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ガザ紛争が世界に与える影響

世界史の針を戻したガザ紛争

ガザでの紛争は犠牲者が更に増加し、終結の目処は立っていません。

それにしてもハマスの奇襲は世界史の時計の針を一気に戻すほどの影響を与えそうです。

この奇襲の直前まで、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化に向け、米国は着々と根回しを進めており、パレスチナの問題については世界中の人々が忘れかけていました。

今回の事件は世界中の人々にパレスチナの問題が未だに何ら解決されていない事を再認識させたと言う意味で、そのインパクトは強烈でした。

ガザの紛争が世界に広範な影響を与えるのは間違いなさそうですが、どの様な影響が具体的にあるのか米誌Foreign Policyが「The World Won’t Be the Same After the Israel-Hamas War」(世界を一変させたイスラエルーハマス戦争)と題した論文を掲載しました。

著者はハーバード大学教授のStephen M. Walt氏です。かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

最近のガザ紛争はどの様な影響を世界に与えるのでしょうか? 

これらのより広範な影響を理解するには、ハマスが 10 月 7 日に奇襲攻撃を開始する直前の地政学全体の状態を思い出すことが重要です 。

 

ハマスが攻撃する前、米国とその同盟国はウクライナでロシアに対する代理戦争を行っていました。

彼らの目標は、ロシアが占領した領土からロシアをウクライナが追い出すのを支援し、将来同様の行動をとれないほどロシアを弱体化させることでした。

しかし、戦争はうまくいきませんでした。

米国はまた、ハイテク分野における中国政府の支配を阻止することを目的として、中国に対して事実上の経済戦争を仕掛けていました。

米国は中国を主要な長期的ライバルとみており、バイデン政権はこの課題により一層集中するつもりでした。 

中東では、バイデン政権は複雑な外交工作を成功させようとしていました。

サウジがイスラエルと関係を正常化することと引き換えに、おそらく機密性の高い核技術へのアクセスを許可することで、サウジアラビアが中国に近づくのを思いとどまらせようとしていました。

 

そして10月7日が来ました。

1,400人以上のイスラエル人が惨殺され、現在ガザ地区では4,000人の子供を含む1万人以上がイスラエル軍の砲撃で命を落としています。

この悲劇が地政学と米国の外交政策にとって何を意味するのかを見てみましょう。

 

まず第一に、戦争は米国主導のサウジとイスラエルの国交正常化の取り組みに大きな打撃を与えました(そしてこの取り組みの防止は間違いなくハマスの目標の一つだった)。 

 

第二に、この戦争は、中東に費やす時間と関心を減らし、より多くの関心と努力をアジアに移すという米国の努力を妨げるでしょう。

サリバン安全保障担当補佐官は、中東に対する米国政権のアプローチによって「他の世界的な優先事項に資源が解放される。」と最近Foreign Affairsで主張しましたが、事態はそうなりませんでした。

 

最近の中東での紛争は、台湾、日本、フィリピン、あるいは中国からの圧力の増大に直面している国々にとっては良いニュースではありません。

現在、2隻の米空母が東地中海に展開しており、米国の注目がそこに釘付けになっているため、アジアで事態が悪化した場合に効果的に対応する能力は必然的に損なわれます。

 

そして、覚えておいてください、

私はガザでの戦争がレバノンやイランまで拡大することはないと想定しています。

その場合、米国や他の国々は新たな危険な状況に追い込まれ、さらに多くの時間、資源を拘束されることになります。

 

第三に、ガザ紛争はウクライナにとって災難です。

ガザ紛争が報道の大半を占めており、ウクライナ援助への支持を集めることが困難になっています。

下院共和党はすでに躊躇しており、最近のギャラップ世論調査によると、現在米国人の41%が米国がウクライナに過剰な支援を与えていると考えています。

 

しかし、問題はそれよりもさらに大きいのです。

ウクライナ紛争は激しい消耗戦となっており、それは大砲が戦場で中心的な役割を果たしているということを意味します。

しかし、米国とその同盟国はウクライナの需要を満たすのに十分な兵器を生産できず、そのため米国政府はウクライナでの戦闘を維持するために韓国とイスラエルの備蓄を放出せざるを得なくなりました。

イスラエルが戦争状態にある今、本来であればウクライナに送られるはずだった砲弾やその他の兵器の一部を彼らは手に入れることになります。

 

