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中露が賭ける西側との対立軸「グローバルサウス」

G20外相会議の分裂

先日インドネシアで行われたG20外相会議は、最終的に共同宣言を出す事ができずに終了しました。

対露政策をめぐる議論で先進国とBRICSなど中進国の間で意見が分裂し、結論が出なかった様です。

ロシアはいずれのけ者になるとバイデン大統領は主張していますが、発展途上国の多くはロシアとの関係を維持しており、なかなか大統領のいう通りにはなりそうもありません。

それは何故でしょうか。

この点について米紙ウォール・ストリートジャーナルに「Putin and Xi’s Bet on the Global South」(プーチンと習が賭けるグローバルサウス)と題された記事が掲載されました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

最近親露の国際会議に出席したプーチン大統領は、自信を隠そうとしませんでした。

「ロシア経済は西側の制裁を持ちこたえているだけでなく、米国とその同盟国は、ウクライナ侵攻に対する世界の反応によって明らかにされた国際連携の大きな変化を見逃している」と彼は指摘しました。

「彼らは、新しい強力な対抗勢力が地球上に形成されたことに気づいていないようだ。」とロシアの指導者は言いました。 「国際関係のシステム全体における革命的な変化の事だ。これらの変化は根本的で極めて重要だ。」

 

多くの点で、この発言は、プーチン氏のウクライナ侵攻の中心にあるとてつもなく大きな世界的賭けを表現しています。

彼は、ウクライナの侵略のために、ロシアが東西関係において、おそらく永久に、多くの財産を失ったことを知っています。

しかし、彼は南北の軸に沿って新しい外交、経済、安全保障ネットワークを構築することでそれを補うことができると賭けています。

 

この企図における彼の主要な同盟国は、もちろん、同じ南北軸に何年も取り組んできた中国であり、中国はアジア、ラテンアメリカ、アフリカに貿易と投資攻勢をかけています。

これらの国々は大きな経済的または外交的プレーヤーではありませんが、それらの多くは戦略的交易路に位置する急速に成長している市場であり、多くはクリーンエネルギー技術への転換に必要な重要な鉱物を所有しています。

簡潔に言えば、この様な中露の努力は、世界の流れを、彼らの利益と西側の不利益につながる方法で再構築しようとするものです。

この取り組みの成功は保証されていませんが、ウクライナ危機の最も重要な長期的結果の1つとなる可能性があります。

 

プーチン氏には、これまでの彼の計画に満足する理由がいくつかあります。

経済面では、インドへ大量の石油販売を行っており、失われた西側市場を埋め合わせるためにパキスタンへの潜在的な天然ガス販売を模索しています。

外交面では、世界人口のほぼ50%を占める35か国が、ウクライナの侵略を非難する3月の国連決議に棄権または反対票を投じ、その後の国連人権理事会におけるロシアの理事資格停止を求める議決では、メキシコ、エジプト、シンガポール、インドネシア、カタールを含む58か国が棄権しました。

 

最近、プーチン氏は、BRICS諸国の仮想首脳会談で、他国の大統領から温かい歓迎を受けました。

先週、ロシアのラブロフ外相は、G20の国際会議で西側諸国に敬遠されましたが、ブラジル、インド、アルゼンチンの外相は彼と会うことを躊躇しませんでした。

 

「本格的な国際関係の再編は起きてないと思いますが、多くの国を中立に保つ努力は成功していると思います」と、元米国国防長官のロバート・ゲーツは述べています。

 

一方、バイデン政権とそのNATO同盟国は、ロシアのウクライナ侵攻に直面して、西側の団結の維持に焦点を当て、その努力は成功を収めています。

NATOは活性化されましたし、ロシアを経済的に罰し、ウクライナを軍事的に支援するという西側の決意は、広範かつ堅固でした。

それでも、中露は、この西洋の結束は、冷戦時代の古い考え方で以前ほど意味はないとふんでいます。

その賭けには希望的観測も含まれていますが、それは新しい現実も反映しています。

 

