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ウクライナとロシアの間で選択を迫られるトルコ - 一方で大きなチャンスも

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トルコでの外相会談

昨日、トルコのアンタルヤでロシア、ウクライナの外相が面談を行いました。

何故トルコで両国の外相が面談したのかと訝る方もおられると思いますが、トルコはロシア、ウクライナ両国と深い関係を持つ稀な国の一つなのです。

喧嘩の仲裁役は喧嘩の当事者から信頼を得ていなければ務まりませんが、ロシアとウクライナ双方から信頼を得ている国は中国とトルコくらいではないでしょうか。

トルコの役割について米誌Foreign Policyが「Turkey’s Balancing Act on Ukraine Is Becoming More Precarious」(ロシアとウクライナを天秤に掛ける事が難しくなったトルコ)と題した論文を掲載しました。

著者は​​U.S. National Defense University’s Instituteの研究員ジェフリー マンコフ氏です。

Foreign Policy論文要約

ロシアのウクライナ侵攻は、世界中の国々の地政学的計算を狂わせました。

ウクライナとロシアの間で微妙なバランスを取ってきたNATO加盟国であるトルコもどちらの側を選ぶのかという圧力の高まりに直面しています。

エルドアン大統領の戦略は、ロシアとの関係を危うくすることなくウクライナを支援することに重点を置いています。

今後、ウクライナに対する強力で統一されたNATOの支援は、ロシアの軍事的後退とともに、ウクライナとNATOに対するトルコのコミットメントを強化させるでしょう。

 

ロシアとトルコは、何世紀にもわたって、バルカン半島、コーカサス、黒海、中央アジアを含む広い地域でライバルでした。

ロシアの軍事力に対抗するため、トルコの指導者は同盟国を探してきました。

クリミア戦争ではイギリスとフランス、第一次世界大戦ではドイツ、冷戦時代はNATOでした。

しかし、冷戦後、国際的な脅威が低下した時、トルコはロシアに経済的機会を求め、独自の戦略的自治を進めるためのパートナーと捉えました。

 

ソ連の崩壊は、トルコをロシアの軍事力から保護する一連の緩衝国(ウクライナを含む)を生み出し、トルコにユーラシアに進出する機会を与えました。

またロシアはトルコにとって主要な観光客の源であり、建設会社(多くはエルドアン大統領の公正発展党と密接な関係があります)にとって魅力的な市場となりました。

トルコはまた、エネルギーを求めてロシアに目を向け、ロシアから天然ガスの大部分を入手し、トルコ初の原子力発電所をロシア国営企業と共に建設しました。

 

ロシアとの関係はまた、シリア内戦における米国との緊張の中で、トルコが西側への過度の依存を避ける事を可能にしました。

トルコがパトリオットシステムを米国から購入することができず、ロシア製のS-400防空システムを購入したことで、他のNATO同盟国にトルコには他の選択肢があるというメッセージが送られました。

トルコの政界の一部は、ロシアがユーラシアで西側に対抗する治安秩序を追求することは、NATOへの継続的な依存よりも好ましいと考えている様です。

ロシアとの関係の改善はまた、エルドアンとプーチン両大統領の親密さを反映しています。

にもかかわらず、ロシアとトルコは地政学的にはライバルのままです。

彼らの軍隊と代理人は、シリア、リビア、南コーカサスで繰り返し衝突しました。

 

また、トルコがユーラシア地域において働きかけを強化したのはロシアだけではありません。

ウクライナは、経済的および地政学的なパートナーとしてトルコにとっても重要です。

両国間の貿易は近年急速に増加し、2021年には74億ドルに達しました。

また、トルコとウクライナは、ロシアの侵略の前夜に自由貿易協定に署名しました。

 

2019年以来、トルコはウクライナにも軍事支援を提供してきました。

特に、注目されるのは、リビアとドンバスの両方でロシアの支援を受けた軍隊に重大な犠牲者を出した武装ドローンです。

2月の初めにエルドアン首相がキエフを訪問した際、両国はウクライナ国内にドローンを生産するための工場を設立することに合意しました。

 

トルコの安全保障にとって、ロシアの軍事政治的支配下にあるウクライナよりも、独立したウクライナの方がはるかに好ましいです。

ウクライナにおける領土変更は、ロシアが黒海でその海軍を強化することを可能にするでしょう。

 

トルコがロシアの報復を受けやすい状態に変化はありません。

トルコはそのガスの大部分とその石油のかなりの割合をロシアに依存しています。

トルコのインフレ率は年間で40%を超えるため、エネルギー市場の混乱は、トルコの経済だけでなく、来年の大統領選にも影響を与える可能性があります。

 

