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評判の悪いドイツ外交は本当に間違っているのか

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ドイツ外交に厳しい批判

ドイツの外交政策は西側の同盟国から最近良く批判を受けます。

筆者の以前のブログでもこの点に触れました。

 

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その批判は軍事費がNATOにおける支出目標に達していないとか、中国やロシアに対する姿勢が手ぬるいといった類のものが多いのですが、ドイツの外交は本当に間違っているのでしょうか。

違う観点から見ればドイツの外交は評価できるとする論文が米誌Foreign Policyに掲載されました。

「The Gold Medal for Foreign Policy Goes to Germany」(外交政策の金メダルはドイツに)と題されたこの論文を今日はご紹介したいと思います。

Foreign Poicy論文要約

過去数十年の外交政策のを振り返ってメダルを配るとしたら、どの国が金メダルを取るでしょうか?

一部のオブザーバーは、経済力と軍事力を大幅に拡大し、主要な国際機関への影響力を高め、米国が仕掛ける泥仕合を巧みに回避した中国と言うかもしれません。

しかし、中国は習近平の下で最近つまずき、国内外でますます厳しくなる批判は、そのイメージを傷つけ、隣国を警戒させました。

 

ロシアはどうでしょうか?

プーチンは過去20年間、ロシアをより安全にしたわけではありません。

ロシアの指導者たちは、自国を世界の大国として認めることを切望しているかもしれませんが、その統治モデルは魅力がなく、ロシアは中国のジュニアパートナーに追いやられる可能性があります。

 

英米もメダル候補と見なすことはできません。

米国は民主党と共和党の下で、英国も労働党と保守党の両方の政府の下でつまずきました。

2003年にブッシュ政権を盲目的にイラクに追い込むという労働党首相のトニー ブレアの決定は明らかなオウンゴールであり、EUを脱退するという保守党主導の決定は英国をより貧しく、影響力を弱める事となりました。

 

金メダルを授与するなら、私はドイツを選びます。

外交政策の目標が、政治的価値に大きなダメージを与えることなく安全と繁栄を高めることである場合、過去数十年にわたるドイツの業績は間違いなく秀逸です。

しかし、この戦略を可能にした条件は今や消えつつあります。

 

1990年代初頭の再統一以来、ドイツは注目に値する三連勝を成し遂げてきました。

第一に、それは米国の緊密な安全保障パートナーであり続け、米国の保護のフリーライダーであり続けることができました。

ドイツは、2003年にイラクを侵略するという米国の決定に公然と反対し、集団的防衛の公正な分担を引き受けるべきという米国の繰り返しの要請に要領よく抵抗したにもかかわらず、その特権的な地位を維持することに成功しました。

歴代の米国政権は、ドイツに防衛力を強化させようとしましたが、ドイツの軍事費支出は、NATOが8年前に設定したGDP防衛費目標の2%をまだはるかに下回っています

しかし、ウクライナの現在の危機に対する米国の機敏な対応が示唆するように、ドイツは、オオカミがドアにいるときはいつでも、米国が援助に来ることを期待することができます。

 

同時に、2014年のロシアによるクリミアの押収と今日のウクライナ危機にもかかわらず、ドイツはロシアとの良好な協力関係を維持してきました。

ドイツはロシアで2番目に大きな貿易相手国であり(二国間貿易額は500億ドル近く)、貿易は1995年以来年率6%以上で拡大しています。

ドイツのロシアのガスエネルギーへの依存は、米国との繰り返しの論争を引き起こしましたが、トランプ前大統領の時代でさえ、完全な破裂には至りませんでした。

この政策は、ドイツの観点からは理にかなっています。

ドイツが原子力への依存を段階的に廃止する一方で、ロシアのガス供給は工場を動かし、家を暖め続けました。

第三に、ドイツは台頭する中国と良好な関係を維持しており、莫大な利益を得ています。

中国は現在、ドイツ最大の貿易相手国であり、2020年の貿易額はコロナ流行にもかかわらず2,120億ユーロ(約28兆円)を超えています。

ドイツ外務省によると、「中国はドイツを経済的および政治的に主要なパートナーと見なしています。」

人権問題は依然として摩擦の原因であり(特にドイツの緑の党にとって)、ドイツ国民はますます中国に対してネガティブなイメージを持っていますが、ドイツは中国との有利な商業的関係を維持することができました。

(ドイツの実利主義を非難する前に、トランプによって課され、バイデンの下で継続された関税にもかかわらず、中国と米国の貿易も増加していることを覚えておいてください。)

 

過去数十年にわたるドイツの外交政策は完璧でしたか?

もちろん違います。

完璧な国はなく、ドイツも例外ではありません。

1991年のドイツのクロアチアとスロベニアの時期尚早な独立承認は、ユーゴスラビアの崩壊を加速し、破壊的なバルカン戦争を助長し、ユーロ圏危機の際の緊縮財政の主張は、ヨーロッパの回復を遅らせ、ヨーロッパのポピュリズムの出現に貢献しました。

 

しかし、全体として、ロシア、中国、米国、およびそのヨーロッパの近隣諸国と良好な関係を維持するドイツの能力は注目に値します。

ドイツはNATOやEUなどの機関に関与する事で、大国の争いに巻き込まれるのを巧みに避けてきました。

ドイツ政府はまた、北京とモスクワとのホットラインを開いたままにし、対立するイデオロギーに基づくゼロサム競争として現代の世界政治を扱う努力に抵抗しました。

 

それでも、ドイツのこれまでの成功は持続可能ではないかもしれません。

米中関係がより競争的になり、中露関係が深まり続けるにつれて、ドイツが三大国と良好な関係を維持することはより困難になるでしょう。

そのような状況では、ベルリンはどちらか一方を選ばなければなりません。

ドイツが教えてくれる事

米中露の三大国とうまくやっていく事は大変難しい事ですが、今後の世界情勢を考えると極めて重要なタスクです。

ドイツがこの仕事をうまくやっていけているのは何故でしょうか。

筆者は二つの重要な要素があると思います。

一つはドイツはうまくEUというものを使っていると思われます。

おそらく意識してやっていると思いますが、ドイツは常にEUという隠れ蓑を使って政策を打ち出しています。

ドイツだけなら米国も中国も押さえつける事が可能ですが、EU27国の総意となれば、重みが変わってきます。

先日署名された中国とEUの投資協定(批准はされていない)もドイツが単独で結べば、米国の猛烈な反発を受けたと思いますが、EUが署名するとなると、米国も批判の矛先を定めにくくなります。

二つ目はドイツの東半分(旧東独)は元社会主義国であったという事です。

ほんの30年ほど前はベルリンの壁の向こう側の住民だった人々にとって、ロシアや中国というのは身近な存在なのだと思います。

少なくとも英米のシステムに諸手を挙げて賛成する人々ばかりではないのでしょう。

中露とうまくやっていける理由がここにあります。

 

我が国にはドイツと似た処が多く存在します。

両国とも経済大国であり、米国と安全保障条約を締結しています。

一方、経済的には中国との関係が深い点も似ています。

ロシアは日本にとっても隣国です。

ドイツの現在のやり方は、故吉田茂首相が唱えた軽武装経済重視政策に近いものが感じられます。

3大国と今後対峙する上で、ドイツのやり方は参考になります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。