20年に及ぶ長期政権への審判
我が国でトルコの選挙に関する報道は少ないですが、今回の国政選挙はトルコの将来のみならず欧州、中東といった地域全体に大きな影響を与えるものと思われます。
エルドアン現大統領が率いる政党AKPが政権を奪取したのは2002年ですが、それから20年間に亘ってエルドアン氏はずっと政権に座り続けてきました。
最初の10年で一人当たりのGDPを3倍に引き上げ、当初は西側諸国からももてはやされていましたが、後半の10年は内外の様々な問題に直面しています。
今回の選挙で、国民がどの様な審判を与えるか注目されます。
この選挙に関して英誌Economistが「Turkey faces a crucial election this summer - The country prepares for an election that could decide its future as a democracy」(今夏、重要な選挙に直面するトルコ - トルコは民主主義国家の運命を迎える)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したと思います。
Economist記事要約
トルコの首都アンカラの郊外にあるクリエ大統領官邸を歩いて回ることはできません。
訪問者はトンネルと地下駐車場を通り抜けた所で降ろされますが、そこにはバッキンガム宮殿の 4 倍の スペースに1,100 室の部屋が広がります。
一方、街の中心部に近いところに、目立たないピンク色の建物、カンカヤ公邸があります。
この邸宅は、現代トルコの創始者であるケマル アタテュルクとその後継者たちが 90 年以上にわたって住んでいたものです。 (エルドアン大統領という一人の例外を除いて)
2014 年後半、大統領に選出されたエルドアン氏は新たに建設された (裁判所の判決によると、違法に) クリエに引っ越しました。
チャンカヤ公邸は過ぎ去った時代の象徴となっています。
アタテュルクがギリシャ軍の侵攻をかわし、イギリス、フランス、イタリア連合軍を撃退してトルコ共和国を宣言し、初代大統領になった日からトルコは 今年の10月、100 周年を迎えます。
アタテュルクが生きていたら、今日のトルコをどう見るかは興味深い課題です。
彼の肖像画がすべてのオフィスや教室に飾られ、85 年近く前の彼の命日には今も国民が黙祷を捧げるのを見て彼はきっと感動するでしょう。
トルコが農業経済から地域の大国へと変化し、ヨーロッパ大陸で最も人口の多い国に変化したことに畏敬の念を抱くでしょう。(トルコの人口は8500万人でドイツを追い抜いています)。
しかし、彼は他の面では今のトルコを評価しないでしょう。
2003 年 3 月に初めて首相に就任し、2014 年 8 月に大統領に就任したエルドアン氏は、ほぼ 20 年間、この国の支配的な人物でした。
彼のイスラム主義者の側面に関する当初の懸念は誇張されていたかもしれませんが、彼の独裁的な傾向はますます強まっています。
エルドアン氏は大統領、首相、党首、事実上の中央銀行総裁の役割を担っています。
かつては政権に対するカウンターバランスだった軍も、もはや牙を抜かれました。
エルドアン氏は、西側諸国に対する自主性を重んじ、武力介入を支持する新しい外交政策と、低金利を急速なインフレに対する治療法として使う独特の経済モデルの持ち主です。
過去 10 年間で、権力は国家機関から大統領とその廷臣、友人、家族の手に渡りました。
エルドアン氏は、ほぼすべての公共政策について最終決定権を持っています。
彼は中央銀行の独立性を軽んじて、中銀を実質的に政府機関にしました。
エルドアン氏にはアキレス腱が存在します。
一つは経済です。
無謀な利下げは高成長を維持してきましたが、莫大なコストがかかりました。
公式の指標によると、インフレ率は昨年秋に 85% でピークに達した後、12 月には 64% にまで低下しました。
非公式の物価上昇率はそれをはるかに凌ぎます。
生活水準の急落を相殺するための新しい政府の補助金と最低賃金の大幅な引き上げにより、物価にさらなる上昇圧力がかかっています。
銀行に国債の購入を義務付け、企業にリラ建てでの借り入れを義務付ける新しい規則も、信用収縮の懸念を高めています。
もう一つは選挙です。
議会選挙と大統領選挙は 6 月に予定されていましたが、エルドアン大統領は 5 月 14 日に前倒しする予定です。
最近の世論調査は大統領の評価が回復する事を示しています。
しかし依然としてエルドアン氏は野党の主要な大統領候補のいずれにも負ける可能性が高く、一方、与党は議会の過半数を失いつつあります。
