MIYOSHIN海外ニュース

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ウクライナ戦争どちらが勝っているのか

ウクライナ総司令官の本音

2年近く続くウクライナ戦争ですが、現在の戦況は実際のところどうなっているのでしょうか。

戦争に関するメディアの報道ほど当てにならないものはなく、これは民主主義国のメディアも例外ではありません。

戦争というものの性格上、支援している側の士気を削ぐ様な報道は出来ないことから、客観的な報道は消え失せてしまいます。

という事でこのブログでも偏った報道を紹介しても意味がないと思い、ウクライナ戦争に関するコメントはかなり控えてきました。

ところがここにきて、西側の報道内容に大きな変化が見えてきました。

これまでウクライナはロシア侵攻時の国境線までロシア軍を後退させ、更にはクリミアも取り返してロシアを敗北に追いやると主張し、これを西側諸国も裏書きしてきました。

しかし最近西側の主要メディアで、これとは全く違うExit案が提示される様になっています。

このきっかけを作ったのは先月英紙Economistで消耗戦はロシアに有利であると認めたウクライナ軍のザルジニー総司令官の発言かもしれません。

西側の支援疲れもあって、この戦争を如何に終えるかという観点からの報道が堰を切ったようになされる様になってきました。

米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)では「It’s Time to End Magical Thinking About Russia’s Defeat - Putin has withstood the West’s best efforts to reverse his invasion of Ukraine, and his hold on power is firm. The U.S. and its allies need a new strategy: containment.」(ロシア敗北という幻想を今こそ捨てよ - ロシアの侵攻を断念させるという西側の努力は実を結ばず、プーチンの権力基盤は磐石だ。米国と同盟国は封じ込めという新しい作戦が必要だ)と題する記事を掲載しました。

一方米誌Foreign Affairsには「Redefining Success in Ukraine」(ウクライナの勝利には再定義が必要だ)と題する論文が掲載されました。

かいつまんでこの二つの記事、論文をご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

プーチン氏は過去を振り返りながら悦にいることができるだろう。

中国とインドは、石油などのロシア産商品の輸入を増やすことで、ロシア経済の後ろ盾となっている。

プーチン氏は「グローバルサウス」の国々で受け入れられている。

米欧のダブルスタンダードや自国の問題が無視されていることに不満を持つ多くの国々にとって、ウクライナ戦争の重要性は非常に低い。

 

プーチン氏は、戦争を終わらせなくてはならないというプレッシャーを感じていない。

プーチン氏は、ウクライナに対する米欧の支援が細り、勝利宣言が可能な合意条件が纏まる事を期待している。

プーチン氏の視点に立てば、そのような合意をまとめる理想的な人物はトランプ氏であろう。

 

このような状況を総合すると、西側諸国の指導者たちは前例のない難題に直面していると言える。

西側諸国の指導者たちがまだ明らかに果たしていないことは、ロシアによる脅威が永続的なものだということを国民に率直に説明することだ。

西側諸国の指導者は幻想に浸りすぎていた。

ロシアへの制裁、ウクライナ反攻の成功、新型兵器の供与によってロシアを交渉の場に引きずり出せると考えていたのだ。

あるいは、プーチン氏が側近によるクーデターで打倒されることに期待してきた。

 

冷戦時代、米国の外交政策立案者たちは、旧ソ連体制が一夜にして崩壊したりすることに賭けることはなかった。

代わりに、国防と同盟国の軍事力に必要な投資を行うという長期的なビジョンを維持した。

それは米国の外交官だったジョージ・ケナンの言葉を借りれば、「ロシアの膨張傾向を忍耐強く、しかし断固として油断なく封じ込める」政策である。

米国とその同盟国は、この取り組みが長期にわたる事を覚悟する必要がある。

ウクライナ戦争が終結したところで、ロシアと欧州の対立が収まるとは思えない。

ウクライナ人は、安全が確保され、豊かで独立したウクライナの誕生を望んでいる。

しかしプーチン氏とその後継者たちは、それをロシアの究極の敗北とみなすだろう。

彼らはそれを全力で防ごうとする。

Foreign Affairs論文要約

ロシアの侵略を逆転させようとするウクライナの反撃は行き詰まっているようだ。

同時に、欧米双方で、ウクライナへの軍事的・経済的支援を継続するという意欲が損なわれ始めている。

こうした状況下、ウクライナとそのパートナー国が追求している現在の戦略を再定義する必要がある。

 

