世界中に発信された口論
先日のワシントンでのトランプ大統領とゼレンスキー大統領の口論はライブで世界中に発信されました。
ゼレンスキー大統領の気持ちもわからないではありませんが、トランプ大統領を怒らせてしまった事は、ウクライナの将来に大きな影を投げかける事になりました。
英誌Economistが「Ukraine confronts a future without America, and perhaps Zelensky」(米国そしてゼレンスキー大統領もいない将来に直面するウクライナ)と題する記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ワシントンからのニュースはリアルタイムでウクライナに届いた。
大統領執務室での惨事は、アメリカがウクライナへの支援を締め付けるかもしれないという懸念や、ヨーロッパが米国の代わりを果たせるのかという疑問を引き起こしている。
ウクライナのエリート層の間では、ゼレンスキー氏が国を率いるのにふさわしい人物かどうかという議論が高まっている。
ある元外交官によると、「ゼレンスキー氏の失脚はもはや避けられない…なぜなら彼は非常に頑固で、トランプ氏とプーチン氏の両方から嫌われているからだ。」という。
ウクライナ当局者の間では、米国側に仕組まれた口論に巻き込まれたという疑問も生じている。
一方、レアアースに関する合意が成立するかもしれないと依然として希望も抱いている。
ホワイトハウスでの失態の数時間後、米国務長官マルコ・ルビオ氏によってその扉は開かれたままにされたようだ。
しかし、ルビオ氏がどれほどの影響力を持っているかは明らかではない。
口論が仕組まれていたとの説には一定の根拠がある。
かつてはウクライナでの戦いを強く支持していたリンジー・グラハム上院議員は、ホワイトハウスの外で、ゼレンスキー氏は「辞任するか、変わる」必要があると語った。
ゼレンスキー氏の退陣は国を混乱に陥れる恐れがある。
選挙には戒厳令の終了が必要となり、ウクライナが動員と団結を維持することが困難になる。
交渉のために代わりの指導者を決めるための方法の 1 つは、ウクライナで2 番目に地位の高い政治家である新しい国会議長を投票で選出することかもしれない。
しかし、そのためにはゼレンスキー氏の同意が必要だ。
また、ウクライナ国民がそれを望んでいるかどうかも、まったく明らかではない。
金曜日の惨事の衝撃で、ウクライナ政界の大半は唖然として沈黙し、アメリカからの重要な軍事支援と諜報支援が間もなく終了するのではないかと恐れている。
この脅しは、ウクライナとゼレンスキー氏に圧力をかけるための情報作戦の一環かもしれない。
しかし、そうではないかもしれない。
ここ数日、ヘグゼス国防長官が米国のサイバー軍にロシアに対する作戦を縮小するよう命じたとの報道があった。
ウクライナのある高官は、長期戦に備える以外にできることは何もないと語る。
頼れるのは欧州だと同氏は言う。
欧州は今のところ、言葉の上では強硬だが、3月2日のロンドンでの首脳会談に大きくかかっている。
ウクライナ軍将校のアンドリー氏は、米国が軍事支援を打ち切った場合、今後の道のりは苦しいものになるだろうと語る。
だが同氏は、もっと大きな問題が絡んでいると主張している。
「武器を失ったり、輸送に遅れが生じたりするのは、これまで何度も経験してきたことだ。だが自尊心を失ったら、それを補ったり回復する事は出来ない。」
最後のカードを自ら手放した大統領
今回のワシントンでの両国大統領の言い争いは世界中の人々にライブで放送されたという意味で歴史に残る口論だったと思います。
ゼレンスキー大統領は何を思ってトランプ大統領と口論を始めてしまったのでしょう。
彼は今自国が置かれている状況を正しく理解していない様に思われます。
トランプ大統領が指摘する通り、ウクライナには今手元にカードがありません。
最後のカードと思われていた米国との協力というカードを自ら手放した感があります。
バンス副大統領が米国に対する敬意が足りないと発言した際に、ゼレンスキー大統領は鳩が豆鉄砲を食らった様な表情を浮かべていました。
彼はこれまでバイデン大統領他西欧の指導者たちから自由と民主主義を守る勇士であると褒めそやされてきました。
そんな彼からすると「欧米が自分達を支援するのは当たり前だ。我々は西側社会の身代わりとして悪の帝国ロシアと戦い、血を流しているんだ。」と思っていたのでしょうが、トランプ政権は全くその様には思っていません。
彼は米政府の外交方針が180度変わった事を正しく理解できていない様に思います。
そもそもNATOのメンバーではないウクライナを米国が支援する義務はないので、ゼレンスキー大統領が米国の支援は当然だと信ずるのは無理があります。
ゼレンスキー大統領は「米国には素晴らしい海(大西洋の事)があるが、我々にはない。しかしそのうち米国もわかるだろう。」と発言し、トランプ大統領の怒りに火をつけました。
ウクライナを厚遇してきたバイデン政権と違い、トランプ政権ははっきり言ってウクライナなどどうでも良い、ウクライナ戦争は早期集結させ、ロシアを中国から引き離して、主敵である中国にリソースを集中させるという立場なのです。
「そのうち米国もわかるだろう」という発言は「ウクライナが負ければ、ロシアはNATOに攻め込み、米国もロシアと戦わざるを得ないだろう。」とのゼレンスキー氏の持論に基づくものですが、トランプ大統領ははそんな発言をするゼレンスキー氏自身が第三次世界大戦の火種になりかねないと心配しているのですから、全く議論がかみあいません。
今回のワシントンでのゼレンスキー大統領の失策を受けて、一番頭を抱えているのは英仏大統領を始めとする欧州首脳だと思います。
トランプ大統領は「ウクライナの安全保障の問題は欧州に任せる。自分達は関与しない」と言っていますが、米国の支援なしにウクライナ問題は解決しません。
過去の歴史を見ると、第一次世界大戦も、第二次世界大戦も関与を嫌がる米国を引き込むのに欧州は大変苦労しています。
今回も同様で、米国を何らかの形で関与させないと、ウクライナはこのまま行くと消滅しかねません。
欧州の指導者たちがウクライナと共に戦うと唱えるかもしれませんが、実力は伴いません。
何とかして米国をなだめすかして、早期の停戦に持ち込む必要があると思います。
最後まで読んで頂き、有難うございました。