海外マスコミを非難するウクライナ大統領
最近のウクライナに関する報道の中で奇妙なニュースに目が止まりました。
西側の本格的支援を受け始めたウクライナの大統領が欧米に対して冷静になってくれと懇願し始めたのです。
英BBCの記事によれば、28日キエフでの記者会見に臨んだウクライナのゼレンスキー大統領はロシアによる侵攻の脅威について質問を浴びせる外国人記者に対して「あなたがた報道機関そのものがパニックを作り出している。」と非難した様です。
ウクライナに滞在する米国人の国外退去を勧告した米国政府の判断も同大統領は非難しています。
ロシアの圧力を受けているウクライナとしては、その脅威を強調するのが良さそうなものですが、何が起きているのでしょうか。
この点について、米誌Foreign Policyが「Russia Can Win in Ukraine Without Firing a Shot」(ロシアは一発も撃たずにウクライナで勝てる )と題した興味深い記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ほとんどの人がロシアとウクライナの国境に展開するロシア軍に注意を払っていますが、本当はウクライナに関する保険料の推移に注意を払うべきです。
ウクライナでのビジネスに保険をかけることはますます困難になっています。
そして保険がなければ、ビジネスはできません。
兵士を1人もウクライナに送らなくても、ロシアはウクライナを経済的に破綻させる事ができます。
ロンドンでは、合同戦争委員会(JWC)が四半期ごとに開催されます。
アンドリュー モウルトンが委員会の議長を務めています。ニール・ロバーツはその事務局長です。
モウルトンや他のJWCのメンバーのことを聞いたことがありませんよね?
それはこの委員会が保険会社で構成されているためです。
保険会社や引受会社が国、地域、または貿易ルートをどのように判断するかは非常に重要です。
2019年7月にイランのイスラム革命防衛隊がホルムズ海峡でスウェーデン所有の石油タンカーを押収した後、JWCはこの海峡をリスクの高い場所としてリストに追加し、他の保険会社に警告を行いました。
「現在、私たちはウクライナを注視しています」とロバーツ氏は先週私に語りました。
JWCにとって、ウクライナに目を光らせるということは、黒海の民間船に対するリスクを評価することを意味します。
黒海を通じて、ウクライナは膨大な量の商品を受け取り、輸出します。
ロシアはウクライナの最大の貿易相手国であり、ドイツがそれに続きますが、ウクライナは世界中から商品を売買しています。
最近、貨物船が直面するリスクには、船のレーダーへの干渉も含まれます。
船が別の場所にあることを示すこのような干渉は、乗組員を混乱させ、衝突を引き起こす可能性があります。
そのような干渉はすでに起こっており、その一部はロシアが行っているようです。
JWCがウクライナとその隣接海域で戦争が差し迫っていると結論付けた場合、JWCはすぐに召集され、エリトリアとリビアと同じカテゴリーに分類されます。
そうなれば、これら地域は海運会社に敬遠される事となります。
更に本当の戦争が始まると、ウクライナは紛争のカテゴリーに分類されます。
そうなれば港から商品を持ち込みたい企業は、保険会社を見つけるのに苦労するでしょう。
保険がなければ、ビジネスは非常に危険です。
西側諸国では、それは違法です。
保険ブローカーWTWによれば、60の保険会社の内、3社しかウクライナの政治リスクを負わないと答えた様です。
付保すると答えた彼らでさえ慎重です。
彼らは会社の国籍を調べ、会社が国内でどのような種類の商品を持っているか、そして戦争の場合に没収または略奪されるリスクがあるかどうかを調べます。
過去数年間で、ウクライナの保険料率は急騰しました。
2016年までは、たとえば、最大リスクが1,000万ドルの企業は、年間55,000ドルの保険料を支払っていましたが、今日、保険料は 25万ドルです。
「そしてそれはあなたが運良く保険に加入できた場合です。」とバーンズ氏は述べました。
紛争に関して言えば、保険会社は「炭鉱のカナリア」(坑内の安全を確認するためにカナリアを炭鉱に持ち込む)です。
彼らは地平線上のリスクに敏感に反応します。
バーンズ氏は1990年代と今世紀の最初の15年間の違いを振り返りました。
「企業は世界中に出かけました。現在、彼らは世界中に拠点を持っており、リスクレベルが以前とは異なることに気づいています。実際、リスクレベルが劇的に異なる場合もあります。私たちはもうパックスアメリカーナの時代ではありません。」
JWCのような団体や保険会社は、民間企業です。
グローバル化が進んだにも拘らず、より混乱している世界でリスクの高いビジネスを引き受ける義務はありません。
ウクライナにとって残念なことに、それはロシアが国境を越えて一人の兵士を動かすことなくウクライナの経済を屈服させることができることを意味します。
プーチン氏の深読み
プーチン氏が何を考えているのか推測するのは難しいですが、冷静に内外の情勢を分析し、作戦を立てている筈です。
彼の究極の狙いはウクライナをNATOに加盟させないという事ですから、ウクライナを経済破綻させて、現政権を引き摺り下ろし、親露派の候補を大統領にさせるというシナリオもある筈です。
国境に軍事演習と称して軍隊を集結させ、ウクライナのカントリーリスクを高める事はウクライナ経済を窒息させる有効な手段である様に思われます。
ウクライナの国民は決してロシアが好きだという訳ではないと思いますが、経済が崩壊して路頭に迷う事だけは避けたいと思っている筈です。
ウクライナにとってロシアは最大の貿易相手国であり、かつロシアからウクライナを通って欧州に至るパイプラインから得られる天然ガス通行料収入は毎年数千億円に上り、貴重な収入となっています。
ロシアがウクライナの危機を演出し、ウクライナ経由のパイプラインを使用停止にすれば、ウクライナは早晩干上がります。
プーチン氏はこけおどしの軍隊をちらつかせながら、目標を達成しようとしているのかもしれません。
西側がウクライナを本気で助けようとするなら、軍事援助ではなく経済援助が必要の様に思われます。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。