MIYOSHIN海外ニュース

世界の役立つ情報をわかりやすくお伝えします。

東南アジアで米国が支持を失いつつある理由

米国外交の評価

米国の外交は今世界でどの様に評価されているのでしょうか。

特に米国が重要視しているインド太平洋地域、その中でも中核をなす東南アジアの国々は米国をどの様に評価しているのでしょうか。

この点について、米誌Foreign Affairsが​​「America Is Losing Southeast Asia」(東南アジアを失いつつある米国)と題する論文を掲載しました。

著者はブルックリン研究所のLynn Kuok氏です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

米国は最近、アジアのパートナーとの「結束」をアピールしている。

ブリンケン米国務長官は、「ロシアへのアプローチだけでなく、中国へのアプローチに関しても、米国と欧州およびアジアのパートナーの間でこれほど一致が見られる時期は見たことがない」と繰り返した。

 

しかし、真実は、米国がアジアの重要な地域で地位を失っている。

独立した研究機関であるISEAS-ユソフ・イシャク研究所は、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国のエリート層を対象に毎年世論調査を行っている。

今年の世論調査では、ASEANが米国と中国のいずれかを選ばなければならない場合、どちらと連携すべきかとの質問に対して、回答者の大多数が米国よりも中国を選んだ。

2020年にこの調査が始まって以来、回答者が中国を選んだのはこれが初めてである。

 

米国に対する支持の低下は、中国を主な競争相手とし、インド太平洋を重要な戦場と見なしているワシントンにとって警鐘となるはずだ。

東南アジアは、この地域の中心に位置している。

そこには米国の同盟国2カ国(フィリピンとタイ)といくつかの重要なパートナーが存在する。

インド太平洋における米国の目標は、中国に地盤を奪われることで妨げられている。

 

近年、米国は東南アジアでいくつかの成功を収めている。

バイデン政権は特にフィリピンとの関係を強化し、2023年には4つの新しい軍事施設へのアクセスを確保した。

ベトナムも米国との関係を2段階引き上げて「包括的戦略的パートナーシップ」に正式に昇格させたが、これが安全保障における協力強化や経済関係の深化にどの程度つながるかはまだ分からない。

 

しかし、東南アジアの他のほとんどの国では、米国は悪い結果に終わっている。

2023年の調査では、「ASEANが戦略的ライバルの1つと連携せざるを得なくなった場合、どちらを選ぶべきか」の質問に対して、回答者の61%が米国を選んだのに対し、2024年の調査では、回答者の50.5%が中国、49.5%が米国を選んだ。

 

今年の結果を国別に見ると、2023年に比べ、ラオス(30%の低下)、マレーシア(20%トの低下)、インドネシア(20%の低下)、カンボジア(18%の低下)、ブルネイ(15%の低下)の回答者の間で、米国は中国に対して支持を失っている。

米国はミャンマーとタイでも支持を失っている(それぞれ10%と9%の低下)。

米国は依然としてフィリピン(回答者の83%が米国を選んだ)とベトナム(79%)で非常に高い支持を得ており、シンガポール(62%)、ミャンマー(58%)、カンボジア(55%)でも確固たる支持を得ている。

しかし、回答者が2023年から2024年にかけて米国と連携したいという希望が高まったのは、フィリピン、シンガポール、ベトナムの3カ国のみであり、その増加幅はわずかだった。

質問の構成を考えると、米国の損失は常に中国の利益となる。

米国の同盟国2カ国のうちの1カ国(タイ)や、米国のインド太平洋戦略がより強固な関係を求めている4カ国のうちの2カ国(インドネシアとマレーシア)を含む東南アジアの多くの国の回答者が、戦略的ライバルの1カ国と連携せざるを得ない場合、米国よりも中国を選ぶと回答している。

 

米国はイスラム教徒が多数派を占める国で著しく支持を失っている。

調査対象となったマレーシア人の75%、インドネシア人の73%、ブルネイ人の70%が、米国よりも中国との連携を望むと答えた。

2023年はそれぞれ55%、54%、55%だった。

調査では回答者になぜこの選択​​をしたのかは尋ねなかったが、別の質問で回答者に地政学的懸念のトップ3を選ぶよう求めたところ、ほぼ半数がガザの紛争を最上位に挙げ、地理的に近い南シナ海紛争をも上回ったことは示唆的である。

 

西側メディアは、中国の一帯一路構想に伴う債務の罠について頻繁に報道している。

しかし、一帯一路プロジェクトは、受入国に成長と発展の可能性をもたらすため、東南アジアでは概して歓迎されている。

最近訪れたラオスでは中国の援助で建設された鉄道が地域経済を活性化させたと高く評価されていた。 

 

