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ガザに関する米国の対応はウクライナ支援にも影響か

ダブルスタンダードを指摘される欧米

ガザ地区に侵攻したイスラエル軍はガザ市を包囲したと伝えられています。

紛争当初はハマスの残虐な行為が非難されていましたが、最近は風向きが変わり、民間の死傷者を増やし続けているイスラエルとそれを黙認している欧米が非難の対象となってきました。

ロシアの侵攻を非難する欧米がパレスチナの民間人を殺傷しているイスラエルの肩を持っているのはダブルスタンダードではないかとの疑念がグローバルサウスの人々に広まっている様です。

この点について米誌Foreign Policyが「Why the Global South Is Accusing America of Hypocrisy」(グローバルサウスが米国の偽善を非難する理由)と題する論文を掲載しました。

著者は​​サンパウロのジェトゥリオ・バルガス財団の国際関係准教授を務めるOliver Stuenkel 氏です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

イスラエルとハマスの戦争はウクライナにとって悪いニュースです。

この紛争により、西側諸国では報道や世間の注目がロシアの侵略から遠ざかってしまいました。

また、米国が既に実行したと考えられているように、西側業者が武器供給の一部をウクライナからイスラエルにシフトすることを余儀なくされる可能性もあります。

 

しかし、ウクライナにとってより有害となる可能性のある問題は、グローバル・サウス全域の政策立案者が非難する西側諸国の偽善です。

発展途上国の多くは、西側諸国がロシアによるウクライナの不法占拠を非難する一方で、1967年以来ヨルダン川西岸とガザ地区を占領し、入植地を維持しているイスラエルを断固として支持するというダブルスタンダードを長い間見てきました。

米国主導の西側はハマスの攻撃を強く非難し、イスラエルの自衛権を擁護しています。

しかし、イスラエルの砲撃により民間人の死傷者が増加しているにもかかわらず、イスラエルに停戦を採択するようあまり圧力をかけようとしていません。 

 

この矛盾は、「ルールに基づく秩序」という西側の主張にダメージを与える可能性があります。

西側諸国は、グローバルサウスの国々にウクライナを支持する様呼びかけています。

しかし 多くの発展途上国は、イスラエル・パレスチナに対する西側の姿勢を、国際的なルールや規範を普遍的なやり方ではなく、地政学的な利益に従って選択的に適用しているとみなしています。

西側諸国とグローバル・サウスの双方の外交官数名が、このダブルスタンダードは非西側諸国をウクライナ支援陣営に呼び込む事を難しくさせるだろうと述べました。

バイデン大統領の10月19日の発言は、米国のイスラエルに対する断固とした支持が国内政治の観点からは理にかなっているものの、ウクライナに対する世界的支持を構築しようとする米国の努力をいかに損なうのかを示す顕著な例でした。

ウクライナとイスラエルをどちらも民主主義国家であるとして結びつけようとするバイデン氏の発言に発展途上国の人々は眉をひそめました。

そこではウクライナ人とイスラエル人の比喩よりも、ウクライナ人とパレスチナ人の比喩のほうが直感的です。

それは、多くの人がイスラエルとパレスチナの紛争を占領者対被占領者というプリズムを通して見ているからです。

ゼレンスキー大統領はイスラエルへの断固とした支持を表明しましたが、ガザやパレスチナについてはほとんど語らなかったことも人々を失望させました。

 

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長も同様の発言をしています。

ガザ地区ではすでに5000人近くのパレスチナ人が殺害されていましたが、フォンデアライエン氏は母国ドイツで、紛争におけるイスラエルの役割をロシアに対するウクライナの防衛に喩え、「これらの紛争には共通点がある」と主張しました。

「これらは、平和、バランス、自由、協力を求める人々と、混乱と無秩序から利益を得るためにそれらを望まない人々の間の闘争だ」と語りました。

 

彼女の発言は炎上しました。

ハマス攻撃から2日後の10月9日、イスラエルはガザ地区への給水をすべて遮断すると発表したと同時に、彼女の発言はすぐにグローバル・サウス全土に広まり始めました。

その中で彼女は、ロシアのウクライナ侵攻に言及し、「民間インフラ、特に電力に対する攻撃は戦争犯罪だ」と主張しました。

これらのコメントとイスラエルを支持する彼女の発言を組み合わせることで、親パレスチナメディアであるミドル・イースト・モニターが述べているように、「EUの同盟国には1つのルールがあり、他のすべての人には別のルールがある」と批評家は主張することができました。

