中国に急遽乗り込んだマスク氏
イーロン・マスク氏は毀誉褒貶の多い人物ではありますが、時代を切り開く実業家であることはスペースXやテスラの成功から明らかです。
そんな彼が最近突如中国を訪れ、中国政府の要人と面談したことが報道されました。
今回の訪問が最近の米中の関係冷却という文脈の中でどの様な意味を持つのか、そしてテスラは中国の競合メーカーとの競争が激化する中、何を中国から得ようとしているのか興味深いところです。
この点に関してロイター通信が4月29日付で「What is Tesla's Full Self-Driving and why its China rollout matters」(テスラの完全自動運転とは何か、そしてその中国展開がなぜ重要なのか)という記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
ロイター記事要約
[北京 4月29日 ロイター] - イーロン・マスク氏は、4月29日に終了した北京訪問で、完全自動運転(FSD)ソフトウェアの展開や運転データの海外移転許可について中国政府と話し合った模様だ。
同氏の会談には中国の李強首相との会談も含まれており、李強首相はテスラ の中国での展開を米中経済貿易協力の成功例として称賛したが、国営メディアは両者がFSDについて話し合ったかどうかを明らかにしていない。
それでも、マスク氏は、テスラ車が中国のデータセキュリティ要件に準拠していると中国の自動車協会から重要な支持を獲得した。
また別の関係筋もロイターに対し、テスラが中国の公道でのデータ収集に中国ハイテク大手の地図ライセンスを使用することで百度(バイドゥ)と合意に達したと述べ、これが同国でのFSD導入の重要なステップだと説明した。
データのセキュリティとコンプライアンスは、テスラが 4 年前に自動運転 ソフトウェアの最も自律的なバージョンを発表したにもかかわらず、世界第 2 位の市場である中国でまだ FSD を完全に利用可能にしていない理由の 1 つだ。
中国の規制当局は2021年以降、テスラに対し中国の車両が収集したすべてのデータを上海に保管するよう義務付けており、同社はデータを米国に返送することができなくなった。
関係者によると、マスク氏は自動運転技術のアルゴリズムを改良するために中国国内で収集したデータを海外に転送する承認を得ようとしているという。
テスラが中国でFSDを完全に利用可能にする前に、テスラが他にどのような規制当局の承認を取得する必要があるのか、またどのような条件を備えているのかについては依然として不明である。
国営タブロイド紙「環球時報」の元編集者で、中国の公式立場を支持する投稿を定期的に行っている胡錫進氏は、自身のアカウントで、テスラは中国のデータコンプライアンス要件を満たす唯一の外資系自動車メーカーであり、 テスラ車が中国全土の政府機関や国有企業が所有する敷地内に入る手段となると述べた。
「これは中国における画期的な進歩であるだけでなく、データセキュリティ問題の解決における全世界にとっての重要な実証でもある」と同氏は述べた。
マスク氏の訪問は、モディ首相と会談するためのインド訪問を中止してからわずか1週間余りで行われた。
マスク氏は、インドが新たな政策で見返りとしてEVの輸入税引き下げを提案したことを受け、キャンセルされたインド訪問で自動車工場を含む20億~30億ドルの新規投資を発表する予定だった。
テスラ車は、車両に設置されたカメラに関する安全上の懸念を理由に、中国軍施設内への乗り入れを長年禁止されてきた。
FSDと同様の先進運転支援システムを開発するXPeng(小鵬汽車)のCEO、何暁鵬氏は自身のアカウントで、テスラ技術の中国参入を歓迎すると述べた。
同氏は「より優れた製品と技術を(中国に)導入してこそ、市場と顧客により良いエクスペリエンスを提供でき、市場を健全な形でより速いペースで発展させることができる」と述べた。
テスラ株が年初からその価値を3分の1近く失い、その成長軌道に対する懸念が高まる中、今回中国のFSD市場参入の見通しが改善し、同社の株価は7%上昇した。
マスク氏は先日Xで、ロボタクシーを8月8日に発表すると述べた。
業界の専門家によると、他の多くの市場に比べて歩行者や自転車利用者が多い中国の複雑な交通状況は、より速いペースで自動運転アルゴリズムをトレーニングするための鍵となるより多くのシナリオを提供するという。
ウェドブッシュのアナリスト、ダン・アイブス氏はメモで「マスク氏が中国で収集したデータを海外に移転する許可を中国政府から得ることができれば、自動運転技術向けのアルゴリズムトレーニングを世界規模で加速するという点で『ゲームチェンジャー』となるだろう」と述べた。
マスク氏は今月、、テスラが中国の顧客にFSDを「近いうちに」提供する可能性があると述べた。
窮地に落ちた両者の利害の一致
先日行われた習近平主席と米国のブリンケン国務長官の対談は最近の両国関係の関係冷却化を反映し、あまりポジティブな結果は得られなかった様です。
米国政府の中国に対する圧力は厳しさを増し、西側企業のサプライチェーンの見直し、対中投資の手控えなどただでさえ不調な中国経済の足を引っ張る様な材料が目白押しです。
マスク氏側も、中国勢の台頭で電気自動車販売の伸びが頭打ちになり、テスラ社の業績不振が表面化するという問題を抱えていました。
窮地に陥った両者の利害が今回一致したのは、完全自動運転車という自動車業界のゲームチェンジャーとなる製品の開発で両者に補完関係があったという事かもしれません。
今年の8月に完全自動運転車をリリースするというマスク氏の発言は大きな反響を呼びましたが、その実現性には多くの疑問符がついています。
西側市場で完全自動運転車を走らせる為には、自律的な車ができるだけでは不十分で、その安全性について確証が得られるまで気の遠くなる様なプロセスが必要です。
マスク氏は完全自動運転を世界規模で実現する上で、中国を最良のパートナーと考えたのかもしれません。
そこでは西側世界の様に制度面でハードルが高くありません。
完全自動運転への舵きりに消極的な欧州と日本を尻目にテスラと中国がタッグを組んだというのが実情ではないでしょうか。
個人的には完全自動運転車大歓迎です。
高齢者の運転は危険です。
一刻も早くロボットに運転を任せられる日が来ることを祈っています。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。