東南アジアにおける中国の影響力拡大は、米国が二国間および多国間で戦略的にこの地域に関与する能力を妨げている。

最も明白な例は、南シナ海に対するASEANの慎重なアプローチである。

過去1年間、フィリピンの排他的経済水域で北京がますます攻撃的な行動を取っているにもかかわらず、ASEANは中国を名指しで非難する声明を出していない。

 

しかし、この地域で米国が経験している地盤の喪失は、ロシアのウクライナ侵攻を非難するための支持を集める場合であれ、中東政策に対する支持を集める場合であれ、米国の立場に悪影響を及ぼしている。

ロシアの甚だしい国際法違反に対するより強力な世界的な対応を求めるワシントンの訴えは、東南アジアではほとんど無視された。

一方、東南アジアの多くの人々は、戦争に関してロシアや中国の主張を繰り返している。

米国は外交政策において二重基準を持ち、中国に関しては利己的な目標を掲げているという認識が、米国がより多くの支持を集める能力を損なっている。

東南アジアの多くの人々が現在米国を見ると、国内では機能不全に陥り、海外では露骨に利己的な政策を推進している国だと見ている。

 

ワシントンは、この地域との経済的関与を強化しなければならない。

東南アジア諸国にとって、経済は安全保障そのものである。

ISEAS-ユソフ・イシャク研究所の調査では、東南アジアで「最も影響力のある経済大国」はどこかと尋ねたところ、回答者の約60%が中国を選び米国は14%で後れを取った。

米国はまた、米国の国家安全保障上の利益を明らかに損なう、あるいは国際法の重大な違反を構成する中国の行動への対応にも焦点を当てなければならない。

いずれの場合も、ワシントンは自国の対応をわかりやすく正当化すべきである。

東南アジアの多くの人々は、例えば中国から輸入される電気自動車への100%の関税が国家安全保障上の理由でなぜ必要なのか理解に苦しむ。

東南アジアの国々は、ワシントンが不必要に対立的になり、米中衝突を引き起こしたり、彼らに利益をもたらしてきた現在の経済秩序にさらなる打撃を与えたりするのではないかと懸念している。

 

米国は中国の偽情報に対抗したいと考えている。

しかしそのためには、なぜ偽情報が反響を呼ぶのかという根本的な原因に対処しなければならない。

中国はガザで米国を「卑怯な戦争屋」と描写してきた。

ガザ危機において米国がイスラエルの暴挙を支持し、あるいは少なくとも黙認してきたから中国の偽情報がまかり通っているのだ。

 

米国が東南アジアで失った地位を取り戻すのは困難な戦いとなるだろう。

東南アジア諸国は米国と中国の間でいいとこ取りを続けるだろうが、ワシントンにとっての課題は、米国と関わりたいという彼らの継続的な願望を戦略的利益に転換することだろう。

しかし、利害関係を考えると、ワシントンは努力しなければならない。

さらに、アジアにおける米国の問題は米国だけの問題ではない。

東南アジアが米国とのつながりを弱めてしまうのは愚かなことだ。

米国が提供する安全保障の傘は、この地域に平和と繁栄をもたらしてきた。

米国の強力なプレゼンスがなければ、この地域の戦略的選択肢は縮小し、中国により良い行動を要求する能力も縮小するだろう。

 

東南アジアで米国が直面している問題は、グローバル・サウス、特に中国が積極的に誘致している発展途上国をいかに味方につけるか、あるいは少なくとも中国の勢力圏に滑り込むのを阻止するかという難題を示している。

しかし、東南アジアは米国戦略にとって特に重要である。

結局のところ、中国との戦いの勝敗はインド太平洋地域にあるのだ。

踏ん張れるか米国

この論文を読むとガザ紛争が米国の外交に暗い影を落としている事が良くわかります。

東南アジアだけでなく殆どの発展途上国は、米国は自らの国益に応じて規範を使い分けているダブルスタンダードの国だと認識している様です。

中国は一帯一路政策を通じて経済的な連帯をアピールし、米国のダブルスタンダードを批判しながら東南アジア諸国を取り込もうとしており、この試みは現在のところ成功しつつある様です。

一方、東南アジアの国々も中国一辺倒になるのは危険だと認識しているはずなので、米国は同盟国の日本などと協力して中国への対抗軸を作る必要があると思います。

本日アジア開発銀行の総裁が辞任する事が発表されました。

このポストは我が国が今まで独占してきましたが、次期総裁に関して中国が対抗馬を立てるとも言われています。

このポストが中国に奪われる様な事が起これば、米国のプレゼンスは更に低下せざるをえません。

米国は踏ん張りどころだと思います。

 

最後まで読んで頂き有難うございました。