
アンカラにおけるNATO首脳会議
現在トルコの首都アンカラでNATOの首脳会議が開催されています。
トランプ大統領も参加していますが、NATOにはこれまで経験したことのない大きな亀裂が生まれています。
米国は欧州諸国に対して防衛責任を果たしていないと厳しく批判し、NATOからの脱退さえもちらつかせています。
NATOには今後どんな運命が待ち受けているのでしょうか。
英誌エコノミストが「NATO ponders how to defend eastern Europe as America pulls back(アメリカが後退する中、NATOは東欧をどう防衛すべきか検討している)」を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
【要約】エコノミスト誌:アメリカの後退と、試練に立つ欧州防衛の未来
序論:欧州に迫る「アメリカなき防衛」という冷酷な現実 私たちが今、目撃しているのは、NATOが過去数十年間で直面した最大の地殻変動である。
これまで欧州の安全保障を絶対的に担保してきた存在、すなわち「アメリカの軍事力と核の傘」が、今や明確に揺らぎ始めている。
トランプ政権(あるいはその思想を受け継ぐワシントンの内向きな政治勢力)の圧力を背景に、アメリカは自国の防衛資源をアジア(特に対中抑止)へとシフトさせ、欧州への関与を急速に縮小させているのだ。
一方で、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの脅威は依然として東欧諸国に重くのしかかっている。
こうした「アメリカの後退」と「ロシアの脅威」の挟み撃ちにあう中で、NATO、とりわけ欧州の加盟国は今、「アメリカの支援なしに、いかにして東ヨーロッパを防衛するか」という極めて困難な問いを突きつけられている。
私は、この深刻な岐路に立つ欧州の防衛計画、軍事的能力の不足、そして何よりもそれを阻む政治的・経済的な「トレードオフ(妥協)」の現実を浮き彫りにしたい。
第一章:東部戦線の新たな防衛構想と「抑止力」の崩壊危機 冷戦終結後、長らくNATOは「有事の際には後方から米軍などの増援が駆けつける」という遅効性の防衛シナリオに依存してきた。
しかし、ロシアの苛烈な軍事行動を目の当たりにした東欧諸国(バルト三国やポーランドなど)にとって、数週間あるいは数ヶ月先の増援を待つという戦略は、自国の破滅を意味する。
それゆえ、現在のNATOの基本方針は、1インチの領土も敵に渡さないための「拒否的抑止(Deterrence by Denial)」、すなわち最初から前線に強力な部隊を配備して侵略を水際で防ぐ戦略へと移行している。
だが、この戦略はアメリカが全力を注いでくれるという前提のもとで設計されたものだ。
米軍が欧州から引き揚げるか、あるいは有事の際にその戦闘能力を限定的にしか提供しない場合、この最前線の防衛線は一気に瓦解しかねない。
防衛計画担当者たちは、アメリカの重装備や兵站支援が抜けた穴をどう埋めるか、文字通り頭を抱えている。
第二章:露呈する欧州の軍事的能力(ギャップ)の深淵 欧州諸国がアメリカの穴を埋めることは、口で言うほど簡単ではない。
私たちが分析したところ、欧州防衛の構造的な弱点は主に三つの「決定的な不足」に集約される。
第一に、「兵站と戦略輸送能力の圧倒的不足」である。
欧州には、前線へ大量の兵員や重戦車を迅速に運ぶための輸送機やインフラ、そしてそれを維持するための燃料補給ネットワークが致命的に欠けている。
これまではすべて米軍の兵站能力にただ乗りしてきたツケが回ってきたのだ。
第二に、「指揮統制(C4ISR)および衛星偵察能力の欠如」だ。
広大な戦場を俯瞰し、敵の動きをリアルタイムで察知するための高度な軍事衛星や、多国籍軍を統合して指揮するシステムは、その大部分をアメリカに依存している。
欧州独自でこれらをカバーしようとすれば、莫大な時間とコストがかかる。
第三に、「防空・ミサイル防衛システムの深刻な不足」である。
ロシアのドローンや巡航ミサイルの猛威に対抗するための防空網が、現在の欧州には質・量ともに全く足りていない。