このような再定義は不快な真実を明らかにする。

すなわち、クリミアを含む領土の完全な回復は、近い将来、不可能という事である。

米国は、ロシアとの停戦交渉と、同時に軍事的重点を攻撃から防衛に切り替えるウクライナの戦略について、ウクライナおよび欧州のパートナーと協議を開始すべきである。

 

ロシアがウクライナの停戦提案を拒否する可能性は十分にある。

しかし、ウクライナが攻撃から防御に転換すれば、より多くの資源を長期的な防衛と再建に振り向けることが可能になり、達成可能な目標を提示する事で西側の支援を強化できるだろう。

長期的には、この戦略的転換がロシアを交渉のテーブルに引き摺り出すかもしれない。

 

ガザ紛争も世界の注目を集め、ウクライナ戦争は後回しにされている。

問題は、米国政府が注意をそらされているということだけではない。

米軍の資源は有限であり、米国の防衛産業基盤の生産能力はあまりにも限られている。

最近のランド大学の調査によると、国防アナリストらはすでにこの国の防衛戦略は「破綻している」と断言している。

 

ゼレンスキー大統領とウクライナ国民に方針を変えるよう説得することは、簡単な仕事ではないだろう。

しかし現実には、ウクライナの生存そのものを賭けた戦いとして始まったものが、クリミアとドンバス地域を奪還するための戦いに変わってきた。

それは単に勝ち目のない戦争ではない。

それはまた、時間の経過とともに西側諸国の支持を失う危険があるものでもある。

ウクライナにとっては、領土を取り戻すための長期戦で国の将来を危険にさらすよりも、豊かで安全な民主主義国家として浮上することを確実にする方がはるかに理にかなっている。

ウクライナが自国を防衛できる強靱な民主主義国として台頭すれば、ロシアは大敗北することになるのだから。

ロシアが停戦を受け入れる可能性

これは明らかな戦略の大転換です。

ウクライナにとっては、欧米に支援疲れが見え始め、ガザ紛争でウクライナへの関心が薄れる中、攻撃から防御へと軸足を移し、早期停戦を目指すというのは彼らにとって現時点でベストな戦略だと思います。

しかし消耗戦は、ロシアにとって願ったり叶ったりで、ロシアは現在の戦況を我に有利と思っているものと推測されます。

この様な状態で、ロシアが和平交渉のテーブルに付く可能性はあるのでしょうか。

ウクライナ側よりも多数の戦傷者をだしているのだから、ロシアも早期和平を望んでいるのではと思われる方も多いかと思いますが、ロシアは人的犠牲を厭わない国です。

第二次世界大戦の一般市民を含めた戦死者は旧ソ連が圧倒的で3000万人に上ると言われます。

米国は自国が戦場にならなかった事もあり、戦死者は30万人程度ですから、ソ連はその100倍の死者を出しています。

この伝統は今も引き継がれており、ウクライナが余程の条件を呑まない限り、ロシアは戦争を続けるものと思われます。

西側は冷戦時代の東西ドイツ、南北朝鮮の経験をもとに、ウクライナを経済的に強力な国家に育て上げ、ロシアが占領する地域との経済格差を広げるというシナリオを描いていると思います。

しかしロシアがその様なシナリオが実現するのを易々と許すとは思えません。

 

封じ込めに関して上記WSJ記事は米外交官ジョージ ケナンの発言を引用しています。

冷戦という言葉を初めて使用したケナンは確かに封じ込めの重要性を主張していますが、一方でNATOの東方拡大は非常に危険でありその採用を戒めた事でも知られています。

今回のウクライナ戦争が始まった理由についてはロシアの侵略主義のみが主因として取り上げられる事が多いのですが、ナチスの侵攻によって3000万人の死者を出したロシアから見れば、ウクライナのNATO加盟は踏んではならないレッドラインだったのではないでしょうか。

キューバ危機の際、ソ連のミサイルがキューバに設置された事に米国は反発し、あと一歩で第三次世界大戦というところまで行きました。

ウクライナがNATOに加盟するという事はキューバにロシアのミサイルが設置される事とほぼ同義です。

ウクライナはNATOに加盟しない限り、本当の意味での安全保障は確保されませんが、NATO加盟自体がロシアの開戦事由になってしまうというジレンマを孕んだ国なのです。

ウクライナをNATOの加盟候補国とした2008年のブカレスト宣言が今回の戦争の遠因を作った様に思えます。

この宣言が一因となって自国が戦場となっているウクライナは本当に不幸だと思いますが、ロシアという隣国を取り替えるわけにいかず、折り合いをつけていくしか方法がなさそうに思えます。

最後まで読んで頂き、有り難うございました。