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今こそ米国とトルコは和解すべきだ

土壇場の訪米キャンセル

トルコのエルドアン大統領は5月にバイデン政権下で初の米国公式訪問を行う予定でしたが、土壇場でキャンセルとなりました。

人権を謳うバイデン大統領と強権的とされるエルドアン大統領の相性は決して良くないのですが、ウクライナでの戦争やガザでの戦いが激しさを増す中で、米国とトルコの関係修復は待ったなしの状況の様です。

この点について米誌Foreign Affairsが「It’s Time for America and Turkey to Reconcile」(今こそ米国とトルコは和解すべきだ)と題する論文を掲載しました。

著者はブルッキングス研究所研究員のASLI AYDINTASBA氏です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

トルコのエルドアン大統領と米国との関係は長らく不安定で、5月のホワイトハウス訪問の突然のキャンセルも例外ではなかった。

この会談はエルドアン大統領にとってバイデン政権下での初の会談となるはずだった。

ホワイトハウスが2週間前に訪問を正式に発表しなかったことにエルドアン大統領は腹を立てたようだ。

 

5月の会談をキャンセルした事で、トルコは米国との関係修復の重要な機会を逃した。

バイデン氏は大統領就任直後から、トルコの民主主義の後退とロシアとの深まる関係に不満を示して、エルドアン大統領と距離を置いた。

しかし、今年初め、トルコがスウェーデンのNATO加盟申請に同意し、米国がトルコのF-16戦闘機の購入を承認したことで、両国関係に前向きな勢いが生まれ始めた。

エルドアンのワシントン訪問は、この一連の関係修復プロセスの仕上げとなるはずだった。

 

ワシントン訪問の突然のキャンセルにより、バイデン政権は、エルドアン大統領と距離を置くという以前のアプローチに戻りたくなるかもしれない。

しかし、世界が混乱しているこの時期に、トルコと米国が疎遠のままでいる余裕はない。

地中海と黒海に面するトルコは、ガザとウクライナの両方に近い

トルコは地域の主要な軍事大国であり、強力な製造業も有している。

トルコの近隣には、米国と中国、イラン、ロシアが対立する地域が含まれる。

トルコにとっても、米国との結びつきを強めれば、帝国主義的なロシアとのバランスを取り、経済成長を促進し、将来の欧州安全保障秩序において足場を維持するのに役立つだろう。

 

両国が冷戦時代の堅固な同盟関係に戻ることは考えにくい。

しかし、より取引的で時折の不貞を許すような、成熟した新しい関係は、トルコを孤立させ、地域の有力なパートナーから遠ざけることよりはましな選択肢だ。

たとえトルコが西側に傾くだけだとしても、米国は地政学的に重要な利点を得られるだろう。

外交的チャンス

今はエルドアン大統領に働きかけるのに特に良い時期だ。

3月下旬の地方選挙で与党が史上最大の敗北を喫した後、トルコの独裁者は弱体化している。

エルドアン大統領は、トルコの経済的、地政学的問題の解決策は西側諸国とのより緊密な関係にあるかもしれないと認め始めている。

例えば、エルドアン大統領はイタリアのメローニ首相の招待を受け、6月13日にG7サミットに出席する。

 

それでも、ワシントンとの和解には限界があるだろう。

エルドアンはしばしば西側同盟国を苛立たせる地政学的バランス調整を行っている。

トルコの指導者たちはNATOに留まりたいと考えている。

しかし、彼らはロシアとの貿易を継続することにも熱心であり、西側諸国の衰退を語り、アフリカや中央アジアにおいてトルコを発展途上国のチャンピオンとして位置付けている。

 

トルコが大西洋の枠組みにしっかりと組み込まれていた時代に戻ることはできない。

しかし、米国は、アフリカ、中央アジア、中東における中国、イラン、ロシアの影響力に対抗するために、戦略的自立を目指すエルドアンの野望を依然として利用することができる。