10 月 29 日にトルコが建国100 周年を迎える頃には、エルドアン氏は政権から滑り落ちている可能せがあります。
しかし、トルコの指導者のライバルに賭けるのは危険です。
エルドアン氏は議会選挙と地方選挙で10回、大統領選挙で2回、国民投票で3回勝利してきました。
彼は、大規模な抗議行動、汚職スキャンダル、強力なギュレン派運動との縄張り争い、暴力的なクーデター未遂を生き延びてきました。
彼は抑圧と検閲を通じてそれを行ってきましたが、彼の様な政治家は他にいません。
エルドアン氏はまた、選挙を彼に有利な条件で行なう事が可能です。
大統領と与党は、選挙運動のためにメディアを公の宣伝として利用します。
トルコの報道機関の約 10 分の 1 だけが、独立系または野党寄りと見なされており、これらの機関でさえ、政府の汚職やエルドアン氏への批判などのレッドラインを避けることがよくあります。
かつては批判的な人々の避難所だったインターネットは、今やまったく別物です。
政府は Twitter や Facebook を取り締まる新たな権限を与えられました。
エルドアン氏はまた、武力行使から政治的リターンを引き出すことも学びました。
トルコはシリア北部で 4 つの軍事作戦を開始し、そのほとんどは、政府がテロリストと見なしているクルド人武装勢力に対するものです。
最後に、エルドアン氏は法廷を利用して選挙を自分に有利に導こうとしています。
12 月、エルドアン氏に対する最有力候補となる可能性のある野党指導者イマムオール氏は、政治活動への参加禁止を言い渡されましたが、どちらも控訴審で覆される可能性があります。
指導者の多くが何年も拘束されてきたクルド人民民主党(HDP)も閉鎖される可能性があります。
我々は、トルコの民主主義はダメージは受けているものの、未だ生き続けていると考えていますが、 さらに 5 年間エルドアン政権が続けば、国をより独裁に向かわせるだろうと予測しています。
トルコ人は政府が権力を維持するために極端なことをするのではないかと恐れています。
トルコで起きていることは、世界、特にヨーロッパにとって重要です。
ウクライナでの戦争は、トルコとロシアとのあいまいな関係にもかかわらず、NATO と黒海の安全保障に対するトルコの重要性を浮き彫りにしました。
欧州連合にとって、トルコはイスラム過激主義と不法移民に対する防御の最前線です。
トルコの影響範囲は、ロシアの影響力が弱まり始めたコーカサスと中央アジアだけでなく、アフリカ、中東、バルカン半島西部にも及んでいます。
この 10 年間で、トルコは記録的な数の難民を受け入れ、テロ攻撃、クーデター未遂、非常事態を経験しました 。
今、新たな問題が迫っています。 それは経済です。
選挙の結果はいかに
エルドアン氏は無類の選挙上手ですので、最後に逆転する可能性は残ります。
筆者は10年以上トルコに滞在し、多くの選挙を見てきましたが、政権交代を期待するインテリ層の予測をことごとく裏切って、エルドアン氏は選挙に勝ち続けてきました。
しかし、今度は若干状況が違う様な気がします。
下記理由より今回は野党連合が勝利するのではと予測しています。
- 最近のトルコのインフレは想像以上に酷く、貧しい人はますます貧しく、金持ちはますます金持ちになっています。(不動産価格や株価は高騰しています)与党の支持母体は保守系の低中所得層ですから、インフレは彼らを直撃していると思われます。
- 女性や若者もインフレ率や失業率が高いことから不満が高まっており、彼らも野党に投票する人が多いと思われます。
- トルコにはクルド人が約1500万人いると言われており、彼らを母体とする政党HDPは投票の10%程度を握っており、HDPがどちらを支援するかが鍵を握っていると言われます。今回はHDPは野党連合を支援しそうです。
やはり経済が政権のアキレス腱となる可能性が高いと思われます。
最後にトルコについて誤解を解くために下記追記します。
トルコの選挙制度に不正が行われるのではないかと心配する方もおられると思いますが、トルコでの選挙は投票、開票の全てのプロセスにおいて各党から監視人が出ますので、不正を行うのはかなり難しいです。
そうでなければ、前回の首長選挙でイスタンブール、アンカラの二大都市で野党候補が勝つというのは考えられません。
メディアもEconomistが主張するほど政府から牙を抜かれたという訳ではありません。
イスタンブールに来て驚いたのですが、テレビ局やネットの中には政府を真っ向から批判し、野党連合を支援するものも結構ありますので、中国やロシアの様に御用放送局ばかりという訳ではありません。
最後まで読んで頂き、有難うございました。