
それが行動する理由です。
しかし、なぜプーチン氏は隣国の主権を踏みにじっても、報いを受けずに済むと考えるのでしょうか?
民主主義の中核を形成する選挙そのものの妥当性に疑問を投げかけることで、米国民が深く分裂しているとプーチン氏が分析している事から始めましょう。
これは、米国が断固として行動する力が内部の争いによって弱められていること、そしてその民主主義モデルが弱まっていることを示唆しています。
しかも、オバマ、トランプ、バイデンの3人の直近のアメリカ大統領は、言葉と行動を通して、アメリカ人が外国への関与、特に軍事的関与にうんざりしていることを明確に示してきました。
ロシアのウクライナ侵攻に対して米国が軍事的対応を開始する可能性はほとんどありません。
昨年のアフガニスタンからのアメリカ軍の不手際な撤退は、プーチン氏を勇気づけたでしょう。
同時に、ドイツはプーチン氏に、ロシアの侵略に対して西側が結束した行動をとれないと疑う理由を与えています。
2022年末までにすべての原子炉を閉鎖するというドイツの決定により、ドイツはこれまで以上にロシアのガスに依存するようになりました。
すなわち、プーチン氏のドイツに対する脅しは現在極めて効果的です。
ドイツ当局はウクライナとの関係について口では批判していますが、行動は別です。
エストニアがウクライナに連帯を示して武器を送りたいと思ったとき、ドイツはドイツ製武器の輸出許可を発行することを拒否しました。
一方、プーチン氏の中国との深い関係は、ウクライナ情勢にも影響を与えています。
プーチン氏と習近平氏は緊密な友情を示しており、プーチン氏は来たる北京冬季オリンピックで注目を集めるゲストになるでしょう。
中国とロシアは、米国を弱体化させることに共通の関心を持っており、ウクライナでのロシアの成功は、台湾での中国の試運転となる可能性があります。
ゲイツ氏は、西側の経済制裁を相殺するため、ロシアが中国と協議している事は間違い無いと述べています。
もちろん、プーチン氏の読みが外れる可能性はあります。
しかし、プーチン氏が罰を受けることなく済むと考える理由を探るとすれば、それらはプーチン氏の目前にまさに並べられています。
プーチン氏の勝算
戦争を起こす際に、相手国や周辺国の国内事情を詳細に分析するのは定石と言われています。
プーチン氏がウクライナを侵攻しようとすれば、確かに今が最も条件が揃っているかもしれません。
米国は民主主義システムが機能不全に陥っており、思い切った決断ができません。
欧州、特にドイツはロシアのガスに依存しています。
中国は米国との対立が深まる中、ロシアとの接近を望んでいます。
更に言えば、米国はロシアとの決定的な対立は避けたいと内心では思っている筈です。
もし本格的な制裁を課す様な事態になれば、ロシアは中国に完全に取り込まれます。
それは米国の外交を益々困難にさせるでしょう。
現在、ジュネーブで米露が外交交渉を行っていますが、プーチン氏の狙いは、最大限の圧力をかけながら、外交交渉で獲得できるものは獲得してしまおうというものではないかと思います。
従って筆者はロシアは大規模な侵攻は行わないと推測していますが、実際はどうなるでしょうか。
ウクライナ情勢から当面目を離せません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。