トルコは地理的な位置、地域的影響力、そして防衛産業の能力は、混乱を乗り切る上で貴重なパートナーとなりうる。

エルドアン大統領がプーチン大統領と決別しようとしないことは、米トルコ関係にとっていらだたしい問題だが、これ以上悪化する可能性は低い。

オスマン帝国とロシア帝国は10回以上の戦争を繰り広げ、ロシアとトルコは今日でも対立している。

両国はコーカサス、中央アジア、中東での影響力を競い合っている。

両国はリビアで代理戦争を繰り広げ、シリアではトルコがロシア支援のアサド政権と戦う反政府民兵を支援した。

2020年にはロシアの戦闘機がシリア北部イドリブでトルコ兵33人を殺害した。

 

エルドアン大統領とプーチン大統領がこうした紛争の最中でも握手を交わしているのは、両者とも関係から経済的、戦略的利益を得ているからだ。

トルコはウクライナ戦争で独特の役割を果たしている。

トルコは、用心深くそして日和見主義から、ウクライナ、ロシア双方との関係を維持してきた。

トルコはロシアに対する西側諸国の経済制裁の実施を拒否し、安価なロシア産ガス、急増する貿易、ヨーロッパに渡航できなくなったロシア人観光客から利益を得ているが、ウクライナに軍事装備やドローンも販売している。

トルコは密かにウクライナ企業と数十の共同防衛プロジェクトを締結し、ロシア海軍艦艇のトルコ海峡通過を制限している。

エルドアンはプーチンとの関係を断ち切りたくないかもしれないが、黒海に軍事的プレゼンスを持つ独立したウクライナが、トルコがロシアに対抗する上で、不可欠であることをよく理解している。

 

ウクライナ戦争がなかったら、トルコとバイデン政権の関係は現在よりもずっと悪かったかもしれない。

この紛争はトルコの地理的重要性を浮き彫りにし、NATOメンバーとしてのトルコは、たとえ気まぐれなものであっても、黒海地域とヨーロッパ全体の安全保障にとって極めて重要であることをワシントンに認識させた。

防衛から始めよう

しかし、トルコとの協力関係を実現するには、トルコと米国の間で実務者レベルの調整が必要だ。

ワシントンは過去10年間に弱まったつながりを再構築しようとしているが、行政レベルでの交流はまだほとんどない。

 

最も手っ取り早い協力分野は防衛である。

冷戦中、トルコは米国の兵器システムの最大の購入者の1つであり、NATOの安全保障の傘の恩恵を受けていた。

しかし、2019年にトルコがロシアのS-400ミサイルシステムを購入する決定を下したことで、西側との溝は一気に深まった。

最近のF-16戦闘機取引まで、米国は6年間トルコに防衛装備品を1つも販売していなかった。

もしトルコと米国がS-400を非活性化および監視する方法で合意し、問題を永久に解決できれば、新たな防衛パートナーシップへの道が開ける。

トルコは西側諸国からの兵器購入に苦労したが、国内の防衛産業は拡大した。

現在では自国の軍事ニーズの80%を国内防衛生産で賄っている

ウクライナでの全面戦争が始まった当初、ウクライナ軍はトルコ製のドローンを効果的に使用して、ロシアの攻撃を撃退した。

それ以来、トルコとウクライナの企業は共同生産事業を展開し、トルコはひそかにミサイル、装甲車、砲弾、クラスター弾をウクライナに販売してきた。

 

トルコは米国にとっても重要な軍備供給国となっている。

米国は今年初めにトルコの企業から弾薬を購入し、2月には国防総省がテキサス州で砲弾を製造するためトルコ企業と契約を結んだと発表した。

この工場は2025年には、米国の155ミリ砲弾製造の30%を占めると見込まれている。

トルコの防衛製品は最先端の技術ではないかもしれないが、トルコ企業は軍事装備を安価かつ迅速に製造できる。

トルコを従来の買い手としての役割ではなく軍備供給者として期待できる。

地政学的な駆け引き

米国とトルコは、地政学的な利益が重なる分野で協力の機会を探るべきである。

トルコが地域の大国になろうとする試みと、ワシントンが中国とロシアの影響に対抗したいという願望は、実際には相互補完的な目的となり得る。

トルコは2007年以来、アフリカ諸国と広範な外交を行っており、現在では数十億ドル規模のインフラプロジェクト、防衛協定など、アフリカ大陸への関与が広がっている。

トルコは中国のファイナンス能力にはかなわないが、トルコ企業はインフラプロジェクトで中国企業に打ち勝つケースもある。

 

