グリーンエネルギーでも火花を散らす米中
米中の対立は最近厳しさを増しています。
米国は世界覇権を譲る積もりはなく、米国の座を脅かすライバルの台頭を決して許しません。
日本も1990年頃にJapan as No.1などともてはやされましたが、半導体や自動車の分野で米国の容赦ない抑え込みにあい、急速に力を失っていきました。
現在米国が目の敵にしているのが中国です。
しかしこの国は日本よりも強敵です。
米国がこの難敵をどの様に押さえ込もうとしているのか、また米国は抑え込みに成功するのかについて米誌Foreign Policyが、「Is Biden Deferring the Green Transition to Contain China?」(バイデンの中国抑え込み政策は米国のグリーン化を遅らせることになるのか)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy記事要約
バイデン大統領は、グリーン化を推進するため、そしてトランプ前大統領に勝つために、先週、中国製の電気自動車(EV)、バッテリー、太陽電池、その他の中国製品に新たな関税を課し、さらにトランプ大統領が課した対中関税をすべて維持しました。
世界のEVの半分以上を生産し、すでに世界のEV販売の60%を占める中国のEV業界は、障壁が設けられない限り、イーロンマスクが指摘した通り世界のライバルをすべて「破壊」する立場にあることは間違いありません。
同様に、国際エネルギー機関は2022年7月に、中国が太陽光パネル生産の全段階で80%のシェアを誇っており、バッテリー、重要鉱物、およびグリーンテクノロジーサプライチェーンの主なコンポーネントの生産と精製を支配していると報告しました。
そして、輸出の波はまさに勢いを増しています。
中国は最近、国家主導の産業戦略の重点を不動産とインフラからグリーンテクノロジー製造にシフトしました。
中国政府は、現在の経済不況から輸出で脱却したいと考えています。
バイデンはEV関税を4倍に引き上げ、100%にしました。
リチウムイオンEVバッテリーとバッテリー部品への関税は3倍以上になって25%に、太陽電池への関税は2倍になって50%に達しました。
現在のところ米国にはほとんど中国製のEVは入っていませんが、中国のEVが市場の20%以上を占める欧州連合も、中国製EVに関税を課す可能性が高いと思われます。
関税は、競争力をつけたり妥協点を交渉したりするための時間稼ぎです。
しかし、気候変動の圧力により時間稼ぎは制限されます。
安価な中国の太陽光発電やEV、バッテリーは、米国の産業を脅かしながらも、グリーン移行の加速に貢献していることです。
米国の太陽光発電産業において中国製品は、価格を80%以上引き下げました。
米国にとって悪いニュースは、関税は一部の雇用を守るかもしれませんが、米国のグリーン移行の目標達成を遅らせ、コストを上昇させる可能性があります
EV バッテリーの 100% を北米で製造するよう奨励することは、米国政府の崇高な目標かもしれません。
しかし、重要な鉱物の採掘 (およびそれらの加工という汚いビジネス) における中国の優位性、先進的なバッテリー技術とEV 製造における中国の圧倒的な優位性を考えると、米国政府は実現不可能な目標を前提としている様に思われます。
米国が気候変動は作り話であるかどうか議論している間、中国は先進的な製造業とグリーンテクノロジーを次の成長の波と見なし、10年前には中国製造2025計画を立ち上げ、グリーンテクノロジーを優先事項としました。
中国との緊張した経済関係は、台頭する経済大国に追い抜かれるのではないかという1980年代の日本に対する恐怖を彷彿とさせます。
80年代の貿易戦争において米国の対応は産業政策、関税や生産量割当などに及びましたが、最も劇的なのは、日本円を米ドルと再調整することを目的とした1985年の合意、プラザ合意でした。
プラザ合意は反日感情の沈静化に役立ちましたが、最も大きな変化は日本からの米国への投資でしょう。
2021年には過去最高の7210億ドルに達し、日本企業は100万人近くの米国人を雇用しています。
日本から中国に応用できる教訓はあるでしょうか?
もちろん、一部の観測筋はプラザ合意2.0を検討している様です。
だが、通貨の不均衡は大きな問題ではありません。
中国が変化のために米国に技術を移転するのはどうでしょうか?
中国は米国にEV、バッテリー、太陽光発電工場を建設し、その過程で米国の労働者を雇うことができます。
だが、中国が悪者扱いされる政治情勢では、それは議会の怒りを呼ぶでしょう。
依然としてイノベーションの世界的リーダーである米国は、時間と資金があれば代替サプライチェーンを構築できます。
中国以外には鉱物が豊富にありますが、採掘許可と処理には何年もかかるでしょう。
しかし、気候変動のペースはそのような余裕を与えません。
保護主義にはコストが伴います。
エネルギーコンサルタント会社ウッド・マッケンジーが2月に発表した報告書によると、中国がなければ米国のグリーン移行のコストは20パーセント高くなるといいます。
中国のEVや一連のグリーン技術の影響は米国ではわずかでしょうが、欧州や南半球の市場に浸透するでしょう。
これにより、米国の競合するグリーン技術の市場機会はほぼ制限されるでしょう。
結局のところ、ゼロサムの大国間の競争と、地球規模の問題への取り組みは、本質的に両立しにくいことを示唆しています。
中国の収入源を断つ米国
中国はグリーンテクノロジーが将来脚光を浴びると的確に予想して、手を打ってきました。
これは気候変動の問題を憂いたわけではなく、将来の飯の種がそこにあると思ったからです。
特にEVには力を入れました。
日米欧が優位に立つ内燃機関を葬り去って、EVの分野で世界一になるという彼らの戦略は的を得たものだったといえるでしょう。
彼らが徹底していたのはバッテリーに必要な鉱物資源まで世界中で手に入れた事でした。
もはや中国にEVで敵対するのは非常に困難な状況になっています。
しかし米国はそう易々と中国の術中にははまらないと思います。
中国は難敵ですが、泣きどころもあります。
中国人は経済成長が続く限り、共産党の一党独裁に不満を唱えませんが、一旦経済成長が止まると社会不安が生じかねません。
米国は今、中国の輸出の捌け口を塞ごうとしているのだと思います。
ライバルを抑え込むためには、気候変動などの問題など後回しにするかもしれません。
実際、トランプ氏が大統領になれば、EVへの補助金など廃止になるでしょう。
最近トヨタがエンジン開発に力を入れ始めていますが、これもそういう動きが背景にあるからかもしれません。
最後まで読んで頂き、有難うございました。