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地政学を無視した代償を払う欧州

欧州から距離を置く米国

ここのところ欧州には激震が走っています。

トランプ大統領はウクライナ戦争の停戦に向けて動き出し、欧州の頭越しにプーチン大統領と直接交渉を始め、欧州は蚊帳の外です。

欧州は停戦交渉に関与させろと主張したものの、トランプ大統領は聞く耳をもちません。

それどころか「ウクライナの安全保障は欧州に任せる。平和維持軍を欧州がウクライナに送ることには反対しないが、その派遣部隊はNATOとしての派遣ではない。ウクライナのNATO加盟は認めない」と主張しています。

欧州各国は一斉に米国を批判していますが、本当にトランプ大統領だけが悪いのでしょうか。

どうもそうでは無さそうです。

冷戦以降米国の庇護の下、あぐらをかいてきた欧州にも責任がある様です。

米誌Foreign Policyが「The Cost of Ignoring Geopolitics」(地政学を無視してきた代償)と題する論文を掲載しました。

著者はノルウェーの元外交官、ノルウェー防衛研究所の研究員Jo Inge Bekkevold氏です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

ヨーロッパは1940年代以来最大の危機に瀕している。

ウクライナ戦争が4年目に入る中、トランプ政権の政策転換は、米国の全面的支援なしにロシアとの戦争の可能性にヨーロッパを向き合わせる事となった。

米国は現在、ヨーロッパ諸国の頭越しにロシア、ウクライナと直接和平交渉を行っており、ロシア寄りの条件で合意に達する用意があるようだ。

さらに、トランプ政権は、ウクライナに対する安全保障は米国の支援なしにヨーロッパ諸国が提供することを要求しており、攻撃があった場合、ヨーロッパを守るためにNATOの第5条の約束を遵守する意思があるかどうか不透明であることを示唆している。

 

もちろん、ヨーロッパでは、この展開をプーチン、トランプ両大統領のせいにする人がほとんどだ。

しかし、結局のところ、ヨーロッパ人は、自らの地政学的な無知の代償を今払っていることを認めなければならない。

 

歴史には、指導者が地政学に目をつぶり、その結果自国が大きな代償を払った例がたくさんある。

ナポレオンは、1812年にロシアに侵攻した際に地理上の難題を無視し、そこでの軍の壊滅的な損失が3年後のワーテルローの戦いでの最終的な敗北につながった。

ナチスドイツも同様の過ちを犯し、1941年にソ連に侵攻して二面戦争に身をさらし、自らの没落のきっかけを作った。

 

中国の明王朝も15世紀半ばに航海を放棄し、歴史上最も重大な地政学上の過ちを犯した。

14世紀から15世紀初頭にかけて、中国は世界がかつて見たこともないほど強力な艦隊を保有し、インド洋と西太平洋の貿易ルートを完全に支配した。

しかし、1430年代以降、ヨーロッパの造船技術と航海技術が台頭する中、中国の皇帝は造船所への支援を減らし、ほとんどの遠洋貿易を禁止した。

その結果、ヨーロッパの海軍はその後5世紀にわたってアジアの海域を支配することになる。

 

​​ヨーロッパはこれらの例から学ぶことができず、3つの明確な地政学的展開を無視した。

 

第一に、ヨーロッパはロシアが帝国として復活したことにほとんど目をつぶってきた。

これは冷戦終結以来、ヨーロッパに直接影響を及ぼす最も重要かつ広範囲にわたる地政学的変化である。

ヨーロッパは地政学から離れてプーチン大統領の強硬姿勢を無視する余裕があったが、それは米国が安全保障を保証しているという単純な理由のためだった。

 

第二に、ヨーロッパは中国の台頭という地政学的論理を認めていない。

中国の台頭は最終的に米国にインド太平洋への軍事シフトを強いることになる。

オバマ政権が米国の「アジアへの回帰」を初めて発表した2011年以降、GDPの少なくとも2%を防衛に費やすというNATOの公約を果たしているのはわずか4カ国である

欧州は、米国のアジアシフトが、国際関係における最も強力で最も抵抗できない力、覇権を失う事への恐怖によって推進されていることを見逃していた。

 

ヨーロッパが自らの危険を顧みず無視してきた3つ目の地政学的展開は、中国とロシアのパートナーシップである。

中国の経済的台頭により、ロシアは貿易関係を多様化し、ヨーロッパへの依存を減らすことができた。

これは、西側諸国がクリミア併合への対応として初めて制裁を課した2014年以降、ロシアにとって特に重要であった。

実際、ロシアは、アジア側に非友好的な中国がいる状態では、ウクライナへの全面侵攻を敢行しなかっただろう。

中国にとって、ロシアとの良好な関係は、地政学と勢力均衡に関する観点から強く推進されている。

モスクワを味方につけることで、北京はワシントンとの超大国間の競争で優位に立つことができる。

 

要するに、ロシアの帝国主義への回帰、米国のアジアへのシフト、そして中国とロシアのパートナーシップは、ヨーロッパの指導者たちに大陸の安全保障体制を再考する正当な理由を与えるはずだったが、彼らはそうしなかった。

 

過去を振り返れば、ヨーロッパの主要国は戦略の達人だったのだ。

1848 年、大英帝国の最盛期に、当時の外務大臣パーマストン卿は「我々には永遠の同盟国はなく、永遠の敵もいない。我々の国益は永遠かつ永続的であり、その国益に従うのが我々の義務である」と有名な​​発言を行った。

パーマストン卿のアドバイスは、今後数十年間のヨーロッパの指導者たちに大いに役立つだろう。

ヨーロッパは安全保障、民主主義、経済について一貫した大戦略を緊急に必要としている。

欧州は戦略的自立性を高め、同盟の罠に陥らないようにする必要がある。

欧州の指導者は英国をEUに復帰させ、アフリカとのつながりを発展させ、中国との関係を再考する必要がある。

このような具体的な変化だけが、欧州が地政学的眠りから目覚めたことを示すだろう。

人ごとではない日本

トランプ大統領が最近、NATO条約と日本の安保の片務性に言及しているのが印象的です。

「俺たちは欧州の加盟国が攻撃を受ければ、戦わなければいけない。もし俺たちが攻撃受けたらフランスが助けに来るのか。」とか「日本の安保は極めて興味深い条約だ。俺たちが攻撃を受けても日本は助けてくれないのに、逆の場合は助けなければいけない。」

言われてみると確かに奇妙な条約ではあります。

おそらくこれらの条約は米国が圧倒的な力を持っていた時期に、ドイツと日本を再び軍事大国にさせない為に結んだ条約で、その当時は米国の国益に叶っていたのだと思います。

しかし、米国の力が弱まり、中国がチャレンジャーとして台頭してきた今、そんな片務的な条約は不要だと感じる様になったのでしょう。

欧州だけが米国の安全保障の上にあぐらをかいてきたわけではありません。

我が国も同じ状況にあると言っても過言ではないでしょう。

対中国という意味で日本というカードはそれなりの価値があるかもしれませんが、油断は禁物です。

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。