政策変更を余儀なくされるドイツ
現在欧州の安全保障は大きく揺らいでいます。
トランプ大統領はNATOへのただ乗りを厳しく批判し、欧州諸国に軍事支出の大幅増額を要求しました。
米国が欧州の安保からフェイドアウトする中、欧州でも新しい動きが模索されています。
特に注目すべきはドイツです。
戦後、ドイツは軍事大国になる事を戒めてきましたが、世界情勢の変化を受けて大きな政策変更を行う模様です。
米誌Foreign Affairsが「The Zeitenwende Is Real This Time - Germany’s Defense Upgrade Is Necessary but Could Upset Europe’s Balance of Power」(今度こそターニングポイントが訪れるのか - ドイツの防衛力強化は必要だが、欧州の勢力均衡を崩しかねない)と題した論文を掲載しました。
著者のMichael Kimmage教授はGerman Marshall Fundの客員研究員です。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs論文要約
歴史的に、ドイツは軍事的関与に対して慎重な姿勢を維持し、特にロシアとの外交と経済関係を重視してきた。
この姿勢は、2014年のロシアによるクリミア併合の際に顕著であり、ドイツの対応は最小限の制裁に限られていた。
しかし今、ドイツの指導者たちは、大きな変革に向けて動き始めている。
2月の連邦議会選挙で生まれた新政権はワシントンからの独立を宣言する準備が整っているようだ。
ドイツは、米国がもはやヨーロッパの安全保障を保証しなくなる未来に備えている。
軍備増強と経済活性化のため、ベルリンは長年の緊縮財政から脱却しようとしている。
この新しいドイツは、ワシントンに従うことなくウクライナを支援できるようになるだろう。
ドイツは、ウクライナの主権と領土保全を保証し、欧州連合(EU)にウクライナを加盟国として受け入れるよう働きかける上で、主導的な役割を果たすことができるだろう。
しかし、ドイツのこの様な変化には代償が伴う。
ドイツはヨーロッパにおいてロシアを押さえ込むという責任を担わなければならない。
これは膨大でかつリスクの高い任務だ。
ヨーロッパでより強烈なナショナリズムが蔓延すれば、刷新されたドイツ軍が過激派政権の手に渡り、近隣諸国への威嚇に利用される可能性がある。
より独立したドイツは国際舞台におけるヨーロッパの存在感を高めるだろうが、欧州内部を見れば、ヨーロッパ諸国はより強力なドイツを受け入れるのに苦労するだろう。
繰り返されてきた欧州の悪夢
ドイツは過去2度の世界大戦を引き起こした大国です。
その反省からか第二次世界大戦以後は経済に重きを置き、軍事には敢えて力を入れてきませんでした。
しかしその気になれば欧州最強の経済大国として軍事面でも他国を凌駕する底力は持っています。
このドイツの軍事大国としての復活は本当に欧州の安定に繋がるのでしょうか。
アメリカが抜けてドイツが強くなるというシナリオはロシアにとっても居心地のよいものではなく、昔ベルリンの壁が崩壊した際に、ゴルバチェフソ連書記長は米軍の欧州駐留を継続する様求めたと伝えられています。
遠くのアメリカより近くのドイツの方が脅威だったのでしょう。
これはロシアだけでなく、欧州の他の国々もドイツの軍事的台頭には警戒心を持っています。
地政学の専門家に言わせれば、NATOは弱い欧州諸国と強い海洋国家アメリカの組み合わせで、欧州だけとってみれば、ロシアの方が軍事的に優勢であり、ロシアを刺激しない状況だった様です。
アメリカが抜けてドイツがロシアと対峙する様になれば、絶妙の軍事バランスが崩れ、ロシアとの摩擦が起きやすくなる事は避けられません。
更にドイツが心配なのは「ドイツのための選択肢」というナショナリスト政党が支持率を伸ばしている点です。
ドイツという寝た子を起こして、第二次世界大戦の悪夢が再現される事だけは避けてほしいですね。
最後まで読んで頂き有難うございました。