部分的には、最近のアメリカの無関心と信頼性の欠如の組み合わせが、中露に付け入る隙を与えています。

米国は、過去20年間は対テロ戦争に、そして最近ではトランプ政権が中国との貿易闘争にエネルギーと予算を集中させ、他の地域を無視してきました

 

オバマ大統領からトランプ、バイデンと、アメリカの外交政策は劇的な変化を遂げ、継続性はありません、

バイデン政権のアフガニスタンからの混沌とし​​た撤退は、アメリカの信頼性についての疑念を植え付けるのに役立ちました。

一方、アメリカ国民と国会議員は内向きに転向する傾向を示しています。

 

ロシアと中国は、上記の結果として生じる疑念に取り組んでいます。

そして、南北軸に沿った多くの国が、西側とはまったく異なる優先順位を持っています。

世銀の元総裁であったロバート・ゼーリックは、反ロシア運動への参加を拒否した発展途上国を「棄権者」と呼び、彼らが抱える様々な懸念がそうした行動をとらせていると主張しています。

 

「彼らの最大の関心事は、食料とエネルギーの価格、高い債務と金利、コロナなど感染病、そして先進国の遺産と見なされる炭素移行のコストなどの大きな脅威の中での回復です。」ゼーリック氏は言います。

「一般的に、これらの国々は、特に中国との新たな冷戦を避けたいと考えています。彼らは中国との経済的関係を大切にしています。」

 

「棄権者」が立場を表明したがらない他の理由もあります。

インドは、パキスタンと中国の両方との緊張が続く中、ロシアの軍事物資に大きく依存し続けています。

アメリカの最も近い中東の同盟国であるイスラエルは、イスラム過激派を抑えこむ観点から、シリアでロシア軍と協力し続けたいと考えているため、ウクライナの侵略に対する批判は著しく控えめでした。

 

これらの国々のいくつかはまた、「国際ルールに基づく秩序」の遵守を求めるアメリカ人が本質的に米国の策略であるという中露から発せられた主張を受け入れています。

ハーバード大学のグレアム・アリソンは、これらの呼びかけは、「米国が規則を制定し、他の人々がその命令に従う米国主導の国際秩序」を作成するための自分勝手な取り組みにすぎない。」と述べています。

これらの国のいくつかの支配者は、中露の様な権威主義的な支配に惹かれていることを考えると、世界の民主主義の側に立つことに特に興味がありません。

 

プーチン氏は、最近のウクライナ侵攻のかなり前に、実際にこの新しい国際ネットワークの構築を開始したと、ジョージタウン大学の教授であるアンジェラ・ステントは述べています。

ロシア軍がクリミアをウクライナから奪い取り、2014年にウクライナ東部に移動した後、プーチン氏はシリアにより深く関与し、OPEC +に参加し、最初のロシアアフリカサミットを開催したと彼女は述べています。

2019年、中国への新しいガスパイプラインを開始しました。

「プーチンはこれを入念に準備しました。」とステント氏は言います。

 

彼と習氏が「無制限の友情」を約束したという2月の宣言は、ロシアが中国が独自に進めて来た南北軸沿いに進めて来た大掛かりな取り組みをロシアが一部利用できる様にする事が目的だったかもしれません。

ロシアは単に中国の「成功に便乗している」だけだとアリソン氏は言います。

 

北京は過去20年間、主に脚光を浴びていないアフリカとラテンアメリカで着実に活動してきました。

その最大の取り組みは、2013年に開始された一帯一路イニシアチブであり、中国はアジア、アフリカ、東ヨーロッパ、中東の71か国を結び付ける貿易インフラに投資しています。

これらの国々を合わせると、世界の経済生産高の3分の1以上、人口の3分の2を占めています。

同様に、ラテンアメリカとの中国の貿易も2000年以降爆発的に増加しています。

 

それでも、中国とロシアがこの新しい軸に沿ってどれだけ永続的な影響力を蓄積できるかには限界があり、米国とその同盟国はまだ優位を維持しています。

多くの場合、北京とモスクワからの序曲を受け入れる国々は、中露への特別の親近感よりも、目先の利益を求めて行動しています。

両国は、真の友達を獲得するよりも協力を金で買う方が得意です。

 

