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ロシアのガスを容易には手離さない欧州

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仏エネルギー企業の本音

昨日のブログで日本がロシアからエネルギー資源を買うことに関して米国の圧力がかかっている事を取り上げましたが、この圧力は欧州にも当然かかっています。

欧州はロシアへの依存度が日本よりも高く、もし完全にロシアのガス、石油の禁輸にまで発展すると、その影響は日本の比ではありません。

仏紙Les Echosが、この問題に関して欧州主要エネルギー会社である仏エンジー社社長とのインタビューを試みました。

「Engie : « Sans gaz russe, nous entrerions dans un scénario de l'extrême »」(エンジー社:ロシアのガスがなければ、最悪のシナリオが訪れる)と題されたインタビュー記事をかいつまんでご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

(質問)ロシアのガスのヨーロッパとフランスの輸入は、ウクライナでの戦争が始まって以来増加しています。どうなっているのでしょうか?

 

質問にお答えする前に、私たちの取締役会がウクライナへの侵略を非難していることをお伝えしておきます。

そして我々はロシアでもウクライナでも事業を行なっておりません。

一方、世界の売上高と消費量の20%を占めるロシアのガスを長期契約で購入しています。

ロシアからのガスは、現在フランスとヨーロッパに通常通り供給されています。

あなたが指摘された先月と比較しての増加は大した量ではありません。

ロシアは、いつものように契約上の義務を果たしています。

 

(質問)エンジーと他のヨーロッパのバイヤーは、そのガス購入のために毎日ロシアにお金を払っています。あなた方は戦争に資金を提供していますか?

 

個人的には、ウクライナで起こっていることに非常にショックを受けています。

しかし今日、ヨーロッパはガスの購入をロシアに40%依存しています。

一部の東ヨーロッパ諸国では​​、100%です。

ロシアのガスの購入をやめることは、すぐにエネルギー価格に跳ね返り、そして来年の冬から、我々の顧客、つまり製造業者と個人に非常に重大な結果をもたらすでしょう。

私たち公共サービスの使命は、ガスを供給することです。

もちろん、欧州連合がガス制裁を決定した場合、私たちは直ちにそれらを遵守します。

 

(質問)この前例のないシナリオはどうなるでしょうか。

 

これは、最悪のシナリオになるかもしれません。

今年の冬は、温暖な冬なので、供給に問題はありません。

ロシアのガスを完全に奪われたとしても、他国のサプライヤーのおかげで対応できました。

本当の問題は、2022年から2023年の冬に備えて、春と夏に貯蔵タンクを埋めることです。

必要な量を見つけることは非常に困難であり、ウクライナで紛争が長引いた場合、更に困難です。

現実には、前例のない価格ショックの影響により、私たちはエネルギーの新しい世界に入る事を余儀なくされ、それは間違いなく長い間エネルギー界に影響を残すでしょう。

 

(質問)フランスはロシアへの依存を減らすために供給を多様化することができますか?

 

我々はそれに取り組んでいます。

ノルウェー、オランダ、アルジェリア、米国との長期契約に基づいて、サプライヤーと追加のボリュームについて交渉しています。

マルセイユ近郊のLNGターミナルの運用手順を見直しています。

しかし、私たちは現実的になる必要があります。

私たちの選択肢は限られています。

それらは、今日ロシアから来るすべてのガスを置き換えるのに十分ではありません

 

(質問)ではどうすれば良いのですか?

 

ロシアからガスを受け取らなくなった場合、政府のメカニズムによって需要を制限するための措置を公的機関が実施することは想像に難くありません。

政府はフランス人に彼らの消費、彼らの暖房を下げるように依頼することができます。

しかし、需要は来年の冬の天候にも依存します。

 

(質問)ヨーロッパがロシアのガスから切り離された場合、すでに高値圏にあるガス価格はさらに高騰する可能性があります。どうすれば対処できますか?

 

このような前例のないシナリオに直面して、私たちは政府の介入なしに市場を運営させることはできません。

このショックは、ヨーロッパでの卸売ガス価格の上限の導入によって抑制される可能性があります。

欧州のガス供給業者が世界市場価格でLNGを購入し続けることを可能にする措置を伴うべきであり、公的機関による補償メカニズムを定義する必要があります。

ヨーロッパの市場の上限が世界の市場価格よりも低い場合、LNG船はアジアに向けて出発し、そこでより高い価格でバイヤーを見つけることになります。

 

(質問)国際エネルギー機関(IEA)は、欧州のガス会社に対し、今年満了するガスプロムとの契約を更新しないよう求めています。どう思いますか ?

 

エンジーは現時点ではそうする積もりはありません。

ガスプロムとの契約は今後12か月で失効することはありません

制裁措置がない場合は、契約条項を尊重する必要があります。

 

(質問)ガスを他のエネルギー源に置き換えることはできますか?

 

石炭は、大気汚染は言うまでもなく、地球温暖化への影響がはるかに大きいため、可能な限りタブーを維持する必要があります。

そして、私たちはガスよりも石炭をロシアにさらに依存しています。

社会が再生可能エネルギーを改めて評価する事を願っています。

それらは、確かに断続的ですが、ほぼ無限であり、競争力があり、誰にも依存しないことを可能にする資源です。

 

(質問)IEA(国際エネルギー機関)は、今年ヨーロッパで計画されている原子力発電所の閉鎖を遅らせることを求めています。これはベルギーのエンジー社が保有する原子炉で可能ですか?

 

ベルギーの原子炉のうち2基は2022年10月と2023年2月に閉鎖される予定です。

閉鎖は準備中で、再稼働する事は非現実的です。

 

(質問)融資の貸し手として、エンジーはロシアとドイツを結ぶノードストリーム2ガスパイプラインの運営会社が破産した場合に約10億ユーロの損失にさらされています。この可能性は今では非常に可能性が高いようです…

 

先月施行された制裁措置の結果、この会社が倒産した場合、当社の信用リスクが顕在化する可能性があります。

 

(質問)あなたはまた、ガスプロムと共に、ノルドストリーム1ガスパイプラインの9%の株主です。この合弁事業でガスプロムとの協力を継続することに原則的に問題はありますか?

 

私たちは、購入したガスの一部を輸送する「パイプ」の株主です。 ノルドストリーム1は、現在の制裁の影響を受けません

新しい制裁が決定された場合、もちろん状況は変わります。

ロシアのガスに未練たっぷりの欧州

ロシアに対する経済制裁の報道を見ていますと、あたかも欧州はロシアのガスの購入を中止したかの様に思われた方も多いと思いますが、上記インタビューの通り、欧州はロシアからのガスの買い付けを中止するどころか減らしてもいません

欧州が決定したのはドイツとロシアを直接結ぶ新しいガスパイプライン『ノルドストリーム2」の認可プロセスを中断しただけです。

欧州は未だにロシアのガスに執着しています。

ロシアのガスへの依存度が比較的低いフランスでさえ、上記の様な状況ですから、更に依存度の高いドイツなどはロシアのエネルギー資源に更に未練が強いと思われます。

欧州がLNG市場に本格的に参戦すれば、国際市場でLNGの争奪戦が始まります。

更なる価格の高騰は輸入国のインフレ、産業競争力の低下を招く事は必至です。

こういう環境下で高笑いする企業も出てくるのでしょうが、我が国は欧州と連携して最悪のシナリオを避けるべきでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。