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米国の対ロシア戦略は中国にも通用するか

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東南アジアの視点

今回のウクライナ侵攻を世界各国の人々はどの様に見ているでしょうか。

欧米のメディアだけを見ていては、バランスを欠きます。

今回の戦争が台湾問題にも大きな影響を与えるという観点から、東南アジアの人々がどの様に感じているかを知るのは重要なことと思います。

米誌Foreign Policyシンガポール国立大学の上級研究員である​​Kishore Mahbubani氏が投稿した「Washington’s Russia Policy Won’t Work in Asia」(アジアでは通用しない米国の対ロシア政策)と題する論文をご紹介したいと思います。

Foregin Policy論文要約

ウクライナでの戦争から米国が学ぶ教訓は単純です。地政学的な現実主義は、すべての国が自由に自分の運命を選ぶべきであるという道徳的に絶対主義的な見方よりも平和を維持するのに優れているという事です。

もちろん、ロシアの侵略は非難されなければなりません。

それでも、ウクライナのNATO加盟を無謀に主張し、ウクライナへの西側の武器供給を加速させた人々は、地政学的に言えば子羊であるウクライナを虐殺に導き、大規模な世界的不安定を生み出すという道徳的責任も負わなければなりません。

この危険を正確に警告したジョージ・F・ケナンやヘンリー・キッシンジャーなど偉大な思想家の地政学的現実主義の主張に人々が耳を傾けていれば、今回のすべての痛みと苦しみは避けられたでしょう。

 

アジアでは、台湾の人々が自分の運命を自由に選択できるべきであるという道徳的絶対主義的な見方をすることも同様に危険です。

元米国務長官のマイク・ポンペオ氏は、最近の台湾訪問で、「米国政府は直ちに必要かつ長期にわたる措置を講じるべきである」と述べ、台湾に「自由で主権のある国としての外交的承認」を提供することを提唱しました。

 

世の中に地政学的に確実と言える事はほとんどありませんが、例外の一つが台湾が一方的に独立を宣言した場合、中国は宣戦布告するという事です。

これが、アジアで台湾の独立を主張する人がほとんどいない理由です。

 

同様に重要なことは、ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の強い反応とは異なり、中国の台湾侵攻に対してアジアの同様の反応が生じないだろうと言う事です。

強力な反応がないからといって、アジア諸国が不道徳であることの証明にはなりません。

地政学的な無謀さを認めないだけです。

 

インド太平洋政策に従事する米国の政策立案者に求められる新しい考え方は、同盟国やパートナーだけで構成されるAUKUSやクワッドの代わりに、米国は地政学的に実用的である、中国を含むアジアのグループと協力することを学ぶ必要があります。

 

ヨーロッパとアジアの間には、米国の政策立案者が将来の戦略を立てる際に検討する可能性のある根本的な違いが1つあります。

ロシア経済は、エネルギー供給者としての役割にもかかわらず、ヨーロッパにおいてその比重は大きくありませんが、中国はアジアに深く統合されています。

たとえば、ASEANの中国との貿易は、2020年の米国との貿易のほぼ2倍でした。

 

殆どのアジア諸国は、地域グループに中国を含めても問題がないと感じており、寧ろ中国を多国間グループに含める事が最善の方法であると認識しています。

米国はこの様なアジア諸国の戦略と一致する戦略を策定する能力を欠いています。

アジア諸国のこの様な地政学的実用主義が、台湾や他の問題を問わず、アジアでの戦争の勃発を防ぐのであれば、それはウクライナに対する西側の道徳的絶対主義よりもはるかに優れているでしょう。

中国とロシアの違い

「台湾に中国が侵攻した際に、米国は台湾を守るのか」という記者団の問いに対して、バイデン大統領は「守る」と名言しました。

後で、この発言はホワイトハウスによって打ち消されましたが、どの国にも超えてはならない一線(レッドライン)があります。

特に相手が核兵器を有する大国である場合、このレッドラインを踏まない様に、細心の注意が必要です。

上記のバイデン大統領発言やポンペオ前国務長官の台湾独立を唆す様な発言は、中国の神経を逆撫でし、無用な紛争を引き起こしかねません。

今回のウクライナ侵攻に関して、プーチン大統領の責任は重大で非難すべきですが、米国政府にも責任の一端はあると思います。

米国の識者たちがNATOの東方拡大は危険だと警告をだしていたにも拘らず、ウクライナやジョージアの将来のNATO加盟を2008年のNATOブタペスト首脳会議は文書化しました。

本気で加盟させる気もないのに、ロシアにとってレッドラインである両国にNATO加盟を唆した米国政府の責任も重大ではないかと思います。

中国はロシアと違って、経済力を軸に世界戦略を立てています。

米国がロシアに対するのと同じ様に、敢えてレッドラインを踏んで中国を誘き出そうとするかも知れませんが、中国はそう簡単に誘いに乗らないと思います。

彼らは他アジア諸国との関係を深め、経済力でジリジリと米国を劣勢に追い込んでいくのではと思います。

西側諸国はロシアに対して成功した戦略が中国に対しても通用すると思わない方が良さそうです。