ロシアとの関係がエルドアン大統領にとって重要であるため、ウクライナに対するトルコの支援は慎重でした。

紛争の初日、エルドアンはロシアの攻撃を「容認できない」「国際法に反する」と主張しましたが、紛争の最初の1週間は、西側の声明の道徳的明確さを欠いていました。

しかし、紛争が悪化し、西側の団結が続く中、トルコ政府は徐々に大胆になりました。

トルコは、今もウクライナにドローンを供給し続けています。

 

また、ウクライナ政府の要請により、トルコは1936年のモントルー条約を発動することにも同意しました。

これにより、トルコはボスポラス海峡とダルダネレス海峡を通過する軍艦を規制することができます。

この決定は、ロシアが黒海艦隊を強化するのを防ぐことを意味します。 (ロシア海軍の大部分は、シリア沖の東地中海に従事し続けています。)

 

それでも、トルコのロシア批判は依然として慎重であり、ロシアと関係維持する方針を継続しています。

エルドアン大統領は戦争開始以来何度もプーチン大統領と会談しており、ロシアとウクライナの外相会談が今週トルコで行われます。

 

トルコはEUの加盟国ではないため、ロシアに対するEUの制裁を遵守する義務はなく、自国の経済に損害を与える可能性のある一方的な制裁を課すことを避けてきました。

また、トルコはS-400を放棄したり、ロシアの飛行機に空域を閉鎖するなどの措置を示していません。

一方、エルドアン首相は、ゼレンスキーとプーチンの両方との関係を活用して、トルコを調停者として位置付けようとしていますが、これまでのところ、ロシアはこの申し出を軽視しています。

トルコの報道によると、エルドアン大統領は、欧米の金融制裁を回避するために、ルーブル、金、または中国元の二国間貿易をロシアに提案したとのことです。

 

エルドアンの下でのトルコの外交政策の指針は、トルコを戦略的自治権を持つ地域の大国として位置づけることでした。

トルコのEU加盟への取り組みが事実上失敗し、近年欧米双方との緊張が高まっているため、エルドアンは他のベクトルを追求してきました。

ロシアとの和解だけでなく、中東やアフリカなど新しいパートナーへのソフトパワーアプローチです。

この地域大国への取り組みは、米国がより抑制されたアプローチを追求する一方で、有効かも知れません。

しかし、それはトルコが自身の脆弱性を克服するのに役立っていません。

ロシアの修正主義からならず者国家への劇的な変化は、トルコに深刻な不確実性を生み出します。

トルコは、NATOの同盟国、特に米国との争いを修正するための以前よりも多くのインセンティブを持っています。

バイデン大統領就任以来1年間、トルコは米国との関係を改善したいという願望を示してきました。

トルコは、黒海とその周辺でのNATO演習で目に見える役割を果たし、トルコの国内政治への米国の干渉についての非難を後退させ、米国の主要な同盟国であるイスラエルとの関係を強化し始めました。

 

その意味で、トルコによるウクライナへの支援は、ワシントンや他のNATOの同盟国に、トルコが集団防衛において果たす役割を持つ信頼できるパートナーであり続けることを示すことでもあります。

 

問題は、そのようなジェスチャーがアンカラとワシントン(特に米国議会)の間の深い不信感を癒すことができるかどうかです。

米国や他の同盟国がロシアと絶縁しようとしている時に、トルコはロシアとの関わりを続けています。

 

今後の展開は、トルコの将来の進路を決定するでしょう。

紛争が悪化すればするほど、エルドアン大統領の選択の余地は少なくなります。

ウクライナからロシアの戦略的後退を可能にする団結したNATOの能力は、トルコが再び西側の同盟国との関係を優先するもっともな理由を提供するでしょう。

トルコに訪れた好機

エルドアン政権下のトルコは外交面では西側、特に米国との関係が冷却化し、経済面では通貨の暴落から深刻なインフレに悩まされていました。

ある意味、西側から目の敵にされていたと言っても過言ではありません。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、大きくシナリオを変えてしまいそうです。

上記の論文は米国政府側から見たトルコ観ですが、トルコ側から見ると、今回の戦争はNATOの一員であるトルコの重要性を浮き彫りにしたと言えると思います。

古くからロシアの南下政策を食止めていたのはトルコであり、今回もボスポラス海峡の軍艦通行停止により、ロシア軍は黒海での作戦行動を大きく制限されてしまいました。

図らずもプーチン氏の侵攻決断が、トルコと欧米を接近させてしまった訳ですが、これはトルコにとって僥倖となりそうです。

欧米と完全に歩調を合わせて経済制裁をトルコが行うとは思いませんが、NATOと歩調を合わせてロシアに圧力をかけるだけでも、トルコに対する西側の見方は好転するでしょう。

この好機をトルコがうまく使う事を期待したいと思います。

来年の選挙で誰が大統領になろうと、トルコの地政学的価値とそのポテンシャルに変わりはありません。

ここをうまく乗り切れば、再びトルコの興隆期が訪れるかも知れません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。