米国の歴史的な戦略転換
最近米国は国連の安保理でロシアと協力してウクライナの早期停戦に関する決議案を通しました。
ロシアの侵略に触れないこの決議案に対して英仏は棄権して反対の意を表しました。
これに先立ちトランプ大統領はロシアをG7に呼び戻すべきだとも発言しました。
国際秩序を踏みにじるプーチンに接近するのかとトランプ大統領の最近の言動は西側で評判が悪いのですが、どうも彼の政権はロシアに明らかな意図を持って接近している様です。
米国の外交問題評議会が2月19日に掲載した「Trump’s Abrupt Turn to Russia—and Whether a U.S.-Russia Team Could Gain Any Sway in South and Southeast Asia」(トランプ大統領の突然のロシアシフト、米ロの協力は南アジアと東南アジアで影響力を得られるか)という論文は米国外交戦略の歴史的変更に関して触れています。
かいつまんでご紹介したいと思います。
外交問題評議会論文要約
トランプ大統領とその政権は最近、大胆な新しい地政学的戦略を発表した。
ホワイトハウスは伝統的なヨーロッパの同盟国に背を向け、プーチンのロシアとより緊密な関係を構築しようとしているようだ。
ウクライナを軽視し、ウクライナ戦争の責任をウクライナに押し付け、トランプ自身がプーチンを惜しげもなく称賛するなど、ロシアとのより緊密な関係を構築することに関心があるのは、米国がロシアを中国に対する道具として利用できるという考えからであるようだ。
ある意味で、これは逆キッシンジャー戦略と言えるかもしれない。
キッシンジャーとニクソンは、すでにソ連と分裂しつつあった中国を誘惑し、モスクワに対する米中戦線を構築した。
今、ホワイトハウスとその対中強硬派は、ロシアと協力して中国を世界から孤立させ、増大する中国の存在感を損なうことができると考えているようだ。
この大胆な変化は、米国の長年の同盟国を軽視し、世界政治に多大な不確実性をもたらすという事以外に、中国に本当に不利に働くのか、あるいは米国の国益とリーダーシップを促進する上で何らかの意味があるのか、議論の余地がある。
中露はすでに非常に緊密な戦略的、経済的つながりを築いており、両国は準備通貨および主要貿易通貨としてのドルの優位性に挑戦し、第二次世界大戦後の秩序に代わる制度を推進し、ベネズエラからベトナムまで世界中で拡大しつつある権威主義国家のつながりのネットワークを支えようと協力している。
中露の極めて近い関係と、中国が米国の関税、貿易圧力から自らをうまく防御してきたという事実を考慮すると、中国は米国に対抗するために、ロシアと同盟を結ぶのにより有利な立場にある様に見える。
しかし、トランプ政権の計画がいくらかの成功を遂げるなら、ロシアと南アジアおよび東南アジア諸国との歴史的および現在の関係が役に立つかもしれない。
米国がロシアと協力することで中国の世界的な利益がいくらか鈍り、米国はロシアからの攻撃を防御するためにお金を使う必要がなくなるため、理論的には米国は中国に対抗するアジアのパートナーを支援するための資金が増えることになる。
ロシアはまた、南アジアおよび東南アジアの多くの国と歴史的に密接な関係を持っており、その一部は今日まで続いている。
そして、トランプ政権がロシアと協力して中国を孤立させようとしている場合、ロシアとのつながりが助けになるかもしれない。
おそらく、ロシアとのつながりが加わることで、南アジアおよび東南アジアの一部で中国に対する抵抗が強まる可能性がある。
これらの国々では、中国の安全保障上の攻撃性を恐れながらも、中国と大規模な貿易関係を築いている。
例えば、ソ連はベトナム戦争で北ベトナムを主に支援しており、ベトナム軍は今日に至るまでロシアのプラットフォームとロシアの装備に大きく依存している。
ベトナム指導部もロシアと依然として緊密な外交関係を維持しており、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を非難しなかった。
おそらく、ベトナムに対する米国の圧力にロシアが加わることで、ベトナム指導部は中国からより明確に離れることになるかもしれない。
また、ロシアとインドの関係は75年ほど続いており、近年急速に深まっている二国間経済関係も深い。
インドは制裁にもかかわらずロシアの石油を購入し続けており、今後数年間で二国間貿易を数百億ドル増やす計画をロシアと策定している。
インドは既に多くの問題で中国と対立しているため、拡大する米印パートナーシップにロシアが加わることで、インドが中国にさらに明確に反対するようになるかもしれない。
しかし、これらはすべて議論の余地のある問題である。たとえロシアが南アジアや東南アジアの数カ国に多少の援助をしたとしても、中国がこれらの地域ですでに及ぼしている巨大な影響力には匹敵しないだろう。
中国は東南アジアの主要な貿易相手国であり、電気自動車のような最先端製品の圧倒的な供給国になりつつある。
トランプ政権が経済援助から放送まで米国のソフトパワーのツールの多くを破壊したことで、東南アジアや南アジアで中国を助ける事になった事も忘れてはいけない。
厳しい大国の論理
要するに、米国は主たるライバルである中国との戦いに専念するため、中国とロシアの仲を 裂き、ロシアを中立あわよくば味方にする事によって中国に対抗しようと言うのです。
中露は長大な国境を共有していますので、本来不和が生じがち(過去に国境紛争はしばしば生じた)ですが、現在反米という事で強固な同盟関係を築いています。
米国が覇権を維持していくためには、中露が組むことを避けることが不可欠だと多くの専門家が唱えていましたが、トランプはこの論に乗り、ロシアを中国からひっぺがすことを決断した様です。
この歴史的な戦略転換が実行に移されたと考えると、ウクライナ問題に対するトランプ政権の対応も腑に落ちます。
米国は遠いウクライナなどに国力を浪費する余裕は全くなく、一刻も早くロシアとの関係を正常化し、リソースをアジアに集中させ、中国に立ち向かう必要があると考えているのです。
上記の論文が指摘する様に、ロシアが米国と組めば、ロシアと歴史的に関係が深いインドやベトナムとの関係が強化でき、中国包囲網が完成します。
この戦略で見捨てられるのはウクライナです。
誠に気の毒ではありますが、米国に世界中の紛争を解決するだけの余力がもはや存在しないというのが 現実なのだと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。