欧州の指導者たちは防衛費の増額(対GDP比2%以上の達成)を声高に誇るが、その予算の多くは兵士の給与や既存の旧式装備の維持に消えており、上記のような「アメリカ固有の軍事アセット」を代替する最先端の投資には至っていないのが現状である。
第三章:防衛費か、福祉か――欧州の前に立ちはだかる「トレードオフ」 なぜ欧州は必要な防衛力増強に踏み込めないのか。
私が指摘したいのは、軍事的な問題以上に、欧州各国の「内政における深刻なジレンマ」である。
ウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長やマルク・ルッテNATO事務総長は、「防衛産業を再活性化させ、より多く、より速く兵器を生産しなければならない」と熱弁を振るっている。
しかし、各国の内情を見れば、世論も政治家も過酷な現実に直面して足がすくんでいる。
なぜなら、真にアメリカを代替する防衛力を構築するためには、対GDP比2.5%や3%、あるいはそれ以上の防衛予算が必要となるが、その財源をどこから捻出するのかという合意が全く形成されていないからだ。
冷戦後の欧州は、防衛費を削ることで手に入れた「平和の配当」を、手厚い社会福祉、年金制度、そしてグリーン(環境)投資へと注ぎ込んできた。
今、防衛費を急増させるということは、これら「国民に人気のある福祉予算や年金を削減する」という政治的自殺行為に等しい選択を意味する。
世論調査を見ても、大半の欧州市民は「強い軍隊」を望んでいるものの、そのために「自身の福祉や生活水準が削られること」には猛烈に反対している。
この有権者の矛盾した要求の間で、欧州の政治指導者たちは完全に立ち往生している。
結論:課された時間は短く、決断の時は迫る まとめれば、アメリカが欧州の安全保障から一歩退く姿勢を明確にしている今、東欧防衛の責任は完全に欧州自身の肩にかかっている。
ウクライナ戦線でのロシアの軍事工業生産の回復ペースを考えれば、欧州に残された猶予は数年もないかもしれない。
にもかかわらず、欧州は福祉を削って防衛に回すという「血を流すトレードオフ」から目を背け続けている。
現在のNATOが抱える最大の危機は、アメリカの不在そのものよりもむしろ、欧州自身が「自国を守るための真のコストを引き受ける覚悟を持っていない」という点にある。
この政治的・経済的なジレンマを克服し、冷酷な現実を受け入れない限り、東ヨーロッパの防衛線、ひいては自由で開かれた欧州の秩序は、砂上の楼閣と化す危険性を孕んでいる。
ブロガーのつぶやき
最近米国政府が使う言葉に西半球という言葉があります。
これまで北半球や南半球という言葉には馴染みがありましたが、西半球なんて言葉は初耳でした。
この言葉が指すのは南北の米州大陸(グリーンランドも含まれるそうです)ですが、米国の関心はこの西半球にあり、東半球は勝手にやってくれというのが米国の本音ではないかと思います。
米国がこの様な姿勢を示すのは初めてではなく、むしろ米国は西半球に引きこもろうとするのが本来の姿の様です。
二度の世界大戦も米国は最後まで参戦に慎重で、第二次世界大戦もフランスがナチスドイツに占領されても動かず、英国が危機に直面する迄重い腰は上がりませんでした。
そんな米国が第二次世界大戦以降NATOの屋台骨として世界中に基地を置き、莫大な人と資金をかけてきたのは、資本主義対共産主義というイデオロギー対立があったからですが、冷戦は終結し、今やそんなイデオロギー対立はありません。
米国にしてみると、何故遠く離れた欧州などを高いコストをかけて守る必要があるのかと自問自答するのはある意味当然です。
この問いは当然我が国にも向けられるはずですので、今後米国が西半球に引きこもるのを避けるために米国をなだめすかして、西側(この言葉も死語になりつつありますが)のリーダーとしての地位を曲がりなりにも続けてもらう必要があります。
なんで米国にそんなにへりくだる必要があるのかと言う人もおられると思いますが、今も米国の軍事力は圧倒的で、NATO加盟国も日韓も米国の支援なくして自国を守れないのが明白だからです。
その上やっかいなのは米国は自給自足できる国で、容易に自国に引きこもる事が可能なんです。
トランプさんが辞めたところで、後継者も引きこもりを選ぶ可能性は十分あるんですよね。
最後まで読んで頂き有難うございました。