 

ブラジルがその好例です。

ルーラ大統領政権がウクライナ戦争に関して明確な立場を取ることを拒否したことは、ルーラ氏の政権復帰を積極的に支持した西側諸国に大きな失望を引き起こしました。

ルーラ氏は選挙運動中も就任後も、「米国は戦争を長引かせている、ウクライナはロシアに領土を割譲すべきだ」と述べ、物議を醸す発言を数多く行っています。

ルーラ氏の政治的スタンスは、ウクライナ戦争の特殊性に対する意見の相違よりも、西側諸国が世界的なルールや規範を選択的に適用することに対する広範な懸念を反映しています。 

国連では、ブラジルはパレスチナ紛争に対応して建設的な外交的役割を果たし、人道的一時停止の決議交渉を試みましたが、米国は拒否権を行使しました。 

 

ルーラ氏はハマスの襲撃をテロだと述べましたが、ブラジルはハマスをテロ組織に指定していません。

大統領はまた、「ガザ地区を破壊したいと考えながら、そこにはハマスの兵士だけでなく、この戦争の大きな犠牲者である女性や子供もいることを忘れているイスラエル首相は狂っている」と非難しました。

 

ブラジルでは、侵略初期から西側による広範な制裁を受けてきたロシアよりもイスラエルが戦争犯罪の可能性を軽く免れるのではないかという懸念が広く抱かれています。

イスラエルは、ハマスの攻撃への対応やパレスチナ領土の占領に関して西側諸国から制裁を受けていません。 

 

私の同僚のマティアス・スペクターは、「米国は道徳的美徳を主張する事でその権威を築いてきた。」と主張しました。

しかし、彼はまた、「多くの人は偽善は嘘より悪いと考えている。 嘘つきは利益を得るために人を欺くのに対し、偽善者はさらに一歩進んで、自分の道徳的美徳に対する賞賛を求めながら他者を欺きます。」と述べています。

 

偽善者とみなされるリスクを認識しており、フォンデアライエンを含む多くの西側指導者は現在、イスラエルがガザ地区の人権を尊重する必要性を強調しています。

米国の圧力を受けて、イスラエルはガザ地区の給水を遮断する決定を覆しました。

しかし、ガザで民間人の犠牲者が増加していることから、そのようなジェスチャーも西側の偽善に対するグローバル・サウスの認識を覆す可能性は低いです。

途上国の圧倒的多数が、「敵対行為の停止につながる即時、永続的、持続的な人道停戦」を求める10月27日のヨルダン国連決議に賛成票を投じましたが、米国はこの決議に反対票を投じました。

 

発展途上国の政策立案者らは長い間、道徳的高みへ導くとの米国の主張を不快視してきました。

イスラエルとハマスの戦争が長引けば長引くほど、グローバル・サウスにおける西側諸国への信頼に対するリスクは増大します。

どうする米国

今回のガザ侵攻後の米国の姿勢は、それまでもグローバスサウスの国々で燻っていたダブルスタンダードへの疑念を確信に変えてしまいました。

上記論文で指摘されている通り、「多くの人がイスラエルとパレスチナの紛争を占領者対被占領者というプリズムを通して見ているからです。」

イスラエル側には、周りのアラブ諸国やテロ組織はイスラエルの国家存在そのものを認めていないではないかとの反論があると思いますが、客観的に見てパレスチナを実質占領しているのはイスラエルなので、パレスチナが弱者に見えてしまいます。

ハマスを徹底的に殲滅するまで侵攻を続けるとイスラエルは表明していますが、それには当然のことながら多くの民間人の犠牲が含まれます。

それが本当にイスラエルの将来のために良いことでしょうか。

憎しみは憎しみを生み、たとえハマスが殲滅されたとしても、新たな組織を生み出す事になりかねません。

ここは双方が冷静になり、持続可能な和平案を考え出すべきではないかと思います。

米国がここで失敗すれば、多くの国が米国から離れていくでしょう。

 

最後まで読んで頂き有り難うございました。