民主党大敗の理由
大統領選が終わり、トランプ次期大統領は矢継ぎ早に閣僚人事を発表し、次期政権の枠組みが固まってきています。
それにしても今回の選挙、事前の大接戦の予想とは裏腹に、上院、下院も含めたトリプルレッドが実現し、民主党完敗の結果となりました。
民主党の敗北の理由について、欧米の様々なメディアで解説が行われていますが、今日は米紙ウォール・ストリートジャーナルが掲載した「Trump Might Have Won the First Postracial Election - Black and Hispanic voters defect from Democrats, who have long relied on identity-politics appeals.」(トランプ氏、初の脱人種選挙に勝利か - 黒人とヒスパニック系の有権者が、アイデンティティ政治を訴えてきた民主党から離反)を取り上げたいと思います。
WSJ記事要約
共和党は先日圧勝したが、明らかなのは、トランプ氏の人気が彼が退任してから高まっているということだ。
これは自分の世界観を事実によって否定されることを拒むリベラルなジャーナリストを驚かせた。
民主党は、裁判所を利用して元大統領を選挙から締め出し、破産させ、場合によっては刑務所に入れることができると考えた。
その努力は失敗しただけでなく、逆効果だった。
有権者はトランプ氏を党利党略の犠牲者とみなした。
民主党にとってさらに悪いことに、彼らはトランプ氏をバイデンとハリスの4年間に対する答えとみなした。
2016年の大統領選ではトランプ氏は新たな有権者を投票所に呼び込んだ事で勝利した。
今年は、民主党から票を奪うことで勝利した。
民主党はかつて、年収5万ドル未満で大学卒業資格のない人々から支持されていた。
共和党は現在、この両方の層で勝利し、オバマ大統領時代以来、30歳未満の有権者における民主党の優位を半分に減らした。
民主党は、より多くの女性有権者を引き付けるために、今年、中絶問題に注力したが、結果は期待外れだった。
世論調査では一貫して、この問題は経済、インフレ、国境警備ほど大きな懸念事項ではなかったことが示されている。
トランプ氏が非白人有権者にアピールし、共和党支持層を多様化出来た事は当然ながら高く評価されている。
NBCニュースによると、2012年以降、黒人有権者の間で共和党への支持が15ポイント、アジア系の間では32ポイント、ラテン系の間では38ポイント上昇している。
黒人とインド系の女性を民主党候補のトップに据えた大統領選挙でもこの傾向が続いたことはさらに注目に値する。
出口調査によると、トランプ氏は黒人男性の20%以上、ヒスパニック男性の半数以上を獲得した。
これが米国の人種問題を超える初の選挙ではなかったとしても、有権者はその方向に大きく前進した。
リベラル派にとってこれは恐ろしい事実だ。
なぜなら、民主党の基盤は人種や民族と言ったアイデンティティへの訴えを中心に構築されているからだ。
有権者の好みを決める尺度として経済的地位や文化的感受性が、人種や民族に取って代わっているのなら、左派は難題を抱え込んだ事になる。
トランプ氏が理解し、民主党が理解しなかったのは、2024年の黒人やヒスパニックの有権者を特徴づけるものは、肌の色よりも労働者階級という地位であることだった。
そして彼らの投票を決定づけたのは彼らの経済的幸福度であり、トランプ氏が民主主義を脅かす激しい偏見者だという恐れではなかった。
バイデン政権が少数派の有権者に対して犯した最大の過ちは、国境問題を軽視したことであることはほぼ間違いない。
しかし、移民の経済を研究する人々は、移民は仕事、賃金、住宅をめぐって、元々居た住民と争うよりも、移民同士で争う可能性の方がはるかに高いことを知っている。
過去4年間で、何百万人もの審査を受けていない外国人が米国に押し寄せ、その大部分が移民コミュニティに定住し、そこで混乱の大半が起きた。
ラテン系が不満を抱いたのも不思議ではない。
1800年代に東ヨーロッパのユダヤ人が大量に米国に移住し始めたとき、彼らは数十年前にやって来て定住したドイツ系ユダヤ人の反発に遭った。
そして、20世紀前半に地方の黒人が何百万人も南部から移住し始め、北部の都市を経済的にも文化的にも変貌させたとき、北部の黒人は新参者に反感を抱いた。
トランプ氏は過去数十年で初めてヒスパニック系を無党派層に変えたが、民主党の敵失からも大きな支援を得た。
黒人有権者も同じ方向に向かっているなら、それはまたしてもトランプ氏にとって歓迎すべき政治動向だ。
アメリカの抱える問題
トランプ氏の登場はアメリカの二大政党の支持層を根本的に変化させたと言えそうです。
しかしこの地殻変動はトランプ氏が引き起こしたというよりも貧富の差の拡大が主因ではないかと筆者は推測しています。
トランプ氏はこの貧富の差から生じた民主党支持層の歪みをうまく利用したと言えるのではないでしょうか。
米国の下位50%の所得合計は国の富の2%に満たないと言われています。
貧富の差を表すジニ係数ももはや革命が何時起きてもおかしくないレベルに達している様です。
民主党は元々労働者階級を票田にしていましたが、リベラルな政策を標榜していますので大卒の高所得者層にも多くの支持者がいます。
彼らの主張を聞いていると「トランプを支持している奴らはおつむが弱い」と言わんばかりの上から目線が感じられます。
労働者階級の人々はエリート層からのこの手のお説教はこりごりとばかり、トランプ氏に今回票を入れました。
民主党は大金持ちのセレブを集めて集票活動を行いましたが、逆効果でした。
今回アメリカ国民の投票行動が大きく変化した遠因はNAFTA(北米自由貿易協定)の締結にあるとの説があります。
この協定が発効した時の大統領はクリントンでした。
この条約は米国のメーカーを直撃し、製造業が主にメキシコに流出しました。
今回激戦州と言われた地域は特に大きな打撃をうけましたので、今回の民主党の敗北はクリントン大統領時代のNAFTAに起因するとも言えます。
NAFTAの影響か、今米国の稼ぎ頭はGAFAMを中心としたIT企業であり、製造業は影が薄いです。
ウクライナ戦争でも弾切れを起こしているのは米国を中心とした西側です。
これだけ製造業が衰退した国が世界の超大国として君臨し続ける事は可能でしょうか。
アメリカファースト、米国の製造業への回帰はある意味必然で、メキシコ等他国に製造拠点を移した米国企業を呼び戻さないと強敵中国に立ち向かえないでしょう。
今回のトランプ氏の返り咲きは、グローバリズムを否定し、米国が製造業回帰を決めたマイルストーンとして将来記憶されるかもしれません。
最後まで読んで頂き有難うございました。