欧州連合にとっても悪いニュースです。

ロシアのウクライナ侵攻は、多少の摩擦はあったものの欧州の結束を高めました。

しかし、ガザでの紛争は欧州の分裂を再燃させ、一部の国はイスラエルを無条件に支援する一方で、(ハマスにはではないが)パレスチナ人により多くの同情を示している国もあります。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長とEUのトップ外交官ジョゼップ・ボレル氏との間にも深刻な亀裂が生じており、約800人のEU職員がフォンデアライエン氏がイスラエルに偏りすぎていると批判する書簡に署名したと伝えられています。

戦争が長引けば長引くほど、こうした亀裂はさらに広がるでしょう。

これらの分裂はまた、欧州の外交的弱さを浮き彫りにし、世界の民主主義諸国を団結させると言う目標を損ないます。

 

西側諸国にとっては悪いニュースですが、これはロシアと中国にとっては非常に良いニュースです。

彼らの観点からすれば、ただ傍観して米国の失策が積み重なるのを見ていられる場合には、米国の注意をウクライナや東アジアからそらすものは何でも望ましい。

以前のコラムで述べたように、この紛争はまた、ロシアと中国が米国主導の体制に対して長年唱えてきた多極化世界秩序について、新たな根拠を与えるものです。

彼らは、米国が過去30年間中東を管理した結果、悲惨なイラク戦争、イランの潜在的な核能力、イスラム国家の台頭 、イエメンの人道災害、リビアの無政府状態、そしてオスロ和平プロセスの失敗を引き起こしたと指摘すればすみます。

彼らは、10月7日のハマスの残忍な攻撃は、米国が恐ろしい襲撃から親しい友人たちを守ることさえできないことを示していると付け加えるかもしれません。 

 

さらに先を見据えると、戦争とそれに対する米国の対応は、今後しばらくの間、米国の外交官たちに対して足枷となるでしょう。

ウクライナ危機に関する米国と西側の見解とグローバル・サウスの多くの人々の態度との間には、すでにかなりの隔たりがありました。

ハマスの攻撃に対するイスラエルの過剰な対応がその溝を広げているのは、米国や欧州よりも世界の他の国々でパレスチナ人の全体的な窮状に対する同情がはるかに多いためです。

 

戦争が長引き、パレスチナ民間人がより多く殺されるほど、その同情はさらに高まるでしょう。

あるG7国の上級外交官は先月フィナンシャル・タイムズ紙に次のように語りました。  「私たちが(ウクライナをめぐる)グローバル・サウスと行ってきたすべての努力は水疱と帰しました。 彼らは二度と私たちの言うことを聞くことはないでしょう。」

この見方は誇張されているかもしれませんが、間違いではありません。

 

さらに、欧米の外にいる人々は、西洋人の選択的な注意に悩まされています。

中東で新たな戦争が勃発し、西側メディアは完全に戦争に巻き込まれ、一流新聞は無数のページを割いて記事や解説を掲載しています。

しかし、この最新の戦争が勃発したまさに同じ週に、コンゴ民主共和国でおよそ700万人が避難民となっており、そのほとんどがそこでの暴力によるものであると国連は報告しました。

この話はほとんど西側メディアに取り上げられませんでした。

 

グローバル・サウス諸国は、西側の偽善に対する怒りや苛立ちにもかかわらず、粛々と自国の利益に従い、米国や他国と取引を続けるでしょう。

しかし、我々が主張する規範や人権について彼らがほとんど注意を払わなくなることを理解する必要があります。

より多くの国々が中国を米国政府に対する有用なカウンターバランスと見なし始めても驚いてはいけません。

我が国の国益は

「西洋人の選択的な注意に悩まされている」とは言い得て妙で、これは欧米が自分の関心のないものには冷淡である事を指しています。

彼らにとってはコンゴ共和国の難民などどうでも良いのでしょう。

しかし国益に沿って関心事を選択しているのは西欧だけではありません。

グローバルサウスの国々もこの意味では同じです。

我が国の最近の動きに関して少し気になるのは、欧米の関心事に政府は同調し、メディアも欧米のメディアに右へ倣えする点です。

フランスのマクロン大統領がNATOの事務所を日本に設立すると言う動きに対して、「NATOは欧州の安全保障に関する機関であり、アジアは対象地域ではない」と反対したのと対照的に、日本政府はウクライナの復興会議を東京で行うと公表しました。

ウクライナの復興に参加するなとは言いませんが、少なくともウクライナ問題は日本の核心的国益とは言えません。

欧州が主体となって復興をサポートすべき話です。

決して財政的余裕があるとは言えない今、国民の血税の使い道は他にいくらでもあるのではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。