政府内部の不協和音高まる
パレスチナ紛争の煽りを受けて、国際メディアの扱いが随分小さくなったウクライナ戦争ですが、戦いは続いています。
しかし厳冬期を迎えた戦場はこう着状態となり、ウクライナ軍が半年前に始めた攻勢はこれといった領土回復には繋がらなかった様です。
そんな中、英誌Economistがウクライナ政府と軍の間の不協和音が高まった事を伝えています。
「Russia is poised to take advantage of political splits in Ukraine」(ウクライナの政治的分裂を利用するロシア)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
キエフではますます政治的対立が深刻化しています。
2022年2月にロシアが侵攻を開始すると、政治対立は休止状態に入りましたが、与党の有力議員はウクライナはすでに「不安定」になっていると認めました。
そして「意思決定を一本化」し「反対意見を封じ込める」という大統領の試みは逆効果を産んでいます。
最も憂慮すべきことに亀裂は軍と政治指導部の間にも生じている。
ゼレンスキー大統領とその最高司令官ザルジニー将軍との関係は最悪であることが知られています。
エコノミスト誌による最近の将軍へのインタビューでは、将軍がウクライナ戦争は膠着状態に達していると告白し、その問題が白日の下にさらされました。
ゼレンスキー氏は将軍を公に叱責しました。
政府高官は、指導部内での公然とした対立は「計画通りに進まなかった」反撃作戦の停滞による「予測可能な」結果だったと示唆しています。
同高官は、ザルジニー将軍が大統領の主張を否定する様な発言を行った事は賢明ではなかったかも知れないが、政府内で彼の冷静な意見に異論を唱える人はほとんどいないと述べました。
誰が失敗の責任を負うのかをめぐって、責任のなすり合いが進行中です。
ザルジニー氏は政治的野心を表明していませんが、 だからといって、同氏がゼレンスキー氏にとって脅威にならないわけではありません。
2019年まで喜劇役者として活躍していた大統領は、ウクライナ社会がいかに簡単に指導者を生み出したり潰したりできるかを知っています。
エコノミスト誌が確認した国内世論調査によると、かつては賞賛された大統領が、政府内の汚職スキャンダルや国の行方への懸念によって支持率を大幅に低下させています。
11月中旬のこの数字は、大統領への信頼度が32%に低下し、将軍ザルジニー氏(+70%)の半分以下であることを示しています。
同じ世論調査は、ゼレンスキー氏がザルジニー将軍と直接対決した場合、大統領選挙で敗北するリスクがあることを示唆しています。
今のところ、ウクライナ人の10人中8人が、本来来年3月に予定されている選挙を実施するという考えそのものに反対しています。
大統領も戒厳令を理由にその可能性を否定しました。
しかし、評価が下降傾向にあるため、考えを変えるよう説得されるかもしれません。
選挙が行われなければ、ロシアのプロパガンダが間違いなく効果を発揮するでしょう。
ウクライナ情報筋によると、ロシアはすでに政治的緊張を利用しようとしている様です。
彼らの狙いは西側への信頼を損ない、ウクライナ国内での不満を増幅させることです。
同氏によると、ウクライナ軍兵士向けの別の偽情報キャンペーンがあり、さまざまなレベルの指揮官が部下に降伏を勧めているフェイク動画も流されている様です。
政府高官は、ロシアのプロパガンダが勢いを増しているのは、ウクライナの汚職や非力な経済が理由の一部である事を認めています。
しかし、大統領が追い出された場合に得をするのはロシアだけです。
最前線では、ロシアは比較的有利に戦いを進めています。
貧困層や刑務所から人材を投入することで、人的資源の需要を満たしています。
対照的に、ウクライナは一般国民の動員に苦戦しています。
しかも、開戦時とは異なり意欲的な新兵はほとんどおらず、募集定員を満たすのはますます困難になっています。
戦争の行方に対する内外の疑念は、前線の兵士たちにも伝わり始めています。
彼らは、少なくともまだ、行動や士気を大きく変えていないようです。
「攻撃を受けている人々は、ザルジニー氏がゼレンスキー氏と口論したかどうかなど気にも留めなかった」とある指揮官は語りました。
「ロシアは私たちに生か死かという単純な問いかけをしている。 キエフやワシントンで何が起こっても、私たちは戦い続けるだろう。」と。
ザルジニー将軍が発信したメッセージ
Economist誌が先月記載したザルジニー将軍の独占インタビューの内容には驚かされました。
奪われた領土は何が何でも取り返すと主張するゼレンスキー大統領のトーンとは全く違い、「戦線は膠着しており、現在欧米から与えられている武器ではロシア軍を撃退できない。持久戦に入ればウクライナは兵隊も砲弾も不足する」と赤裸々に語ったのです。
明らかに大統領の了解を得ずして、ザルジニー将軍はEconomistのインタビューを受けたものと思われ、将軍は確信犯としてメッセージを内外に発信したものと思われます。
将軍の狙いは「このまま戦争を続けても、ウクライナに勝ち目はない。徹底抗戦を主張する大統領は言っても聞かないので、国内外からプレッシャーをかけるしかないだろう。大統領の方針を続ければ、ウクライナに若者がいなくなる」といったものではないかと推測します。
今回のウクライナ戦争について、ウクライナの様な小国も攻めきれないロシアの弱さが露呈したとコメントする識者が多く見られますが、筆者は寧ろロシアが善戦していると見ています。
なぜならこの戦争は欧米がロシアを相手にウクライナで代理戦争を行なっていると見ているからです。
筆者も欧米の最新型兵器を持ってすれば、ロシアは簡単にやられるのではと思っていましたが、ロシアは電子戦でも負けていませんし、何と言っても砲弾の数で圧倒しています。
西側の国は需要がない時には軍需工場も縮小されますが、ロシアの様な国は政府が一定の生産を確保するのでしょう。
西側諸国が課した経済制裁も、資源国のロシアには効きません。
逆にインフレで困っているのは制裁を仕掛けた側ではないでしょうか。
Economistの記事は前線の兵士は政府と軍部の対立に影響されていないとしていますが、これも影響が出てくるのは時間の問題と思われます。
おそらくザルジニー将軍は水面下で和平交渉を行っているのではと推測しますが、ウクライナとしては早期に和平に漕ぎ着け、復興ステージに入るべく行動を起こすべきではないかと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。