英米を非難するウクライナ大統領
ウクライナの危機は長期化の様相を呈しています。
英米のメディアは今にもロシアが侵攻を開始するかの様に、危機のリスクを強調していますが、ロシアは彼らが予想する様に侵攻のリスクを犯すのでしょうか。
興味深い事実は、ウクライナの大統領ゼリンスキー氏がロシアのウクライナ侵攻の可能性が高いとするバイデン 大統領の分析を否定した事です。
何故、このタイミングでゼリンスキー大統領はこの様な行動に出たのでしょうか。
この点について、英誌Economistが「Why Ukraine’s president is talking down the threat from Russia」(ウクライナ大統領がロシアの脅威を過大評価するなと主張する理由)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ウクライナで流血騒ぎが起こる可能性は本物でしょうか、それとも偽物でしょうか?
1月31日、当局は、ウクライナで暴動を起こすことを計画していると主張したグループを逮捕しました。
陰謀は、数千人の金で雇われた反政府抗議者、発煙弾、そしてメディアに放映させる為の偽の血液などを含み、偽の救急処置を行うため医師も動員されたと言われています。
ウクライナの警察署長はこのグループの目的は警察の残虐行為を誇張して国民の不安を掻き立てる事だと説明しました。
2日前、ウクライナ政府は、ロシアがウクライナ国境の軍隊に輸血用の血液を供給したとのアメリカ諜報当局からリークされた情報を否定しました。
「このような情報の目的は、私たちの社会にパニックと恐怖を広めることです」と、国防副大臣のハンナ・マリアーはフェイスブックに投稿しました。
ウクライナとアメリカの対応には食い違いが見られます。
アメリカは差し迫ったロシア侵略の可能性を警告してますが、ウクライナ大統領であるゼレンスキー氏は、最も深刻な脅威は内部から来るのではないかと考えています。
ロシアのウクライナ侵攻は「確実」であり、首都キエフは「占領」される可能性があるという、バイデン 大統領の現状分析をゼレンスキー大統領は否定しました。
彼は外国の指導者たちの悲観的な見方を非難し、ロシアの軍事的脅威は目新しいものではないと説明しました。
「私はウクライナの大統領です。ここに拠点を置いています。他のどの大統領よりも詳細をよく知っています」とゼレンスキー氏は語りました。
多くの外国人外交官は、ゼレンスキー氏の言動に当惑を隠せません。
彼は西側から緊急の武器配給を要求している一方で、それらの武器が必要とされる戦争の可能性を否定していると非難しています。
今週米国政府は、ウクライナ政府を通さずに地元住民に直接侵入のリスクを説明を試みました。
英国首相であるボリス・ジョンソンは2月1日にキエフを訪問し、ロシアが現在「ウクライナに対する過去最大の示威活動」を行っていると強調しました。
ウクライナは8年間、ドンバス東部地域でロシアの支援を受けた分離主義者と戦争を続けてきました。
ロシアは彼らにとって永続的な脅威です。
状況に対して慎重な態度をとる多くのウクライナ人は、ゼレンスキー氏の落ち着きを高く評価しています。
ウクライナ外務省は、キエフの大使館から職員を避難させたとして、米英を非難しました。
一部のウクライナ人は、ウクライナをロシアとのより広範な闘争の一コマと見なしているアメリカを信用していません。
アメリカの意図的な情報リークは、ウクライナを助けるのではなく、ヨーロッパの安全保障のためにアメリカが行っている様に信じられています。
ゼレンスキー氏の擁護者たちは、他の指導者がそうであるように、彼は危機に対して密かに準備する一方、公の場では前向きな姿勢を示しているのだと言います。
それでも、ゼレンスキー氏は本格的な侵略が起こった場合、国民の信頼を犠牲にする可能性があります。
来週のミュンヘンでのロシア、フランス、ドイツとの交渉で、彼はミンスク議定書を実施するよう圧力に直面するでしょう。
これは、2015年にロシアが銃を突きつけて課した取り決めであり、事実上、ウクライナの親ロシア地域に外国政策に対する拒否権を与えます。
親露派の野党「プラットフォームフォーライフ」は、ゼレンスキー氏がつまずくのを待っています。
対岸の火事
ウクライナ危機に関する各国の報道を見ていると、ウクライナから離れれば離れるほど過激になる傾向がある事がわかります。
米英は今にもロシアが侵攻してくるかの様に報道しますが、ドイツやフランスはその様な可能性は低いと見ており、ウクライナ政府に到っては、米英の分析を否定しています。
所詮、米国にしてみればウクライナは守る義務のある国ではありませんので、政治ショーとしてロシアを叩けるだけ叩いておけば良いとの判断だと思われます。
英国のジョンソン首相も国内の支持率が下がっている中、国民の目を国外に向けようとしている様にしか思えません。
ロシアは昨年も同様に10万人規模の軍隊をウクライナ国境に派遣したのに、何も騒がなかった英米が今回危機を煽り立てるのはそれぞれに国内事情があるからに他なりません。
バイデン 氏にしてみると、アフガニスタンからの惨めな撤退の後に、民主主義国家の連帯を主導できる格好のチャンスではないかと思います。
本当の危機は、上記記事にある通り、ウクライナ国内にあると思います。
ロシア系と反ロシア系の対立は一触即発の危険性があります。
ゼレンスキー氏が憂慮するシナリオは、国内で内戦状態になった時に、ロシア軍がロシア系住民保護のために介入する或いは、経済麻痺状態になって次の選挙で親露派の政権が誕生するというシナリオではないかと思います。
後者のシナリオに備えて、西側はウクライナに経済支援を行わなければ、プーチン氏の期待するシナリオになりかねません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。