トルコの中央アジアへの進出は著しいが、この地域におけるトルコの存在は、ロシアを迂回して中央アジアとヨーロッパを結ぶ貿易ルートの確立を促進することもできる。

米国はトルコに対し、コーカサスでも建設的な役割を果たすよう促すべきだ。

アゼルバイジャンはトルコの支援を受け、2020年以降アルメニアと2度の戦争を繰り広げてきたが、最近和平交渉を再開した。トルコもアルメニアとの関係を正常化する意向を示している。

バイデン政権は今、エルドアン大統領にアゼルバイジャンをアルメニアとの正式な和平協定に向かわせるよう要請すべきだ。

和平協定が成立すれば、この地域におけるロシアの伝統的な影響力を低下させる可能性がある。

 

シリアは間違いなく、米国とトルコが取り組むべき最も厄介な問題である。

トルコは、トルコで非合法とされている過激組織クルド労働者党とつながりのあるシリアのクルド人戦闘員とワシントンが提携していることを、究極の裏切りとみなしている。

当面は、トルコ、米国、シリア政府が支援する個別の行政単位が共存し続けることになるだろうが、米軍が最終的に撤退するのに備えて、米国はトルコおよびシリアのクルド人と協力し、トルコが容認出来る範囲で、シリア国内のクルド人の権利を保証する政治的解決を見出す必要がある。

 

バイデン政権は、トルコとの和解を試みる前にエルドアン大統領の退陣を待ちたいと思うかもしれないが、トルコの独裁者は少なくともあと4年間は権力の座にある。

そしてその間、トルコはあまりにも多くの世界的な火種の中心に位置しているため、米国が新たな対話を遅らせることはできない。

両首脳が次に会うとき、バイデン氏は機会を捉えてエルドアン氏と二国間関係に留まらず、より広範な関係構築について話し合いを始めるべきだ。

トルコは米国とその欧州同盟国に、貿易と防衛のパートナーシップで、また米国の影響力が限られている地域で中国、イラン、ロシアの影響を抑えるのに、多くのことを提供できる。

冷戦時代の関係に戻ることはないだろうが、エルドアン氏のトルコはまだ中国とロシアに傾いてはおらず、協力の利点を明確に示せば、トルコが再び西側に傾く余地はある。

バイデン氏は今こそトルコに手を差し伸べる決意をすべきだ。

ロシアの南下政策の防波堤であったトルコの価値は今も変わらない

良くある見方として、トルコはロシア寄りだというものがあります。

エルドアン大統領の「ロシアを過小評価すべきではない」といった発言もこの見方を裏付けるものとして取り上げられますが、この発言はオスマン帝国の時代から今日に至るまで北の巨人であるロシアの軍事的脅威を受け続け、多大の犠牲を払い続けてきたトルコの本音だと思います。

上記論文にも指摘のある通り、オスマン帝国とロシア帝国は10回以上戦火を交えました。

我々が教科書で習ったクリミア戦争や露土戦争はその中の一つに過ぎません。

今も昔もロシアの拡張主義をかろうじて抑え込んできたのは黒海の南に位置するトルコです。

ロシアはトルコにとって今も最大の仮想敵国であり、だからこそウクライナに軍事支援を続けています。

トルコをNATOから追い出せとか乱暴な議論が西側の一部にある様ですが、それはロシアにとって思う壺です。

ロシアとその背後にある中国の影響力を最小化したいのであれば、トルコを味方につけるしかありません。

トルコはそれ程戦略的に重要なのです。

エルドアン大統領はこれから四年間は大統領の地位にあります。

後任を待つ余裕は米国にはない筈です。

米国は中国を抑え込むためにロシアと関係の深いインドと組みましたが、ロシアを抑え込むためにはトルコと組むのが最も効果的な手段だと思います。

そして我が国もトルコを西側に傾かせるために積極的にトルコとの協力関係を強化すべきだと思います。

 

最後まで読んで頂き有難うございました。