ロシアと中国の間には、長期的な協力を制限する可能性のある緊張の長い歴史もあります。

アリソン氏は、中国はロシアよりも西側の経済大国との長期的な経済および貿易関係を維持することがはるかに重要だと考えていると述べています。

「中国にとって、その大戦略の柱は、すべての主要経済国のサプライチェーンにおける最大かつ不可欠なサプライヤーになることです」と彼は言います。

 

では、この南北軸に沿ったロシアと中国の試みに対抗するために、米国は何をすべきでしょうか。

「これらは修正可能な問題だと思いますが、短期的な解決策はありません。」とゲイツ氏は言います。 

 

彼は、冷戦の終結以来、米国はその「非軍事的権力の道具」を萎縮させており、そのために現在代償を払っていると主張しています。

米国は、アフリカやラテンアメリカへの経済支援、安全保障関係、発展途上の世界での貿易パートナーシップなどの分野に十分な投資をしていないと彼は言います。

ゼーリック氏は、米国は「棄権者」のニーズと欲求不満を認識し、国際機関と協力してそれらに対処するためにもっと努力することを提案しています。

 

それ以上に、彼は米国が中国にロシアとの差別化を促す方法を見つけ、米国がワシントンと北京が相互に利益を持っている分野を認識するように奨励しています。

彼は言います。 「二国を差別化し、おそらくいつかまた三角関係に戻る必要があります。」

 

ここに記載した様に、新しい外交ゲームが始まりました。ウクライナでの戦争が終わった後でも、このゲームは続くでしょう。

「バイデン大統領は、この戦争の後、ロシアは国際的なのけ者になるだろうと言ったが、のけ者にはならない。それは明白だ。」とステント氏は語ります。

米国に対する失望

中東やアフリカの国々が、対露制裁にそう簡単に乗らないのは、上記論文が指摘する様に、ここ何十年西側、特に米国の行いに不信感を抱いているからに他にありません。

ウクライナ侵攻では大騒ぎし、軍事支援や難民の受け入れに積極的に応じる欧米はシリアやアフガニスタンの難民には殆ど何もしませんし、それを報道する西側メディアも僅かです。

彼らにしてみれば、白人とそれ以外の人間に対する差別を感じているでしょう。

人権人権と言いますが、先のバイデン大統領のサウジ訪問が示す通り、ダブルスタンダードがまかり通っており、政治キャンペーンの道具として人権が使われていると理解されています。

米国としては、自分の都合の良いルールやスタンダードを国際ルールとして他国に押し付けたいのでしょうが、発展途上国から見れば、それは自分勝手に映るでしょう。

以前の様に米国が世界一強の時代ならともかく、中国がのしてきた今、中国が提示する新しい国際秩序の方に魅力を感じてしまうのは無理からぬ事です。

それにしても米国の最近の外交政策には強引さが感じられます。

今晩ペロシ下院議長が台湾を訪問した様ですが、必要以上に中国を刺激するこの様な動きは、挑発的とさえ言えます。

急成長する中国に対する焦りがあるのでしょうか。

これで中国がまんまと罠にかかって、台湾併合に動いたりすれば、現在対露で行っている様な制裁を中国に課そうと考えているのかもしれませんが、極めて危険な火遊びだと思います。

NATOの東方拡大という罠にはまったロシアと違い、中国はそう簡単に米国の策略にはまらないと思いますが、こういう米国の動きを発展途上国は決して評価しないと思います。

突然の訪問を受けた台湾側もありがた迷惑だと思います。(台湾の蔡英文総統は冷静な政治家ですので、うまく対応してくれると思いますが)

ここのところの米国の動きは中間選挙を意識した動きが目立ち、こうなってくると選挙のない中国の様な国の方がましではないかと思う人も出てくるのではないでしょうか。

機能不全に陥ったと思われる民主主義国は、一度立ち止まって自らを見直す必要があるように思います。

 

最後まで読んで頂き、有難うございました。