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外から見た安倍外交

安倍外交の核心にあるもの

安倍元首相の突然の逝去は世界中を震撼させました。

同氏の死後、世界中のメディアで彼のことが取り上げられています。

そんな中から、今日は英誌Economistの「Abe Shinzo left his mark on Asia and the world, not just Japan - The concept of the “free and open Indo-Pacific” is part of his enormous geopolitical legacy」(​​日本だけでなくアジアと世界に足跡を残した安倍晋三 - 彼が残した「自由で開かれたインド太平洋」の概念は、彼が残した偉大な地政学的遺産である)と題した記事をご紹介したいと思います。

Economist記事要約

日本の首相の外遊は、議会が開かれていない短い期間に制限されてきました。

7月8日に暗殺された安倍晋三は、そんなルールがありながら、2012年から2020年にかけて、81回もの海外訪問を行いました。

 

これらの海外訪問は、日本の外交政策の焦点とアジアでの日本の地位を変えるのに役立ち、安倍氏が第二次世界大戦以降最も重要な日本の政治家であることを証明しました。

安倍首相はかつて小誌に、中国の台頭が19世紀半ばに東京湾に忽然と現れた黒船と同様に日本の存在を脅かす脅威になると語った事があります。

国内での彼の課題は経済と安全の両方を強化することでした。

海外では、何十年にもわたって東アジアの平和と繁栄を保証してきた開かれた国際秩序を中国が破壊することを防ぐための戦いの最前線に、通常は後ろに引きがちな日本を置くことでした。

 

安倍首相は、この地域での米軍のプレゼンスを担保する同盟国である日本も、気が散りがちな米国の関与を維持するためにさらに多くのことを行う必要があると述べました。

ここには、現在アジアにおける米国の大戦略の中心概念である「自由で開かれたインド太平洋」のアイデアの種まきが含まれていました。

2006-07年の首相としての1回目の短い任期中に、彼はオーストラリア、インド、日本、米国を巻き込んだ「クワッド」を推進しようとしました。

 

この時の試みは失敗に終わりましたが、安倍氏は2期目にそれを復活させました。

非同盟の伝統があり、中国を怒らせることを躊躇していたインドは、説得するのが困難な相手でした。

当時豪州首相だったターンブル氏は、「インドのモディ首相の懐に飛び込んだのは安倍首相であり、結果的にインドを仲間に引き入れた」と述べています。

 

モディ氏とのハグを含む外国の指導者との親しい個人的な関係作りが彼の外交スタイルでした。

安倍氏はまた、トランプ氏の当選でアメリカが変わることに気付いた最初のアジアの指導者でもありました。

新大統領はアメリカの伝統的な同盟関係を軽視し、12カ国間の貿易協定である環太平洋パートナーシップ(TPP)から国を撤退させましたが、安倍氏はトランプ氏と緊密な関係を維持しました。

安倍首相はターンブル氏と協力してアイデアを生かし、TPPの後継者である「環太平洋パートナーシップの包括的かつ進歩的な合意」を作り上げました。

ターンブル首相は「私たちはアメリカ人とすべてを行う必要はありません」と述べましたが、安倍氏が主張したかったのは、「米国が復帰するための扉がまだ開いていること、米国のアジア戦略において明らかに欠けているのは経済的側面である。」という事だったでしょう。

 

アジア諸国において、安倍首相の斬新な外交は、国内に比べるとあまり物議を醸していません。

確かにいくつかの国を驚かせたかもしれません。

結局のところ、東南アジアでは、地域の覇権をめぐる米中間の地政学的闘争に引きずり込まれる事を避けたがり、日本はアメリカの不可欠なアジアの同盟国だからです。

 

それでも、日本はこの地域の国々にとって多くの魅力を持っています。

経済的な結びつきは深く、日本の国営金融機関による援助と融資は、東南アジアにおいて、インフラへの融資において中国の一帯一路イニシアチブに代わる歓迎すべき選択肢を提供します。

中国の場合、言う事を聞けと言ってきますが、日本はそのような政治的圧力なしに投資と技術移転において多くの恩恵を提供しています。

元オーストラリア首相であるケビン・ラッドは、日本のプレゼンスは「北京との取引において外交政策のレバレッジを提供する」と述べています。

3月、中国の支配下に置かれてきたカンボジアの長年の独裁者であるフン・センは、日本の岸田首相を派手に迎えました。

中国の沈黙は大きなショックを受けた事を物語っています。

 

日本が他の国に説教することはめったにないという事もあり、米国にうんざりしている統治者も日本とは何ら問題を抱えていません。

前任者であるドゥテルテと同じく、反米の不満はフィリピンの新大統領、「ボンボン」マルコスも抱えています。

しかし、ドゥテルテ氏のように、マルコス氏は、防衛協力を含め、日本と協力することは何の問題もないことを証明しています。

そして今日、日本ははるかに熱心なパートナーです。

それは安倍氏が成し遂げた変革のおかげです。

「開かれたインド太平洋」の裏にある戦略

インド太平洋という言葉を最初に聞いた時は、漠として掴みようがないというのが第一印象でしたが、この言葉を本格的に使い始めた事から安倍氏は西側のメディアでは高く評価されています。

確かに、この言葉には安倍氏の類まれなる外交センスが秘められているような気がします。

日本にとって最も重要な同盟国は当然のことながら米国ですが、この国は自分勝手なところもあって、米中国交回復以降、かなり中国にのめり込んだ時期があります。

米中の関係が好転すれば、米国にとって日本の重要性は薄れます。

少なくともオバマ政権の前半までは米国中国にかなり肩入れした感があります。

安倍氏は中国がいずれ米国の覇権に挑戦する存在になると危惧する米国の警戒心を巧みに利用して、日本の存在価値を高めようとしたものと思われます。

インド太平洋という概念は、昔第二次世界大戦の際にABCD包囲網が日本に対して敷かれたのと同様に、中国を抑え込もうとするものです。

クワッドもTPPもこのインド太平洋というコンセプトから生まれた同盟ですが、法の秩序と自由を尊重する開かれた関係が特徴となっており、強権主義の中国の圧力に悩むインドや東南アジア諸国が飲み込みやすい点も、安倍氏の着眼点の優れたところでしょう。

忘れてならないのは、安倍氏はクワッドやTTPの生みの親として、中国にかなり警戒される存在でしたが、現実の外交においては柔軟な対応を行い、日中関係を厳しい緊張関係には追い込みませんでした。

長い在任期間中靖国神社訪問はただの一回です。

またロシアとも関係強化を図り、プーチン大統領とは27回も個別面談を行っています。

これも気まぐれな同盟国である米国の言うがままになるのではなく、自主外交を行う事で、米国へのレバレッジを保持しておこうと言う深慮があったものと思います。

安倍氏を失った今、日本外交は米国に依存する一本足打法になる事が危惧されます。

日本の政界に安倍氏ほどの経験と世界のリーダーに人脈を持った人がいないだけに今後が心配です。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。