スプートニクの衝撃
ソ連が米国に先んじて世界最初の人工衛星スプートニクを打ち上げた時、このたかが直径58センチの球体は世界中に大きな衝撃を与えました。
その後、ガガーリン飛行士が最初の宇宙飛行を行い、更に大きな衝撃を西側に与えました。
たかが宇宙飛行と思われるかも知れませんが、有人の宇宙飛行成功は大陸間弾道弾を正確に打ち込める技術の完成とほぼ同義ですので、米国が驚くのも無理はありません。
このいわゆる「スプートニクショック」は、米国のお尻に火をつけ、アポロ計画だけでなく、最先端技術の開発機関DARPAの創設に繋がりました。
現在、このDARPAを真似ようとする動きが先進国の間で広がっている様です。
英誌Economistが「Some lessons on inventing the future in Britain」(英国が未来を創造する上でのいくつかの教訓)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ソ連が1957年に最初の衛星であるスプートニクを打ち上げたとき、アメリカ人はその事実を信じられませんでした。
上院のリーダーであったリンドン・ジョンソンは、「深刻なショック」と述べました。
アメリカの指導者たちは再び挑戦を受ける事を望まず、1958年、アイゼンハワー大統領は、国防高等研究計画局(ARPA)の新設を承認しました。
その任務は、技術の地平線を見渡し、「未来を発明する」ことでした。
60年後、ARPAの後継者であるDARPA(Dは防衛を表す)は、インターネットからメッセンジャーRNA型 コロナワクチンまで多くの革新的技術を発明する上で決定的な役割を果たし、多くの中規模国が同様の機関を構築しようと考えました。
英国もその一つであり、今月、その新しい組織である国防高等研究計画局(ARIA)は、DARPAからヘッドハンティングされたコンピューター科学者のピーター・ハイナムが率いることを発表しました。
ARIAが表明した目的は、ハイリスク、ハイリターンの研究に資金を提供することであり、4年間で11億ドルの予算から始まります。
この試みは期待が持てます。
英国がEUを離脱してから2年が経ちますが、英国の科学者がEUの1,080億ドルの予算を持つホライズンヨーロッパプログラムから支援を受け続けられるかどうかはまだ不明です。
しかし、ハイナム氏は、DARPAモデルを馴染みのない英国に持ち込むという課題に直面するでしょう。
DARPAを英国でコピーすることは成功する可能性が低いです。
DARPAの範囲と規模(現在、年間35億ドルの予算があります)は、ARIAをはるかに上回っています。
DARPAをコピーするのではなく、彼はDARPAが持つ二つの長所をARIAに導入する事に集中すべきです。
一つ目は独立です。
政府の干渉により、ドイツ版のDARPAなど、他国の研究機関が妨害されています。
英国の大臣は、新しい機関が政治的干渉や官僚機構から解放されることを約束しました。
しかし、官僚、科学機関、メディアは、多額の資金を与えられ、監査に抵抗する新しい機関に厳しくあたるでしょう。
ハイナム氏は、ARIAが何であるかを説明し続ける必要があります。
これには、英国に失敗を容認させるという困難な作業が含まれます。
DARPAは、数十年にわたってそのギャンブルの多くが成果を上げていませんが、その事実こそがこの機関が成功している事を物語っています。
それは民間企業や通常の研究機関に託されるべきローリスクの研究開発ではなく、真に急進的なアイデアを研究していることを示しています。
2番目の要素は重点領域を持つことです。
DARPAの初期の成功は、数十年にわたる冷戦に勝とうとしていたアメリカ国防総省との関係から生まれました。
それは研究へ戦略的な方向性を与え、そして巨大な予算を持つ重要顧客を確保しました。
英国には米国の様な国防予算がありません。
代わりに、ARIAは国が重要な知的資産を持っている別の分野に焦点を当てるべきです:それはライフサイエンスです。
英国は、学術的引用と新型コロナに対する科学的反応の両方で示されるように、この分野で世界トップクラスです。
イギリスのライフサイエンス企業は2021年に34億ドルのベンチャーキャピタルを調達しました。
これはヨーロッパのどの国よりも多いですが、アメリカのバイオテクノロジーハブであるマサチューセッツ(115億ドル)とサンフランシスコ(49億ドル)より少ないです。
しかし、既存の英国の学術的および産業的強みを活用できる上に、国民の長期的健康問題に対処する強いニーズを持つ国民保健サービス(NHS)という巨大な顧客が存在します。
人々と医療システムが今後数十年で直面する可能性のある課題を特定することにより、ARIAは中規模の国々が如何に科学の最先端にいられるかを示すことができます。
我が国も未来産業育成を
我が国も英国と同じく超大国ではありません。
米中と同じ事をやれば、埋没してしまいます。
日本が国際競争力を誇る自動車産業の行末が不透明な中、次の産業の柱を育てて行く必要があります。
それがロボット事業なのか、ライフサイエンスなのかわかりませんが、上記記事が指摘する様に、政治家や官僚が口を出せば失敗する様な気がします。
何故なら彼らは費用対効果に敏感な人たちだからです。
独創的な技術開発は当然のことながらハイリスクで、ほとんどが失敗します。
科学の本質をわかっている人に任せて、口を出さないという事が、金の卵を産むために必要な我慢なのかも知れません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。