精力的に仲介を図るトルコ
ロシア、ウクライナ戦争の停戦合意に向け、トルコ政府は奔走している様です。
この点について、先日英誌Economistの記事を取り上げましたが、今日はトルコのDaily News(トルコの英字紙)の
「Convergence observed in positions of Ukraine, Russia: FM」(ウクライナ、ロシアの間に戦争収束の気配を見るトルコ外相)と題された記事をご紹介したいと思います。
Daily News記事要約
トルコのチャブシュオル外相は、ウクライナとロシアの重要な問題に関する見解の収束が見られ、停戦交渉の突破口には、特にクリミアとドンバスの状況について、両国の指導者の同意が必要であると強調しました。
「重要な問題に関する両国の立場には収束が見られます。 彼らは最初の4つの条件にほぼ同意したと考えられていますが、いくつかの問題については首脳レベルで決定する必要があります」とチャブシュオルは週末のインタビューで述べました。
エルドアン大統領の外交政策顧問であるイブラヒム・カリンによれば、ウクライナとロシアが進行中の戦争の外交的解決のために交渉している6つの条件があります。
3月19日の別のインタビューで、カリン氏はそれらの概要を説明し、最初の4つは比較的簡単であると説明しました。
この最初の4つの条件は、「ウクライナが中立性と、NATOに加盟しない事を声明、国の軍縮と相互の安全保障、ウクライナの非ナチ化、ロシア語の使用制限の解除」です。
カリンによれば、ロシアが併合したクリミアとドンバス地域の扱いが、5番目と6番目の条件となっており、最も困難であると見なされています。
チャブシュオル外相は、質問に対して、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の間に対話のチャンネルが開かれていることを強調し、双方の間で進行中の協議を踏まえて停戦への希望を表明しました。
「平和のための合意のために、彼らは直接話し合う必要があります。 彼らは会談する事に否定的ではありません」と彼は語りました。
三国首脳会談(ロシア、トルコ、ウクライナ)実現を目指すトルコ
トルコは、戦争が始まる前からゼレンスキー、プーチン両大統領の会談を呼びかけていました。
チャブシュオル外相は、今最も重要なことは、停戦を仲介することだと強調しました。
「私たちは三国間会合を開くことを望んでいます。 しかし、これは2人の首脳の同意がある場合にのみ可能です。 アンタルヤでの三者間会合(チャブシュオルの参加による両国の外相間)は、両国の要求に応じて行うことができました」と彼は回想しました。
3月10日、チャブシュオルは2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まった後、ウクライナとロシアの間の最初の外相会議を仲介しました。
「私は両大臣から温かく迎えられました。 彼らは両方ともトルコの正直で原則にのっとった政策に満足しています。 どちらも私たちに敬意を払っています」と彼は付け加えました。
アンタルヤでの日本、トルコ外相会談
一方、チャブシュオルは、3月19日、故郷のアンタルヤを訪問し、林芳正外相と会談しました。
二人の大臣は、、二国間関係と経済的、社会的および貿易関係を深める方法について話し合いました。
両大臣はまた、ウクライナで進行中の危機に触れ、世界中で増え続ける紛争への対応に失敗した国連改革の必要性を表明しました。
「ロシアとウクライナの戦争とこの地域の最新の動向は、国際システム、特に国連安全保障理事会に本格的な改革が必要があることを改めて示しています。 私たちはこれらの問題について日本と協力することに合意しました」とチャブシュオル外相は記者会見で述べました。
トルコがロシアと交渉できる理由
ウクライナの善戦の理由に欧米からの対戦車ミサイルなどの武器供与が挙げられますが、忘れてならないのはボスポラス海峡の軍艦航行停止です。
黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡はイスタンブールを東西に分ける海峡です。
この海峡は1936年に締結されたモントルー条約によって国際海峡として定められ、平時はトルコ政府が海峡の航行を制限できません。
しかし、戦時には制限できる事になっており、今回ロシアのウクライナ侵攻を受けて、トルコ政府は如何なる国の軍艦も航行を禁止すると宣言したのです。
これによって何が起きたかと言えば、ロシアはクリミアにあるセバストポリ港などを使った海運が大幅に制限され、兵站(軍事物資の運搬)に大きな障害が発生しました。
ロシア軍の進軍が止まったと最近報道されていますが、これは兵站が原因の様です。
ボスポラス海峡はマラッカ海峡などと並ぶ世界でも数少ない地政学的なチョークポイントと言われています。
ロシアは図体はでかいですが、使える不凍港は極めて少なく、ボスポラス海峡を抑えられると窒息しかねないのです。
トルコは、この海峡封鎖を梃子にロシアに揺さぶりをかけているのです。
トルコはウクライナにも睨みが効きます。
ウクライナはトルコ製のドローンが喉から手が出るほど欲しいですし、もしボスポラス海峡封鎖が緩和されると、ロシアが勢いを取り戻す恐れがあります。
両者に睨みが効く国はトルコ以外に中国程度しかおらず、今後調停はトルコ中心に進んでいく事が予想されます。
それにしても、この時期にトルコを訪問した林外相は目の付け所が鋭いですね。
トルコの地政学的重要性を良く理解されているものと思います。
実は、2015年に林外相(当時は議員団の一員)とトルコで会食する機会がありました。
当時から国際派の政治家として注目されていましたが、今後もトルコと日本の関係強化にご尽力頂ければと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。